個人事業主が会社を設立して事業をしていく場合、それに伴って様々な手続きをしなければなりません。
会社の設立手続きや、税務の手続きなどがそれに該当します。
税務の手続きの中でも、設立後の実質の利益額に直結する重要な手続きが、「課税事業者の選択」です。
本来消費税を支払う必要のない会社が課税事業者を選択する場合、消費税課税事業者選択届出書を提出することで、消費税を納税する事業者になることができます。
これは、初めて法人を設立する個人事業主の方にとっては、一見よくわからない制度のように思えるかもしれません。
なぜなら、普通に考えて、支払う必要のない消費税をわざわざ納税する手続きをしてまで支払う必要がないからです。
また、そもそも「消費税を支払う事業者」「消費税を支払う必要がない事業者」という2種類の事業者がいることを知らない方も多いかもしれません。
今回は、なぜそもそも消費税を支払う事業者と支払う必要がない事業者がいるのか、そして支払う必要がないのに消費税を支払う手続きをする事業者がいるのはなぜか、を詳細に解説します。
利益を賢く確保したい事業者の方は必見です。
免免税事業者とは
まずは、消費税を支払う必要がない事業者、すなわち免税事業者と、支払う必要がある課税事業者との違いについてそれぞれ紹介します。
免税事業者とは
免税事業者とは、その名の通り、消費税を支払う必要がない事業者のことです。
売り上げが少ない小規模事業者の負担を抑える背景から、こうした免税事業者の制度が作られています。
このため、免税事業者は、基本的には売上高や資本金が少ない事業者に限られます。
課税事業者とは
課税事業者とは、消費税を支払う必要がある事業者のことで、免税事業者と対の概念です。
基本的には、免税事業者として認められる売上高や資本金の上限を超えた場合には、課税事業者となり消費税を支払わなければなりません。
一方で、免税事業者の条件を満たしている事業者であっても、消費税課税事業者選択届出書を提出することで、課税事業者になることができます。
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者では、年間の売上高を計算する経理の方法にも違いが生じます。
それが税込経理方式と、税抜経理方式です。
税込経理方式
税込経理方式とは、仕入れや売り上げに消費税の金額を組み入れて計算し、期末に消費税の金額をまとめて足し引きする経理方式になります。
メリットとしては、取引のたびにいちいち消費税を考慮する必要がなく、計算が楽という点が挙げられます。
また、消費税を納める必要がない免税事業者は、基本的にこの税込経理方式を採用します。
このため、免税事業者から課税事業者になったあとも税込経理方式を採用し続けることで、過去との比較がしやすいというのもメリットです。
一方でデメリットとしては、期中に計算されている売上高はあくまでも消費税をそのまま足し引きしている仮のものであり、正確な売上高は期末になるまで分からないという点が挙げられます。
税抜経理方式
税抜経理方式とは、税込経理方式とは対極的に、取引ごとに消費税を加味して正確な売上高を計算する経理方式です。
メリットとしては、取引ごとに正確な売上高を把握でき、期末に大きく変動することがない点です。
一方でデメリットとしては経理にかかる手間が挙げられます。
とはいえ、最近では経理ソフトなどの登場でこうした税金の処理を自動で行うことができるようになっているため、そこまでデメリットではなくなっています。
このため、免税事業者の期間が長く、課税事業者になったあとも過去と経理方式を揃えたいという場合をのぞいて、課税事業者になった場合は税抜経理方式を採用するのが賢明です。
免税事業者が課税事業者になるメリット
免税事業者と課税事業者の特徴を解説したところで、いよいよ「免税事業者が課税事業者になるメリット」を紹介します。
通常、納めなくてもよい税金をわざわざ納める手続きをする必要はありませんが、一部の事業者にとっては、課税事業者になった方が収支が改善するケースがあります。
そのケースが「売り上げよりも仕入れが極端に多い場合」です。
通常、税抜1万円分商品を仕入れた場合、仕入れ業者に対して支払う消費税は1,000円です。
また、その商品を税抜1万5000円で販売した場合、消費者から受け取る消費税は1,500円になります。
この場合、受け取った消費税1,500円に対し、すでに支払った消費税1,000円を引いた500円を納める必要があります。
しかし、初期に大幅な設備投資をする場合など、仕入れにかかる金額が売上を大きく上回る場合、支払う消費税>受け取る消費税になります。
この場合、課税事業者であれば、その分の差額の還付を受けることができるのです。
しかし、免税事業者の場合は支払う義務もない分、還付を受けることもできません。
つまり、「消費税の還付を受けることができる」というのが本来免税事業者の権利がある事業者が課税事業者を選択する理由になります。
初期投資が大きければ大きいほどこの還付の金額も大きくなってくるため、こうしたビジネスモデルで事業を展開しようと考えている事業者の方は、課税事業者を選択するのが賢明です。
・免税事業者は消費税を払わなくても良い事業者、課税事業者は消費税を払わなくてはならない事業者を指す。
・免税事業者と課税事業者では、経理の方法が異なっている。
・事業規模を拡大する際に還付を受けるためには、課税事業者になっておく必要がある。
課税事業者の条件
ここで、課税事業者と免税事業者に分かれる条件を改めて整理します。
