起業には個人事業主と法人の2つの選択肢があり、起業という意味では同じですが中身は大きく異なります。
そのため、いざ起業しようと思ったときにどちらが自分に適した起業方法なのかわからない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けてここでは、個人事業主と会社設立のメリットとデメリットを解説していきます。
起業をご検討中の方はぜひ参考にしてください。
目次
個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人の違いは「社会的信用」「税金」「手続き」が挙げられます。
知名度や従業員の有無、事務所の大小などは関係ありません。
ここではこの3点についてご説明しますので、自分がどちらの形態で事業を行うのが適切か判断する際の参考にしてください。
社会的信用
個人事業主といっても、開業届を出しているかいないかによっても変わってきます。
開業届を出して青色申告をする場合、確定申告のために複式簿記の知識や税金といった経理周りを理解する必要があるのです。
税制は毎年のように変わるため継続的なインプットが必要になりますし、毎年申告するということは事業を継続的に行っていく責任や社会的信用を伴います。
法人となると個人事業主に比べ設立や登記はとても複雑なものになるので、社会的信用を得やすいです。
そもそも法人は個人事業主よりも事業規模が大きくなければメリットがありませんし、安定的に事業を継続していく必要があります。
そのため長年法人を維持できている企業は高い信用力を得ることができるのです。
また法人でないと取引ができないような企業もありますし、金融機関から融資を受けやすいというメリットもあります。
事業を大きくしたり、さまざまな企業と取引したりすることができるので個人事業主よりもスケールの大きい仕事ができるでしょう。
税金
法人と個人事業主では税金にも違いがあります。
経費を上手く活用することで高い節税効果を期待できるのが法人です。
というのも法人は経営者本人や家族従業員への給料の他にも、生命保険料、住宅の賃料、出張や休日出勤時の費用も経費にすることができます。
個人事業主の経費項目は法人に当てはめることはできるのですが、こうした部分で差が出るのです。
また納税する税金の種類も異なります。
その内訳は個人事業主が所得税(所得の5〜40%)、法人は法人税(所得の15〜25.5%)です。
共通で納付する必要があるのが住民税ですが、個人事業主の場合は所得の10%+4,000円程度、法人は法人税額の15〜25.5%に最低税額70,000円を加えたものとなります。
計算方法はそれぞれで異なるため比較はしにくいですが、損益分岐点を計算のうえ適切な形態を選択するのが良いでしょう。
また、事業税は個人事業主の負担が大きくなります。
手続き
手続きも大きく異なります。
個人事業主の開業手続きは書類を作成して税務署に提出するだけで終わります。
一方で法人は株式会社や合同会社など形態によって内容は変わりますが、個人事業主のようにすぐには設立できません。
一般的に、登記をするためには下記のような作業を伴います。
- 株式会社にするか、合同会社にするかなど法人の種類を決定する
- 商号(会社名)を決定する
- 定款の内容を検討し決定する
- 会社の印鑑を作成する
- 役員報酬を決める
- 資本金額を払い込む
- 登記書類を作成のうえ申請する
くわえて登記が終わったら、各種行政期間への手続きも必要になります。
税務署や自治体に法人の設立が完了したことを証明するために書類を提出したり、従業員がいる場合は労働基準監督署やハローワークで手続きしたりと数週間〜数ヶ月程度の期間が必要なのです。
だからといって個人事業主は申請が楽という理由だけで選択してしまうのは早計です。
先述したように、時間がかかり多くのプロセスを踏むからこそ法人の方が社会的な信用が得られるとも言えます。
楽さや手軽さではなく、自分が目指す事業の将来と照らし合わせた上で選択すべきなのです。
法人の種類
個人事業主か法人のどちらかを選択するうえで、法人の種類についても理解しておく必要があります。
法人は大きく営利法人と非営利法人に分けることができ、さらに細分化が可能なほど種類が多いです。
事業内容によって最適な法人形態を選びましょう。
営利法人
営利法人は事業によって得た利益を社員に分配することを目的としています。
営利社団法人というのは一般的に「会社」を意味し、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社が該当します。
株式会社
代表的な会社形態の1つですが、株式を発行することで投資家から資金を調達することができ、その資金で事業を行っています。
株式を公開することで多くの人から資金調達できるのがメリットです。
