個人事業主と会社には、それぞれメリット・デメリットが存在します。
今回の記事では、個人事業主と比べた会社設立の特徴を紹介していきます。
目次
個人事業主は会社法人を設立すべき?
ビジネスを運営するには、個人事業主として行う方法と、会社を設立して行う方法の2通りがあります。
現在個人事業主の方の中には、会社を設立するべきか迷っているという方も多いのではないでしょうか。
今回は、個人事業主と会社設立それぞれのメリット・デメリットを紹介し、どのようなタイミングで会社設立に踏み切るべきかを解説していきます。
会社設立のメリット
まずは、個人事業主から会社を設立することによるメリットを紹介します。
・信用が高まる
・節税効果が大きい
・資金調達の幅が広い
信用力が高まる
まず挙げられる大きなメリットは、社会的な信用力が高まることです。
社会的には、個人事業主は会社より印象が悪く、個人事業主とは取引をしない企業も存在します。
会社を設立して法人格を獲得することで、企業に対する営業活動や、社員の採用活動、銀行からの融資取り付けがしやすくなります。
節税効果が大きい
会社を設立すると、様々な税制上のメリットを享受出来るようになり、節税効果が見込まれます。
経費の幅が広い
会社は、個人事業主が経費として計上できる全ての項目を同様に計上出来るだけでなく、更に様々な項目も経費計上することが出来ます。
代表的なものが、「給料」と「住宅費」です。
会社では、個人事業主の場合では認められない自分への給料や自宅の賃料を経費として計上することが出来ます。
これらの経費は支出額が非常に大きいため、これだけでもかなりの節税効果が期待できます。
他にも、会社を設立することで保険料や日当などを経費計上することが可能になります。
所得税と法人税の税率の差がある
個人事業主の事業利益(所得)に課せられる所得税と、会社の事業利益に課せられる法人税では、税率に差があります。
まず、法人税の税率は課税所得800万円以下で15%、それ以上で23.9%です。
一方の所得税は、課税所得330万円までは10%以下ですがその累進性により330万円を超えると20%、695万円を超えると23%と増えていき、最終的に45%まで上昇します。
よって、所得税と法人税だけを見れば、課税所得が330万円を超えた段階で会社を設立した方が得ということになります。
赤字を9年間繰越できる
赤字の繰越には、節税効果があります。
つまり、赤字の額を翌年の利益からマイナス計上できるため見かけ上利益が減少し、納税額が減るという仕組みです。
会社では、この赤字の繰越を最大9年間行う事が出来ます。
一方で、個人事業主では最大3年間しか赤字を繰り越すことができません。
さらに、必ず白色申告ではなく複雑な青色申告を行う必要があります。
資金調達の幅が広い
前述の通り、会社を設立することによって社会的信用力が高まり出資を募りやすくなります。
また、株式会社を設立した場合は株式を発行することによって大規模な資金調達が可能になります。
会社設立のデメリット
社会的な信用や節税効果が獲得できる一方、会社設立にはもちろんデメリットも存在します。
・設立手続きに費用と手間がかかる
・会計・経理業務が煩雑
・社会保険へ加入する必要がある
・売上が赤字でも税金がかかる
設立手続きに費用と手間がかかる
個人事業主の開業手続きは一日かつ無料で出来る一方で、会社設立の手続きには多くの手間と費用がかかります。
会社設立の費用
株式会社を設立する場合、費用は最少で20万円です。
登録免許税15万円に加え、定款の認証手数料が5万円かかります。
また、定款を紙で作成する場合は更に収入印紙代や謄本手数料がかかる場合があります。
合同会社の場合は株式会社よりも費用を抑えて設立することが出来ますが、それでも登録免許税6万円は必須です。
会社設立手続きの流れ
まずは設立準備として発起人や所在地、商号などの基本事項を決定し、それを定款にまとめる必要があります。
その後、定款の認証や印鑑作成を行います。
そして最大11種類に及ぶ登記書類を作成個人でやろうと思えば最短でも一週間は必要です。
また、登記が完了した後も税務署や自治体に書類を提出し、社会保険への加入手続きを済ませる必要があります。
このように、会社設立の手続きは非常に煩雑です。
会計・経理業務が煩雑
会社の会計処理は会社法に則って適切に行う必要があるため、個人事業主のように個人で経理・会計業務を済ませるのは非常に困難です。
そのため、税理士などの専門家に依頼するのが一般的になっています。
社会保険へ加入する必要がある
会社を設立した場合は、必ず社会保険に加入しなければなりません。
未加入の場合、罰則を受けることもあります。
健康保険・厚生年金への加入
