法人化(法人成り)は、節税、社会的信用向上などさまざまなメリットを得ることができると言われています。
個人事業主として事業を運営されている方の中には、そろそろ法人化をしたいと考えている個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、法人化のよりメリットが得られやすい分岐点、最適なタイミングについて詳しく解説していきます。
目次
なぜ法人化が必要なのか?
そもそも、なぜ法人化は必要なのでしょうか。
法人化(法人成り)とは、個人事業主として業務を行っている事業者が株式会社などの法人に切り替わり、事業を引き継いでいくことをいいます。
0からの会社設立とは異なり、個人事業主での事業、資産などを引き継ぐことができるため、より有利に法人としてスタートすることができるのです。
さらに、個人事業主の際には得られなかった、さまざまなメリットを得ることができるため、ある一定以上の利益が見込める状態かつ事業拡大させる予定があるのであれば、法人化を行うべきだと言われています。
法人化する分岐点の考え方
どこを分岐点に法人化を進めるべきかというと、法人化によって発生する費用などの負担以上にメリットが見込めるタイミングを狙うのがベストです。
個人事業主にかかる所得税は、法人にかかる法人税に比べて収益が多ければ多いほど高くなります。
また、収益が上がるにつれて課税対象となる税金が増えることもありますので、あらゆる点を考慮して分岐点を見極めることが大切です。
「いろいろ考えるのは面倒だ」という方は、無料で利用できるシミュレーションサイトもあるので、一度試してみてはいかがでしょうか。
分岐点を見極める判断材料になると思います。
個人事業主と法人での税金の違い
法人化の最大のメリットともいえる、節税効果から分岐点を考えるとすると双方にかかる税金を比較して、今後の節税効果が高いタイミングが最適な分岐点と言えます。
個人事業主と法人とでかかる税金では、下記に記載の◎部分が異なり、計算方法も違います。
特に異なる「所得税」、「法人税」の違いについては税率を記載しておりますので参考にしてください。
- 個人事業主にかかる税金や税率
- 法人(株式会社)にかかる税金や税率
個人事業主にかかる税金や税率
個人事業主では、主に「消費税」、「住民税」、「所得税◎」、「個人事業税◎」がかかります。
所得税の税率は5~45%で所得額が多いほど上がっていきます。
【年間の所得金額による税金率の違い(個人事業主)】
1千 ~194.9万円 |
5% |
195 ~ 329.9万円 |
10% |
330~ 694.9万円 |
20% |
695 ~ 899.9万円 |
23% |
900 ~ 1799.9万円 |
33% |
1800~ 3999.9万円 |
40% |
4000万円 ~ |
45% |
法人(株式会社)にかかる税金や税率
法人にかかる税金は、主に「消費税」、「法人住民税」、「法人税◎」、「法人事業税◎」がかかります。
【年間の所得金額による法人率の違い(株式会社)】
普通法人で資本金1億円以下の法人など 800万円以下15%(適応除外事業19%)。800万以上は23.2%。
引用:国税庁No.2260 所得税の税率|国税庁 (nta.go.jp)/No.5759 法人税の税率|国税庁 (nta.go.jp)
事業拡大につながる法人化の分岐点とは?
