会社を設立したら、社会保険への加入は法律で義務付けられています。
「従業員がいないから不要」「最初は国民健康保険でいい」という考えは誤りです。
一人社長であっても役員報酬を受け取っている限り、健康保険・厚生年金への加入が必須です。
手続きの期限は設立後わずか5日以内と非常に短く、未加入のまま放置すると最大2年分の保険料を遡って請求されたり、助成金が受給できなくなるリスクもあります。
📋 この記事で分かること
- 会社設立時に加入すべき社会保険の種類と提出先・期限(一覧表)
- 健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険の手続きと必要書類
- 報酬額別の社会保険料シミュレーション(令和7年度・東京都)
- 社会保険料を合法的に抑えるポイント
- 未加入のリスクと強制加入の流れ
- よくある質問(FAQ)
目次
会社設立時の社会保険手続き:提出先・期限まとめ一覧
まず全体像を把握しましょう。会社設立時に手続きが必要な社会保険は以下の4種類です。
| 保険の種類 | 加入義務の対象 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 厚生年金 | すべての法人(役員報酬ありの場合) | 所轄の年金事務所 | 事実発生から 5日以内 |
| 介護保険 | 40歳以上の被保険者がいる場合 | 年金事務所 (健康保険に付随) | 健康保険の 手続きに含む |
| 労災保険 | 従業員を1人以上雇用した場合 | 所轄の労働基準監督署 | 雇用翌日から 10日以内 |
| 雇用保険 | 従業員(週20時間以上・31日以上雇用見込み)を1人以上雇用 | 所轄のハローワーク | 雇用翌日から 10日以内 |
手続きの順番:①健康保険・厚生年金 → ②労災保険 → ③雇用保険 の順で進めましょう。雇用保険の手続きには労災保険の受理印が押された控えが必要になるため、②を先に済ませる必要があります。
社会保険への加入は法律で義務付けられている
個人事業主の場合
個人事業主として起業した場合、常時雇用する従業員の人数によって加入義務が変わります。
- 従業員が5人未満:健康保険・厚生年金への加入は任意(加入しない場合は国民健康保険・国民年金に加入)
- 従業員が5人以上:加入義務あり(一部の業種を除く)
法人の場合
会社を設立して法人となった場合は、業種や従業員数に関わらず、すべての法人に社会保険への加入義務があります。
これは健康保険法第3条・厚生年金保険法第9条などで定められています。
従業員(労働者)側の加入条件
法人が社会保険に加入するのとは別に、従業員が被保険者になるための条件もあります。
以下をすべて満たす場合、加入が必要です。
- 勤務時間・日数が正社員の4分の3以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金月額が8万8,000円(年収106万円)以上
- 雇用見込みが1年以上(または期間の定めなし)
- 学生ではない
例外:加入できないケース
以下のケースでは、法人であっても社会保険に加入できません(または不要となります)。
- 役員報酬がゼロの場合:報酬からの天引きができないため、被保険者資格を取得できない。この場合は国民健康保険・国民年金に加入
- 役員報酬が著しく低い場合:保険料を下回る報酬のため、加入を断られるケースがある
- 業務実態がない場合(休眠会社):実際に事業活動が行われていない場合は加入対象外
社会保険の種類と加入手続きのやり方
健康保険・厚生年金の加入手続き
健康保険・厚生年金の手続きはまとめて年金事務所に届け出ます。
提出期限は会社設立後5日以内です(実務上は登記完了後すぐに書類を揃えて提出するのが一般的です)。
提出書類
| 書類名 | 対象 | 入手先 |
|---|---|---|
| ①健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 全員(必須) | 日本年金機構 Webサイトからダウンロード |
| ②健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 全員(役員・従業員) | 日本年金機構 Webサイトからダウンロード |