健康保険・厚生年金へはどんな会社でも加入する必要があります。
会社設立後5日以内に、年金事務所に申請する必要があります。
雇用保険・労災保険への加入
雇用保険・労災保険は従業員を雇っている会社のみ加入する必要があります。
売上が赤字でも税金がかかる
個人事業主の場合、利益がなければ税金はかかりません。
一方で、法人の場合存在するだけで法人住民税という税金がかかるため、赤字であっても毎年7万円を納める必要があります。
個人事業主のメリット
法人を設立せず、個人事業主として事業を行うことにはメリットがあります。
具体的には以下の3点です。
それぞれ解説します。
・手続きが簡単
・初期費用が安い
・働き方が比較的自由
手続きが簡単
個人事業主の場合、事業を開始するためには、税務署に「開業届」を出すだけです。
法人のように定款を作成して、役員を決めて、法務局に法人登記書類を提出して審査を待つ必要はありません。
よほど開業届にミスがない限り受理されます。
「青色申告承認申請書」の提出は任意になりますが、複式簿記ができるならば一緒に出しておいた方がメリットがあります。
最近では会計ソフトで簡単に開業届が作成できます。
税務署に持参、郵送、あるいは「e-tax」のシステムを使って電子申請も可能です。
初期費用が安い
個人事業主が開業するにあたっての初期費用は「0円」です。
一切お金はかかりません。
法人の場合、登記手数料や公証役場での定款認証手数料など10万円超のお金+資本金が必要です。
税務署へ行く交通費で済むので、手元にお金がない人は、個人事業主から始めても良いでしょう。
一定所得までは税金がお得
個人事業主にかかる税金は「所得税」です。
1年間の所得に応じて確定申告をし、その際に所得税を支払います。
一方、法人の場合は「法人税」になります。
法人税は均等割と言い、すべての法人にかかるものと、所得割と言って、所得(利益)に応じて払うものがあります。
所得(売上-経費)が800万円以下ならば個人事業主のほうが税金(所得税)は安く、800万円を超える場合、法人の方が税金(法人税)は安くなります。
1人でやっている個人事業主、フリーランスの場合「売上-経費」が950万円を超えることは稀なので、法人設立せず個人事業主でいる方がメリットがあります。
働き方が比較的自由
法人になると働き方が必ずしも束縛されるわけではありませんが、定款に記載された業務しかできませんし、株主総会、監査など毎年行わなければならない手続きがあります。
役員には任期があり、更新をする際は登記が必要になります。
一方個人事業主であれば、いつ、どこでどのように、どんな仕事をしても自由です。
すべて責任は自分にあるので、逆に結果さえ伴っていれば、ワーケーションのように旅行をしながら仕事を続けることも可能です。
自由で束縛されない働き方をしたい場合、個人事業主の方が様々な面で融通が利きます。
1年以上海外にいながら、確定申告だけe-taxで行うなんてこともできます。
法人の場合は株主総会などを開く義務があるのでそれは難しいです。
個人事業主のデメリット
一方で以下のように、個人事業主であるデメリットも存在します。
デメリットを解消したい場合、法人を設立するしかありません。
・社会的信頼度が低い
・利益が多いと税負担が大きい
・無限責任
社会的信頼度が低い
対外的な取引をする際「株式会社〇〇」と個人事業主「〇〇屋」(あるいは個人名)では信用度が全く違います。
法人化している事業者の方が圧倒的に信頼されます。
これは当然で、誰でも開業届を出せばなれる(もっと言うと出さなくてもなれる)個人事業主と、定款を作り登記をした法人では、後者の方がしっかり事業を営む意思があり、コンプライアンスも徹底していると思われます。
「法人以外とは取引をしない」というクライアントも存在します。
個人事業主では門前払いされてしまうわけです。
「この人、本当に事業を営む志があるなら法人化するはず」と取引先は思うでしょう。
また、金融機関から融資を受ける際も法人と個人では前者の方が評価は高くなります。
利益が多いと税負担が大きい
所得が少ないうちは個人事業主の方が得ですが、1000万円近くになると税額が、法人税<所得税となり、個人事業主でいた方が税金は高くなります。
もし、事業が順調で売上増が今後も期待できる場合、個人事業主のままでいると税額的には損をすることになってしまいます。
無限責任
法人の場合、役員も「有限責任」と言って、事業が失敗して負債が残ったり、倒産したりしても、経営者や役員個人に返済義務は発生しません。
しかし、個人事業主は「無限責任」と言って、個人の責任において、負債を全額弁済しなければなりません。
