定款には、会社が行う事業の内容に応じた事業目的を記載する必要があります。
事業目的は、融資や社会的信用にも関わる重要な事項のためよく検討したうえで決定しなければなりません。
また、一度定めた事業目的を変更する際は所定の手続きが必要です。
今回は、事業目的の決め方や記載例、変更の手続きをご紹介します。
事業目的違反への対策もご紹介しますので、事業目的のことで悩みを抱えている方はぜひ参考にしてみてください。
定款の事業目的とは
定款に記載する事業目的とは、文字通り会社が行う事業の目的をいい、登記簿謄本にも「目的」の項目で記載されます。
事業目的は、商号や本店所在地等と同様に絶対的記載事項に位置付けられます。
絶対的記載事項の項目は、記載しないと定款自体が無効になってしまうため、必ず記載しなければなりません。
決めるべき3つのポイント
絶対的記載事項である事業目的を決定する際は、以下3つのポイントが重要です。
明確性
前述の通り、定款に記載した事業目的は、登記簿謄本にも記載されます。
登記簿謄本は取引の安全のため公に公開されるものです。
そのため、事業目的は取引の安全が確保されるよう第三者が見ても理解できるような記載が求められます。
分かりにくい内容やあまりにも広範な事業目的を記載してしまうと、その会社が何をやっている会社なのか分からず、信用を得られなくなってしまいます。
誰が見ても分かるよう、事業目的は明確な記載を心がけましょう。
営利性
株式会社や合同会社など、会社と呼ばれる組織は利益をあげるための組織です。
そのため、会社の事業目的は利益をあげられる営利性のあるものでなければなりません。
慈善活動やボランティアといった営利性のない活動を事業目的とすることはできないのです。
合法性
当然ですが、事業目的は合法な活動でなければなりません。
「殺人」、「詐欺」、「密輸」、「麻薬の栽培」など、法令や公序良俗に反する活動を事業目的とすることはできません。
また、後述しますが、会社は事業目的の範囲内でのみ活動できこれを超えた行為は事業目的違反となってしまいます。
事業目的を検討する際は合法性の点も意識しましょう。
融資にも関わってくる
金融機関から融資を受ける際、会社の登記簿謄本を提出します。
このとき、前述の3つのポイントを押さえていない事業目的が記載されていたら、金融機関はどのような印象を持つでしょうか。
この会社は信用できないと判断し、融資を断る可能性が高くなるでしょう。
事業目的として何を記載するかは融資にも関わってきます。
将来的な融資を見据えて事業目的を検討しましょう。
記入する事業目的の数
記入する事業目的の数に、法令上の決まりはないので自由に数を決められます。
しかし、少なすぎると本当に事業を行っている会社なのか怪しまれてしまいますし、逆に多すぎると何をやっている会社なのか分からず取引の安全を害することとなります。
そのため、事業目的の数は多くても15個までが望ましいでしょう。
許認可の必要な事業
業種によっては、許認可など然るべき手続きが必要なものもあります。
建設業、人材業やリサイクルショップの運営は許認可が必要な業種の代表例です。
そして、許認可を得るためには定款にこれらの業種を事業目的として記載しなければなりません。
事業目的の記載方法があらかじめ定められている業種もあるので注意しましょう。
事業ごとの事業目的記載例・一覧
ここでは、許認可が必要な建設業と人材業(労働者派遣事業・職業紹介事業)について、事業目的の記載例をご紹介します。
建設業の場合
建設業では、建設業法により29の業種が定められています。
そのため、理想的なのは自分の会社が行う業種を29業種の中から選択し記載することです。
例えば、以下のような記載となります。
- 1.土木工事業
- 2.左官工事業
- 3.とび・土木工事業
しかし、多くの業種を行いたい場合、建設業だけで最大29もの事業目的を記載することになります。
これを定款や登記簿に反映した場合、冗長な印象を持たれてしまいます。
そこで、数種類の業種をカバーできるようある程度抽象的に記載する方法もあります。
例えば、以下のような記載となります。
- 1.建築工事の請負、施工
- 2.土木工事の請負、施工
このように記載すれば、形式的には29種類の業種をすべてカバーできます。
抽象的な記載をする場合、法令の文言と区別するためにも「業」の文字は記載しない方がよいでしょう。
人材業の場合
労働者派遣や職業紹介といった人材業を行う場合、それぞれの根拠法を明記しておくのがベターです。
労働者派遣であれば「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(定款へ記載する際は「労働者派遣事業法」でOK)、職業紹介であれば「職業安定法」となります。
記載例は以下のようになります。
労働者派遣
労働者派遣事業法に基づく労働者派遣事業
職業紹介
職業安定法に基づく有料職業紹介事業
定款の事業目的に違反したらどうなる?