| ③健康保険 被扶養者(異動)届 | 扶養家族がいる場合 | 日本年金機構 Webサイトからダウンロード |
添付書類(①新規適用届に必要)
- 法人(商業)登記簿謄本(原本・提出日から90日以内に発行されたもの)
- 法人番号指定通知書のコピー(または国税庁法人番号公表サイトの印刷)
提出方法:窓口・郵送・電子申請(e-Gov)が選択可能です。
①健康保険・厚生年金保険 新規適用届
会社として健康保険・厚生年金に初めて加入するための届出です。
法人登記が完了したらすぐに準備を始めましょう。
②健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
役員・従業員それぞれが被保険者となるための届出です。
一人社長の場合は社長自身の分を提出します。役員・従業員の人数分、提出が必要です。
③健康保険 被扶養者(異動)届
配偶者や子どもなど、扶養家族を健康保険の被扶養者にする場合に提出しなければなりません。
被扶養者として認められる主な範囲は以下のとおりです。
- 配偶者
- 子・孫・兄弟姉妹
- 父母・祖父母などの直系尊属
- 三親等以内の親族(同居が条件)
添付書類として、戸籍謄本または住民票(提出日から90日以内発行)と収入を証明する書類(退職証明書・離職票など)が必要です。
雇用保険の加入手続き
雇用保険は、従業員を1人でも雇った場合に雇用保険への加入義務が生じます。
提出先はハローワーク(公共職業安定所)です。
雇用保険の手続きの前に、必ず労災保険の手続き(保険関係成立届の提出)を完了させてください。雇用保険の書類に労働保険番号の記載が必要なためです。
提出書類
| 書類名 | 提出期限 | 入手先 |
|---|---|---|
| 雇用保険適用事業所設置届 | 従業員を雇用した日の翌日から10日以内 | ハローワークインターネットサービス |
| 雇用保険被保険者資格取得届 | 雇用した月の翌月10日まで | ハローワークインターネットサービス |
添付書類として、登記事項証明書、労災保険の保険関係成立届の事業主控(受理印あり)、雇用契約書・労働条件通知書などが必要です。
労災保険の加入手続き
労災保険は、従業員を1人でも雇った場合に加入義務が生じます。
提出先は所轄の労働基準監督署です。保険料は全額事業主負担です。
提出書類
| 書類名 | 提出期限 | 提出先 |
|---|---|---|
| 保険関係成立届 | 従業員を雇用した日の翌日から10日以内 | 労働基準監督署 |
| 労働保険概算保険料申告書 | 保険関係成立日の翌日から50日以内 | 労働基準監督署・都道府県労働局・日本銀行 |
介護保険について
介護保険は、40歳以上の被保険者が加入対象です。
健康保険の手続きを行えば自動的に手続きが完了するため、個別に届出する必要はありません。
保険料は健康保険料に上乗せされる形で徴収されます。
社会保険料はいくら?報酬額別シミュレーション(令和7年度)
社会保険料の計算式と標準報酬月額
社会保険料は「標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2(労使折半)」で計算します。
標準報酬月額とは、毎月の役員報酬や給与(基本給・残業手当・通勤手当なども含む)を一定の幅で区切った金額のことです。
毎年4月〜6月の報酬の平均額をもとに決定され、9月分から翌年8月分の保険料計算に使用されます。
令和7年度(令和7年3月分から)の保険料率(東京都・協会けんぽ)
| 保険の種類 | 保険料率 | 負担割合 |
|---|---|---|
| 健康保険(40歳未満) | 9.91% | 労使折半(各4.955%) |
| 健康保険(40歳以上64歳以下・介護保険含む) | 11.64% | 労使折半(各5.82%) |
| 厚生年金保険 | 18.3% | 労使折半(各9.15%) |
健康保険料率は都道府県・加入する健康保険組合によって異なります。上記は東京都・全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合です。
報酬額別シミュレーション一覧(40歳未満・東京都・介護保険なし)
| 標準報酬月額 | 健康保険料(全額) | 厚生年金(全額) | 個人負担(月額) | 会社負担(月額) | 合計(月額) |
|---|---|---|---|---|---|