主流の会社形態ということもあり、信用が高く良い人材が集まりやすいのも特徴と言えるでしょう。
合同会社
近年注目されているのが合同会社です。
合同会社のメリットは設立費用を抑えられることと、株式会社に比べて柔軟に組織を動かせることにあります。
株主の意向を反映する必要がないのでスピーディーな会社経営が可能です。
アップルやアマゾンなどの有名企業もこの会社形態を採用しています。
合名会社
合名会社は資本金の制度が存在しておらず、無限責任社員のみで形成される会社形態です。
無限責任社員とは出資者が債権者に対して直接連帯して責任を負うことを意味します。
設立費用の安い合同会社よりもさらに少ない金額で設立することができるうえ、手続きも簡単です。
合資会社
合資会社は、無限責任社員と直接有限責任社員で構成される会社を指します。
無限責任社員は先述した通りですが、有限責任社員は出資した金額の範囲内でしか責任を負いません。
合資会社は合名会社のように、設立費用がかからず手続きも簡素なのがメリットと言えます。
非営利法人
非営利法人は営利法人と対照的で、利益を配分しない法人です。
利益の分配を主眼に置くのではなく、あくまでも団体が掲げる目的の達成を目指します。
NPO法人、一般財団法人、社会福祉法人などがその代表例です。
NPO法人
社会福祉以外の事業の運営を認められているのがNPO法人です。
設立のための資産基準が設けられていないので、資金面で不安な点があっても一定の要件を満たすことで設立することができます。
厳しい審査があるわけではなく、要件に従って書類を提出し内容に問題がなければ設立できるのがメリットです。
一般社団法人
一般社団法人は財産や事業内容による集合体ではなく、人が集まって設立されているという考え方をします。
事業内容に縛りはありませんが、「人が集まって」いる必要があるので、2名以上の社員がいることが要件です。
具体的には資格認定機関や業界団体がこの形態を利用しています。
社会福祉法人
NPO法人と異なり、社会福祉のみを行うのが社会福祉法人です。
こちらは資金がなければ設立が不可能となっています。
社会福祉施設を運営する場合には建物や土地も必要です。
設立のためには行政担当者による認可も必要であり、手続きの手間があるのがデメリットと言えるでしょう。
個人事業主での起業のメリット・デメリット
起業というと会社を設立することと捉える方も多いかもしれませんが、個人事業主として開業することも起業にあたります。
事業内容や規模によっては会社を設立するよりもメリットがある場合もありますが、法人が多く存在することからも会社設立のメリットの大きさもうかがえるでしょう。
ここからは個人事業主として起業する場合のメリットとデメリットについてご説明していきます。
メリット
まずはメリットです。
基本的には事業規模が小さくて一人もしくは家族から手伝ってもらえる程度で仕事ができるのであれば、手間も少なくなるためメリットを出すことができます。
開業費用が少なくて済む
株式会社を設立するには25万円程度かかりますし、合同会社であっても最低でも6万円はかかってきます。
くわえて定款作成を士業の方に依頼すると余計に費用が必要です。
一方で個人事業主として起業する場合は開業届を税務署へ提出するだけであり、手続きに費用はかかりません。
登記費用が必要ないので手持ちの資金を事業へ投下できるのはメリットと言えるでしょう。
会計・税務などの処理が楽
人事業主は、会計や税務処理が簡単です。
個人事業主の場合は白色申告か青色申告のどちらかを選択して確定申告を行いますが、クラウド会計サービス等を利用することで比較的容易に行うことができます。
特に青色申告の場合は、最大で65万円の節税効果を得ることができるので、こちらの方法で確定申告するのがおすすめです。
一方で、株式会社の場合は税理士に依頼するケースも多く、会計や税務に関する処理に費用も時間もかかってしまいます。
一定の事業所得までは税負担が軽い
個人事業主は税負担が軽くなる場合もあります。
日本では累進課税方式が採用されているため、事業所得から経費を引いた課税所得が一定の金額以下であれば個人事業主の方が税金を安く抑えることができるのです。
法人の場合は法人税が課せられますが、2段階に分かれた固定税率となっており、最低税率は所得税を上回ります。
デメリット
個人事業主は気軽に起業できるというメリットがあることがわかりましたが、一方でデメリットもあります。
社会的信用が得にくい
先述しましたが、個人事業主は税務署に開業届を提出するだけで起業ができる一方で気軽に起業できるということは法人よりも社会的信用が劣るということでもあります。
法人を設立するためには多くのプロセスを踏み、資本金や登記手続きでもお金がかかる分、信用が高まるのは当然です。