自己破産や家や不動産を売却しても、個人の財産をすべて弁済に充てなければなりません。
失敗したときの責任や人生に対するリスクは法人とは比べ物になりません。
これで人生が終わってしまうかもしれません。
会社設立と個人事業主の違い
個人事業主には様々なメリット、デメリットがあることをご紹介しました。
法人設立と個人事業主として事業を営む場合では、どのような違いがあるのでしょうか。
設立方法
最初に述べたように個人事業主として事業を開始する場合は、税務署に開業届を出すだけです。
一方、法人の場合は「定款の作成」「役員の選任」「法務局での法人登記」などいくつもの段階を経る必要があり時間がかかります。
設立方法は、個人事業主が平易で、法人が難しいということになります。
設立経費
こちらも最初に触れたように、個人事業主の場合は設立費用0円です。
一方法人の場合
法人設立の費用について、株式会社(新会社法の下)と合同会社の2種類の会社で比較してみました。
参考までに個人事業主の開業も記載しています。
株式会社の設立 | 合同会社の設立 | 個人事業主開業 | |
---|---|---|---|
定款用収入印紙代 (定款の提出の際の手数料。 電子定款では不要) |
40,000円 (電子定款の場合0円) |
40,000円 (電子定款の場合0円) |
0円 (不要) |
公証役場の証人に払う手数料 (定款の認証に必要) |
50,000円 | 0円 (定款の認証不要) |
0円 (不要) |
定款の謄本手数料 (紙の定款を登記する際に必要) |
およそ2,000円 (ページによる) |
0円 (不要) |
0円 (不要) |
登録免許税(登記に必要) | 150,000円 または 資本金額の0.7%のうち高い金額 |
60,000円 または 資本金額の0.7%のうち高い金額 |
0円 (不要) |
資本金 | 1円以上 | 0円も可能 | なし |
必要最低金額 | 200,000円+謄本手数料 | 60,000円 | 0円 |
資本金1円の株式会社を設立して、電子定款を作成したとしても最低20万円かかります。
0円と20万円では、全く違います。
合同会社の場合も、最低6万円かかるため、初期費用を考えると個人事業主になるでしょう。
税金
個人事業主は「所得税」、法人は「法人税」ですが、税金の根拠となる「所得」は「売上-経費」で算出されます。
その経費が認められる余地が法人の方が広いのです。
要はいろいろ経費で落ちるのが法人です。
例として、「福利厚生費」は1人で行っている個人事業主とは認められません。
スポーツクラブで汗を流すことは従業員の健康維持になり、法人の場合は経費で認められますが、1人の個人事業主の場合、ただのストレス解消やダイエットかもしれません。
ダイエット代を経費で落とすのは認められません。
個人事業主の場合、プライベートな支出なのか、仕事に必要な支出なのか、厳格にチェックされます。
信用
こちらも、個人事業主の場合は信用度が低く、法人の場合は信用度が高くなります。
特に顧客、取引先、金融機関vでその差は歴然としています。
よくわからない個人事業主が行っているネットショップで購入するのを躊躇うユーザーもいます。
一方「株式会社〇〇〇〇」が販売しているものならば、信用して購入する人が多いです。
会社(法人)であるか、ないかというのは非常に大きな違いになります。
会計・経理
個人事業主の会計は、青色申告をして複式簿記をしなければ、単式簿記の白色申告でも構いません。
会計ソフトを使えば比較的簡単にできますし、極端なことを言えば、エクセルでも構いません。
会計、経理、申告は専門家に頼らなくても1人で十分可能です。
一方、法人の場合は法人決算書を作成し申告しなければならず、加えて代表者個人の報酬も申告しなくてはなりません。
法人税、所得税、法人住民税、法人事業税等様々な税金に関わり、税理士や会計士などの専門家に決算書、申告を依頼する必要があります。
個人ではかなり大変です。
社会保険
個人事業主の場合、従業員5名未満のケースでは社会保険の会社負担分はありません。
一方、法人は従業員が1名でも会社として最低社会保障量折半の義務があります。
赤字の繰越
赤字を繰り越すことで翌年以降の納税額を下げることができますが、個人事業主の場合、赤字の繰り越しは青色申告承認申請書を出している人で3年です(白色申告の人は不可)。
一方、法人は9年まで赤字を繰り越すことができます。
事業の廃止
個人事業主の場合、事業を廃止したいときは「廃業届」を税務署に出すだけで済みますが、法人は法人の解散登記や解散の公告をしなければならず、費用と時間を要します。
法人はすぐには廃業できないということです。
会社設立に踏み切るタイミングとは