以下の条件を満たしている事業者は必ず消費税を支払う課税事業者となります。
基準期間の売上が1000万円以上
原則として前々事業年度の「基準期間」の売上が1000万円以上の事業者は、課税事業者となります。
平たく言えば、「2年前に売上1000万円を達成している事業者は十分儲かっているから消費税を納めてね」ということです。
特定期間で売上1000万円以上を達成する
基準期間の売上が1000万円を満たしていなかったり、そもそも基準期間が存在しない新設事業者の場合でも、「特定期間(原則として前事業年度開始の日以後6ヶ月間)」の売上が1000万円を超える場合には課税事業者になります。
一定の要件をクリアする
上記の2つの条件を満たしていない場合でも、資本金が1,000万円以上の企業や、特定の大企業の子会社になっている企業の場合は、課税事業者となります。
つまり「資本金がたくさんあったり、大企業の子会社だったらまだ売上が経ってなくても余裕があるだろうから消費税を納めてね」ということです。
・課税事業者の条件は、2年前の売上が1000万円に到達していること、あるいは、前事業年度開始の日以後の6ヶ月での売上が1000万円を越えていることである。
免税事業者に戻る場合の届出
上記の課税事業者の条件を満たしていない事業者であっても、消費税課税事業者選択届出書を提出すれば課税事業者になることができます。
課税事業者になるメリットは上で述べた通り、「仕入れが売上よりも大きい場合、還付を受けることができるから」です。
一方で初期投資のフェーズが終わり、仕入れよりも売上が上回るようになってきた場合、再度免税事業者に戻ることもできます。
免税事業者に戻る条件
前提として、免税事業者に戻れるのは、その時点で免税事業者の条件を満たしている事業者に限られます。
初期投資が大きいことから課税事業者を選択したあと、事業が成長して売上が大きく伸び、課税事業者の条件に届いた場合には、当然ながら免税事業者に戻ることはできません。
また、課税事業者になったあとすぐに免税事業者に戻る、ということも出来ず、免税事業者に戻るためには2年間は課税事業者でいる必要があります。
届出の提出手続き
上記の条件を満たしている前提で、課税事業者から免税事業者に戻りたい場合は、税務署に消費税課税事業者選択不適用届出書を提出します。
・免税事業者に戻る条件は、課税事業者の条件に該当していないということである。
・免税事業者に戻るときは、税務署に消費税課税事業者選択不適用届出書を提出する。
インボイス制度の導入で何が変わる?
2023年から開始予定のインボイス制度で、課税事業者、免税事業者に大きな影響が出ることが予想されています。
ここでは、インボイス制度の詳細について説明します。
インボイス制度とは
インボイス制度は、別名「適格請求書等保存形式」と呼ばれています。
具体的には、所定の要件を満たした取引の動きを全て保存しておかなければならないということです。
背景としては、軽減税率により8%の消費税がかかるものと10%の消費税がかかるものが登場したため、全ての取引において税率を含めしっかりと記載しなければならなくなったという点が挙げられます。
インボイス制度の導入による影響
インボイス制度の導入による影響は、以下のようなものが考えられます。
課税事業者
課税事業者の場合、取引先に免税事業者が存在することが大きなデメリットになります。
理由としては、免税事業者からの仕入れはインボイスにあたらず、仕入額控除の対象にならないからです。
つまり、免税事業者に1,000円の消費税を支払い、その後商品を消費者に売って1,500円の消費税を受け取った場合、1,500円をそのまま納税しなければならないという事態に陥ります。
このため、インボイス制度が始まるまでには、免税事業者の取引先を整理するか、課税事業者になるよう要求する必要があります。
免税事業者
一方、免税事業者は取引先に課税事業者が多くいる場合、課税事業者になるよう圧力をかけられる可能性があります。
このため、本来課税事業者になりたくない場合でも、課税事業者にならざるを得ないケースが出てくるかもしれません。
・インボイス制度とは、所定の要件を満たした取引の内容を記録しなければならないという制度である。
・インボイス制度が導入される前に、取引先が課税事業者か免税事業者かを確認し、必要に応じて改めていく必要がある。
インボイス制度にどう対処すればいいのか
インボイス制度に対応するためには、以下のような準備を進めましょう。
現在と今後の事業規模を把握する
まずは現在を今後の事業規模を概算し、課税事業者になった場合どれくらいの出費が見込まれるのかを把握します。
適格請求書を発行する
インボイス制度に対応するためには「適格請求書発行事業者」として税務署に登録を行わなければなりません。
まとめ
今回は、免税事業者と課税事業者の違いについて解説しました。
個人事業主や法人の税金の問題は非常に複雑です。
上で述べた通り、免税事業者であっても課税事業者になるのがお得なケースもあれば、インボイス制度などで課税事業者を選択せざるを得なくなるような可能性もあります。
こうした複雑な税金周りの話を整理し、最適な事業形態を整えるためには、経営・財務の専門家に相談するのがオススメです。
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税金周りで悩みのある事業主の方、今後節税のために会社設立を検討している事業主の方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。