ここまで、定款の事業目的の決め方について解説してきました。
続いて、定款の事業目的に違反した場合(定款に記載のない活動を行った場合)にどうなるか解説します。
法律的な罰則はない
まず、定款の事業目的に違反しても刑事罰や行政罰を受けることはありません。
事業目的違反に対する法律上の罰則はないのです。
他方、民法においては、会社が行った活動が事業目的に違反している場合、当該活動は無効となります。
無効と判断されると、当該活動によって利益や商品を返還するなど、当該活動がされる前の状態に戻す(原状回復)必要が生じかねません。
取引関係が非常に不安定になり、自社内での取り扱いに混乱が生じ取引相手にも迷惑をかけてしまいます。
事業目的違反が問題となる場合
事業目的違反とは、会社が事業目的として記載されていない活動を行うことを言います。
事業目的違反が問題となるのは、 株主や債権者等のステークホルダーが、会社の資力を確保するために会社が行った行為の無効を主張し原状回復を請求するケースが多いです。
例えば、会社の代表取締役が会社の不動産を相場より安価で売却した場合です。
相場より低い価格で売却しているため、会社の資力は減少してしまいます。
このような場合に、その会社の株主や債権者が事業目的違反を理由に売却の無効を主張し不動産を会社へ返却するよう請求するのです。
事業目的違反をしないための対策
事業目的違反を犯さないよう、定款の事業目的の記載を工夫し対策を講じる必要があります。
具体的な対策としては、以下2点が挙げられます。
- 将来行う予定の事業も記載する
- 事業目的の最後に包括的な文言を記載する
まず1点目、将来的に展開する予定のある事業も目的として記載しましょう。
会社を設立する時点では実際に事業を展開する目途がたっていないものの、将来的には行う予定の事業がある場合は事業目的として定款に記載しましょう。
こうすることで、広範な事業をカバーでき、実際に事業を展開するに至ったときに定款変更する必要がなくなります。
2点目、事業目的の最後に包括的な文言を記載しましょう。
具体的には、「全各号に付帯関連する一切の事業」などといった文言を記載します。
このような包括的な文言を記載することで、会社が行った行為が定款の事業目的の範囲内であるとの解釈がしやすくなります。
業種や会社の規模を問わず、ほとんどの会社では包括的な文言を記載しています。
定款を変更するときの手続きの流れ
次に、定款変更の手続きの流れをご紹介します。
定款の変更には以下に記載する所定の手続きが必要です。
元の定款の書き換えはしない
まず前提として、「定款変更」というものの、実際に行うのは既にある定款(原始定款)の書き換えではありません。
株主総会の特別決議で定款変更を決議し、変更の内容を総会議事録として保存することが定款変更なのです。
特別決議を得るためには、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。
定款変更は会社の根本的なルールの変更を意味するため、普通決議よりも決議要件が加重された特別決議が要求されます。
定款変更=株主総会の特別決議+議事録の作成と覚えておきましょう。
なお、会社設立のときと異なり公証役場での定款認証は不要です。
法務局で必要な書類と手続き
変更する定款の内容によっては、前述の株主総会の特別決議・議事録作成に加えて法務局での登記が必要なものもあります。
事業目的は、登記簿謄本に記載され公に公開されるため法務局での登記が必要です。
事業目的について定款変更するためには、まず株主総会を開催し定款変更について決議しましょう。
そして、決議内容が明らかとなる議事録を作成します。
この議事録は法務局での登記を行う際に提出する書類のため正確に記載しなければなりません。
続いて、必要なものを準備して法務局にて登記を行います。
登記のために準備するものは以下4点です。
- 登記申請書
- 株主総会議事録
- 収入印紙添付台紙
- 登録免許税3万円
登記申請書の記載方法は法務省のホームページにて確認できます。
実務上、事業目的の変更を行うのは、許認可が必要な事業を新たに行おうとする場合が多いです。
このとき、あらかじめ許認可の主体となる自治体等に対し事業目的の記載方法を確認しておくとよいでしょう。
誤った事業目的を記載してしまった場合、定款変更に費やした時間や費用が無駄となってしまいます。
定款を作成される際にはご相談ください
この記事では、定款を作成する際の事業目的の決め方や定款変更の手続き、事業目的違反などについて解説しました。
事業目的は、融資や企業の社会的信用にも関わる重要な事項です。
また、建設業や人材業など、許認可が必要な事業を展開する場合は定款への事業目的の記載が必須です。
このように、定款を作成するためには会社設立後を見据えた専門的な法的知識が求められます。
さらに、いったん定款に記載した事業目的を変更する場合は、株主総会の特別決議や法務局での登記といった面倒な手続きを行わなければなりません。
会社設立の時点で専門的知識に基づき完成された定款を作成しておけば、事後的な変更に必要な時間・費用を節約できます。
将来的な観点から見ても、定款作成には専門的な法的知識が必要といえます。
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