ここまでの内容をもとに、法人化の分岐点を見極めていきましょう。
特にねらい目と言われている分岐点は以下の2つになります。
- 分岐点①年間利益700万円~800万または月の粗利60万円を超えたタイミング
- 分岐点②年間利益1,000万円を超えたタイミング
分岐点①年間所得700万~800万円または月の粗利60万円を超えたタイミング
一般的に、個人事業主の所得が700万円~800万円を超える、または月の粗利が60万円を超える時が分岐点だと言われています。
この段階からは、実質的に利益が出始めると言われており、事業拡大の可能性が見込めるからです。
既に記載した「個人事業主と法人での税金の違い」をもとにシミュレーションし、節税効果を見ることができるのであれば、年間所得700~800万円または粗利60万円以上のタイミングを分岐点として法人がするのがおすすめです。
分岐点②年間所得1,000万円を超えたタイミング
年間所得1000万以下であれば、個人事業主は消費税の免税事業者となり納税義務が免除されます。
しかし、1000万以上になると課税対象となるため、ここを分岐点とすると言う考え方もあります。
なぜなら、ここで法人化するとさらに2年間消費税の免税事業者とされるからです。
ただし、条件によっては適応されない場合もありますので、条件に該当するか事前に確認をする必要があります。
【消費税の免税事業者に該当しない例】
- 資本金または出資が1,000万円以上
- 法人化2年以内の特定期間(前年の1月1日~6月30日)の課税売上高が1,000万円以上
法人化で得られるメリット
ここでは、法人化のメリットについてご紹介します。
法人化を行うと初期費用(登記、定款にかかる費用など)、社会保険への加入義務のような負担が増える部分もいくつかあります。
しかし、新たにかかる負担を超えるメリットを豊富に得ることができます。
個人事業主にはない法人のメリットをいくつか見ていきましょう。
◆ 節税対策になる(控除や特別償却などの優遇)。
◆ 社会的信用が上がる
◆ 事業、資産を引き継ぐことができる
◆ 損害の補填が有限になる
節税対策になる(控除や特別償却などの優遇)
法人化のメリット1つ目は節税対策効果です。
法人化を行うことで以下のような様々な節税メリットを得ることができます。
経費対象の幅が増える
経費をすべて事業活動のための支出として計上することができます。
給与所得控除を使える
経営者の給与が会社から支払う形になるため、給与所得控除を利用できます。
欠損金の繰越控除可能期間が延長される
赤字がでた年度の欠損金は、それ以降の数年で相殺できるようになっています。
個人事業主では控除可能期間が3年までですが、法人では、翌年以降10年間の繰り越しが可能です。
退職金制度も利用できる
個人事業主では利用できなかった退職金の支払いが可能になります。
さらに、退職所得控除が適用されます。
社会的信用が上がる
2つ目のメリットは信用度の向上です。
新しい顧客の獲得、求人募集、借入の審査など、信用度の高さが必要となる場面は山のようにあります。
法人化して社会的信用度を挙げることができれば、交渉が進みやすく、優秀な社員を集めやすいでしょう。
さらに、借入の審査も個人事業主と比較して通りやすいとも言えます。
そのため、事業を拡大するためには、社会的信用度の向上は必須項目ではないでしょう。
事業、資産を引き継ぐことができる
法人化は、個人事業主としておこなっていた事業・資産をそのまま引き継いで法人になることができます。
また、個人的な財産と法人の財産との区分が明確にされ、納税義務者が法人扱いとなるため、法人化後に引継ぎが必要となった際もトラブルを防ぐことができます。
例えば、個人事業主で代表者を変更する必要が出ると、一旦廃業手続きを行い、再度新しい代表者として開業しなおさなければなりません。
従業員も雇用しなおしとなります。
しかし、法人であれば代表者の変更手続きを行うのみ。万が一、代表者が突然亡くなってしまっても、銀行口座は法人名義なため凍結されて資金が引き出せないなどと言うこともありません。
法人化には、こういったトラブルを未然に防ぐメリットもあるのです。
損害の補填が有限になる
事業拡大のための法人化を考えている方々にとって、運営が立ちいかなくなった時の話など聞きたくはないかもしれませんが、事業が継続不可能になるという最悪の事態でも法人にはメリットがあります。