| 20万円 | 19,820円 | 36,600円 | 28,210円 | 28,210円 | 56,420円 |
| 30万円 | 29,730円 | 54,900円 | 42,315円 | 42,315円 | 84,630円 |
| 50万円 | 49,550円 | 91,500円 | 70,525円 | 70,525円 | 141,050円 |
| 80万円 ※ | 79,280円 | 118,950円 | 99,115円 | 99,115円 | 198,230円 |
※ 厚生年金の標準報酬月額には上限(65万円)があります。月収80万円の場合、厚生年金は65万円を上限として計算しています。詳細は協会けんぽの保険料額表をご確認ください。
40歳以上の場合(介護保険料を含む)
40歳以上になると健康保険料に介護保険料が加算されます。
| 標準報酬月額 | 健保(介護含む・全額) | 厚生年金(全額) | 個人負担(月額) | 会社負担(月額) | 合計(月額) |
|---|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 34,920円 | 54,900円 | 44,910円 | 44,910円 | 89,820円 |
| 50万円 | 58,200円 | 91,500円 | 74,850円 | 74,850円 | 149,700円 |
一人社長が社会保険料を合法的に抑える3つのポイント
上記のシミュレーションの通り、一人社長の社会保険料は個人事業主と比べてかなり高額になります。
合法的なコスト管理の方法を3つご紹介します。
ポイント1:役員報酬を低く設定する
社会保険料は役員報酬(標準報酬月額)に連動するため、役員報酬を低く設定すれば保険料も下がります。
生活費として必要な最低額を役員報酬に設定し、残りの利益は翌年以降に内部留保するという考え方です。
ただし、役員報酬を低くしすぎると、将来の老齢厚生年金の受給額も少なくなります。
また、病気・ケガで働けなくなった際の傷病手当金(標準報酬日額の約3分の2)も低額になるのです。
生涯設計を考慮した上で最適な金額を検討しましょう。
ポイント2:役員報酬と役員賞与のバランスを調整する
毎月の役員報酬を低く抑え、年1回の役員賞与を高額にする方法です。
社会保険料には賞与の標準賞与額に上限(健康保険は年間573万円、厚生年金は1回150万円)があるため、上限を超えた部分には保険料がかかりません。
ただし、この方法には税務上のリスク(定期同額給与の要件・事前確定届出給与の要件)があります。
事前に必ず税理士・社会保険労務士に相談した上で実施してください。
ポイント3:非課税手当・福利厚生を活用する
出張手当・通勤手当などの実費弁償的な非課税手当は社会保険の対象外です。
出張が多い場合は旅費規程を整備して出張手当を支給することで、社会保険料の算定基礎から外すことができます。
ただし、税務上の要件(旅費規程の整備・証憑管理)を満たす必要があるため、専門家への相談をおすすめします。
一人会社(一人社長)の社会保険:義務・リスク・加入のメリット
一人社長でも加入の義務あり
「自分一人だから社会保険は不要」というのは誤りです。
法人を設立している以上、役員報酬を受け取っている限り、一人社長でも健康保険・厚生年金への加入しなければなりません。
ただし、以下の場合は例外です。
- 役員報酬がゼロの場合:加入不要(国保・国民年金に加入)
- 役員報酬が月額1万2,000円以下の場合:保険料の天引きができないため加入を断られることがある
未加入のリスクと強制加入
社会保険に加入しないとどうなるか、順を追って説明します。
STEP1:年金事務所から加入要請が届く
電話または書面で自主的な加入を求める通知が届きます。
この段階で加入すれば特に罰則はなく、以降の保険料を納めるだけで手続きが可能です。
STEP2:立入検査の警告文書が届く
要請を無視し続けると「立入検査を行う旨の警告文書」が届きます。
この段階での加入でもまだ遡及請求は避けられるかもしれません。
STEP3:立入検査・強制加入
警告を無視し続けると、年金事務所の職員による立入検査が実施されます。
事業主には受忍義務があり、検査を拒否することはできません。
この段階に至ると、最大2年間さかのぼって保険料(延滞金含む)が請求されます。