個人事業主の場合、現状の課税所得や、将来の事業計画によって会社を設立すべきタイミングを見極めることが出来ます。
課税所得が800万以上あるか
課税所得が330万円を超えると、所得税率が法人税率を上回るため、会社設立を検討すべきフェーズに入ります。
しかし、所得が330万円を超えたら必ず会社設立をすべき、というわけではありません。
なぜなら、会社を設立すると、会社設立費用、経理作業の増大、社会保険への加入など、様々なコストが追加でかかってくるからです。
これらのメリット・デメリットを天秤にかけると、おおよそ課税所得800万円を超えたら、会社設立をした方が得であると結論出来ます。
事業拡大をしたいか
一方、課税所得が800万円に満たなくても、会社を設立すべき場合はあります。
それは、「本気で事業の拡大をしていきたい場合」です。
本気で事業を拡大し、上場も視野に入れるのであれば、資金・人材が集めやすく信用の高い会社を設立する必要があります。
個人事業主が会社設立するためにやるべきこと
現在、課税所得が800万円未満の個人事業主でも、将来の事業拡張のため法人設立をしたいのであれば、以下のことをする必要があります。
法人設立の手続き
個人事業主として行っている事業の受け皿となる法人を設立します。
株式会社なのか、合同会社、合名会社、合資会社なのかで手続きは若干異なりますが、大きくは
・定款の作成
・公証役場で、法務局の定款の認証
・資本金の払い込み
・法人の設立登記
この4つの手続きを行う必要があります。
個人事業主を経由しない、全く新しい法人設立と同じ流れを行います。
費用も資本金を除いても株式会社で約20万円、合同会社で6万円~10万かかります。
一人でこれまでの事業を行いながらこれら手続きをするのは、なかなか大変かもしれません。
資産移行の手続き
これまでは個人の資産だったものを会社(法人)の試算にする必要があります。
一般的に、事業に関わるすべての資産などを、設立した法人に移すことが必要になります。
方法として以下の3つが挙げられます。
売買契約
個人事業主が新規に設立した法人に資産などを売却します。
個人としては売却益が発生し、法人は購入にあたって負債が増えることになります。
しかし、個人事業主として不動産業をやっていた人が法人化して、自分の不動産を法人に1万円で売るというような行為は脱税とみなされます。
不動産の評価額に応じた金額の設定が必要であり、贈与税なども発生するため、税理士等の指導なしでは相当難しい手続きとなります。
現物出資
個人事業主から金銭以外の資産を新規設立した法人に現物で出資します。
その結果として資本金が増えます。
資本金を口座への払い込み以外の方法を使って出資することができます。
法人に賃貸する方法
資産を個人の所有(名義)にしたまま法人に貸し付けます。
個人と法人で賃貸借契約を結び、法人は資産を有償で借りていることにします。
いずれの方法も、実質個人事業主と法人が同じ経営者であっても、全くの他人に資産譲渡、売買するのと同じ形式をとります。
ほとんど「自分から自分へ」であっても、無償の譲渡や格安の売買はできません。
個人事業廃業の手続き
会社の設立が完了したら最後に個人事業主としての廃業届を出して終了です。
具体的には、
税務署に対して個人事業の開業届出・廃業等届出書を廃業後1カ月以内に提出します。
事業税の納税をしている場合は、都道府県税事務素と市区町村窓口にそれぞれ事業廃止(廃止)等申告書を提出します。
加えて、青色申告をしていた個人事業主は、青色申告を取り消す届出書を、従業員を雇用していた個人事業主は「給与支払事務所等の廃止届出書」の提出が合わせて必要になります。
これらの一連の手続きが終わり、初めて個人事業主から法人への移行が完了します。
まとめ
会社設立にはメリットもデメリットもあり、個人事業主は会社を設立すべき、と一概に結論づけることは出来ません。
ただし、課税所得が800万円以上ある場合や、本気で事業拡大を志す場合は会社を設立することが大きなメリットになります。
該当する方は、一度会社設立を検討してみると良いでしょう。
しかし、会社を設立するのは、そう簡単ではありません。
印鑑の作成、定款の作成と認証、登記書類の準備など、煩雑な手続きを行う必要があります。
これらの手続きは個人で行うことも可能ですが、専門知識がない人では非常に時間がかかります。
また、書類に不備があり再提出になるケースも多いです。
おすすめは会社設立専門家の活用
しかし、専門家を活用することで、会社設立の手続きを短縮・効率化することが出来ます。
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