個人事業主であれば、損害の補填は無限責任であり、自己資産を差し押さえてでも行う必要があります。
しかし、法人であれば保有財産の範囲で損害を補填する有限責任となり、個人資産まで差し押さえられてしまうことを防ぐことができます。
法人化の具体的な流れ
法人化の手続きには手間や時間がかかるでしょう。
あらかじめ、綿密に計画を立て滞りなく準備を進めましょう。
具体的な流れはこのようになります。
◆ 取引先への連絡(設立の2週間~1か月前までに)
◆ 登記基本事項決定(商号、役員報酬、資本金などを決定します)
◆ 印鑑作成
◆ 定款作成・認証(認証は公証役場で行います)
◆ (定款では、絶対的記載事項として、商号、事業目的、本店の所在地、設立のために出資される財産の価格又 は最低額、発起人の住所・氏名、発行可能株式総数の6つに記載が必要です)
◆ 資本金支払い(支払い後、2週間以内に登記申請)
◆ 登記に関する必要書類の用意・署名
◆ 登記申請(法務局)
◆ ※定款認証、登記免除税などに約20万~25万必要(電子定款の場合、資本金含まず
以上で法人化手続きは完了です。
不備なく受理されれば提出日が会社設立日となります。
この後も、法人化後の手続きとして、法人用口座開設、個人事業主廃業届(法人化後1か月以内)、各種機関(税務署、年金事務所、ハローワークなど)手続き、各種変更手続き(預金通帳、契約の名義変更など)が必要です。
個人事業主廃業届は、法人化1か月以内までに納税地を所轄する税務署長へ届け出を行ってください。
各種機関への届け出にも期限が設けられているものや、事前に手続きが必要なものもありますので法人化前に事前確認を行い滞りのないように行ってください。
法人化で後悔しないために抑えたいポイント
法人化に年収の目安はありますが、これだけを意識すると後悔するケースがあるため、その点も理解していきましょう。
結果的に財務状況が悪化した
法人化することによって支出が増えてしまい、結果的に財務状況が悪化するケースがあります。
例えば、法人化する際には、法人登記のためのオフィスを用意しなければなりません
自宅住所で登記する人はいますが、個人情報が漏れないようにするため、オフィスを借りることも多いでしょう。
オフィスを借りるとなると、個人事業主時代にはなかった支出が発生し、これが財務状況を悪化させるのです。
また、社会保険料の支払いなど、法人として果たすべき義務がいくつもあり、これが財務状況を悪化させることもあります。
法人化の年収に目安はありますが、オフィスの家賃など固定費を鑑みることが重要です。
売り上げが悪化してしまう
法人化したものの売り上げが悪化してしまい、結果的に個人事業主の方が良かったというケースがあります。
上記でも解説した通り、法人化には年収の目安があり、これを割り込んでいる場合は、個人事業主がおすすめです。
負担する税金などが結果として少なくなり、法人化することによる節税効果を見込めません。
もし法人化してしまった後に、個人事業主にも売り上げが下がってしまうならば、手元に残るお金が少なくなるリスクがあるのです。
ただ、法人化した後に、個人事業主へと戻す作業は複雑であり、コストが生じるため、ここは注意しなければなりません。
経理作業のミスを起こす
個人事業主として活躍している際は、確定申告を自分で済ませることが多いでしょう。
自分で帳簿を作り、税務署へ提出する人が多いはずです。
法人化した後も同様に自分で対応する人が見受けられますが、個人事業主と法人では求められる経理の品質が異なります。
法人の方が遥かに難易度が高いため、知識がない状態で対応するとトラブルの原因となりません。
適切な確定申告ができていないことで、税務署から指摘を受け、追徴課税を受けてしまうケースもあります。
結果的に多くの税金を支払い、赤字へ転落するなどのことも考えられるため、最初から税理士などのプロに依頼しておくことが重要です。
まとめ
個人事業主から法人化を行うと様々なメリットを得ることができます。
しかし、分岐点を間違えるとメリットの威力が半減し、新たにかかる負担の方が大きく出てしまう可能性もあります。
現在行っている事業の状態、分岐点に達しているかを充分に考慮し、しっかりとシミュレーションしてから法人化を進めて頂ければと思います。
経営サポートプラスアルファでは、個人でも法人でも独立を少しでも考えている人のご相談に乗らさせていただいております。
相談は何度でも無料なので、お気軽にご相談ください。