悪質な場合は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(健康保険法208条)。
未加入のままでは助成金も受給できない
社会保険の未加入は、国の助成金・補助金の受給資格にも影響します。
雇用調整助成金・産業雇用安定助成金・労働移動支援助成金など、多くの雇用関係助成金の受給要件に「雇用保険の適用事業所であること」が含まれるのです。
社会保険に未加入のまま経営を続けると、これらの助成金が一切受給できなくなり、資金繰りに大きなダメージを与えます。
一人社長が社会保険に加入するメリット
一人社長で社会保険に加入することには、次のようなメリットがあります。
①傷病手当金で収入保障が得られる
病気やケガで役員報酬が止まった場合、傷病手当金として「標準報酬日額の約3分の2」が最大1年6ヵ月間支給されます。
従業員のいない一人会社にとって、病気リスクへの備えは特に重要です。
②将来の年金受給額が増える
厚生年金に加入することで、老齢厚生年金が国民年金に上乗せされます。
老後の生活資金として、長期的に見ると大きな差になります。
③障害・死亡時の補償が手厚い
障害を負った場合は「障害厚生年金」、死亡時には「遺族厚生年金」が支給されます。
国民年金のみの場合と比べて補償が手厚くなります。
社会保険の手続きは誰に相談すればいいのか
社会保険の手続きや保険料の最適化に不安がある場合は、社会保険労務士(社労士)または税理士への相談をおすすめします。
特に社労士は、社会保険手続きの代行や労務管理の専門家です。
手続きの代行だけでなく、役員報酬の設定・随時改定の管理など、設立後の継続的なサポートを依頼できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 社会保険の手続きが設立後5日を過ぎてしまった場合はどうなる?
5日を過ぎてしまった場合でも、さかのぼって手続きが可能です。
ペナルティが発生するのは未加入を放置し続けた場合です。
気づいた時点でできるだけ早く管轄の年金事務所に連絡し、手続きを進めましょう。
Q. 役員報酬が低いとき、いつから社会保険に加入できる?
標準報酬月額として設定できる最低ラインを下回る役員報酬の場合(東京都・令和7年度で月1万2,000円以下が目安)、加入を断られることがあります。
役員報酬を引き上げて一定額以上になった時点で加入申請しましょう。
Q. パート・アルバイトも社会保険に加入させる必要がある?
労災保険は雇用形態に関わらず全員が対象です。
雇用保険は「週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み」の条件を満たせば加入します。
健康保険・厚生年金は「正社員の所定労働時間の4分の3以上」などの条件を満たす場合に加入義務が生じるのです。
Q. 未加入が発覚したら、いつまでさかのぼって請求される?
年金事務所による調査で未加入が発覚した場合、最大2年間さかのぼって保険料が請求されます。
延滞金も加算されるため、2年分の未納保険料が一度に請求されると経営に深刻な打撃を与えかねません。
Q. 合同会社も社会保険への加入は必要か?
はい、必要です。株式会社・合同会社など法人格の種類に関わらず、すべての法人に社会保険への加入義務があります。
Q. 会社設立後、役員報酬を0円にしていたが後から報酬を設定する場合は?
役員報酬を設定した時点が「事実発生日」となり、そこから5日以内に年金事務所へ加入手続きします。
役員報酬ゼロの期間は加入対象外のため、さかのぼって請求されることはありません
まとめ
会社設立時の社会保険について、重要なポイントをまとめます。
- 法人はすべて加入義務あり:株式会社・合同会社問わず、役員報酬を受け取っている限り加入必須
- 健康保険・厚生年金は設立後5日以内:登記完了後すぐに手続きを開始する
- 労災保険・雇用保険は従業員を雇ったタイミング:雇用翌日から10日以内に手続き
- 未加入のリスクは大きい:最大2年の遡及請求・助成金受給不可・罰金・拘禁刑
- 保険料は報酬額に連動:役員報酬の設定と社会保険料のバランスを事前にシミュレーションすること
- 不安な場合は専門家へ:社会保険労務士・税理士に相談して確実に手続きを進めましょう
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