こうした社会的信用力は取引の際に実感するケースがあり、個人事業主ではなく法人との取引を希望する企業があるのも事実です。
社会保険に加入できない
個人事業主は、会社などの組織には属さないので健康保険や厚生年金に加入することはできません。
個人事業主が加入できるのは国民健康保険や国民年金保険となります。
前者の場合は、費用を会社が半分負担してくれるため金銭的な負担にも差が出てきます。
また将来的に厚生年金の方が年金を多く受給できるという点も考慮しておくべきでしょう。
事業所得が増えると税負担が重くなる
累進課税は儲かれば儲かるほど税率が高くなる制度であるため、利益が出過ぎた場合に税負担がとても大きくなります。
経費にできる項目も法人に比べると少なく節税効果も劣ってしまうので、高収入の場合だと収入の半分が税金になることもあるのです。
事業を法人化することのメリット・デメリット
個人事業主のメリットとデメリットについてお伝えしてきましたが、ここからは事業を法人化する際のメリットとデメリットについてご説明します。
個人事業主と比較しながらどちらの起業方法が適切か考えてみてください。
メリット
まずはメリットからご説明いたします。
社会的信用、節税面、資金調達、リスク分散の4つについて詳細をみていきましょう。
社会的信用が高い
まずは社会的信用力の高さは大きなメリットです。
開業届を提出すれば起業可能な個人事業主と異なり手間のかかる登記を経て設立された企業は社会的信用力が高いとみなされます。
個々人の頑張りや仕事へ取り組む姿勢が同じだったとしても周囲から見れば法人という肩書の方が信用できるのです。
新規の仕事をとりに行く場合や、受注金額の交渉も法人の方が行いやすいですし、事業の拡大も検討しているのであれば法人に分があると言っても良いでしょう。
節税面でのメリットが大きい
個人事業主と法人は税制が異なるのはお話しました。
個人事業主には所得税、法人には法人税を負担する必要がありますが、具体的にみていくと法人税は最高税率が23.3%と定められており、所得税は最高で45%となります。
税金はこの2つだけではないですが、将来的に事業が拡大したことを考えると法人が最適であることがよくわかります。
赤字を最大10年間繰り越す制度があるのも法人の強みと言えるでしょう。
資金調達がしやすい
資金調達の方法として代表的なのが株式の発行と融資です。
株式会社であれば株式を発行し一般に公開することで資金調達を行うことができます。
また金融機関から融資を受ける際も法人の方が審査に通りやすいです。
資金調達が容易に行えるということは設備投資や人材確保に予算を投下でき、事業を大きくしやすいメリットがあります。
有限責任でリスクを分散できる
個人事業主は事業の全責任を負担する無限責任があります。
つまり、債務を負ってしまい返済の必要がある場合は個人資産を提供することになるのです。
その点法人の代表者は有限責任です。
会社はいくら負債を抱えても個人の責任は法人に出資している金額が責任の範囲となります。
もし倒産することになったとしても代表者の個人資産は守られることになるのです。
デメリット
スケールが大きい分、税金等のお金周りの負担が大きくなるのが法人のデメリットと言えるでしょう。
ここからはデメリットについて詳しくみていきます。
無条件に法人住民税の支払い義務がある
法人に課される法人住民税は、均等割というものがあります。
これは資本金をもとに計算されるのですがたとえ会社が赤字だとしても小規模法人で7万円程度の負担が必要です。
個人事業主は赤字となった場合は、所得税や住民税の負担がありませんので、無条件に税金が発生することはありません。
7万円とはいえ安定的な事業収入がなければ負担に感じてしまうでしょう。
社会保険に加入しなければならない
厚生年金や健康保険は加入するとメリットがある一方で、これが負担になるケースもあります。
法人の場合は社長が一人の場合でも社会保険に加入しなければなりません。
くわえて従業員の社会保険料も負担する必要があるため、人件費がかさみます。
資金繰りにおいて人件費は大きな割合を占めますので経営が苦しいと重くのしかかってくるでしょう。
会計や税務の事業負担が大きい
法人の場合は会計や税務処理が複雑で、税理士や公認会計士に依頼するケースが多いです。
こうした専門家へ依頼する費用は都度発生するものから、毎月のようにかかるものまで契約内容によってまちまちですが、負担となるのは間違いありません。
また経理部門や社会保険手続きを行う労務部門を整備する必要もあるため、代表一人で行うのが難しい場合は事務スタッフの人件費も考慮しておくのが大切です。
個人事業主の場合はクラウド会計サービスを用いて一人で確定申告を行う方も多いので、この点において両者に差が生まれます。
事業規模が小さければ、税負担が大きい
税負担についてですが、法人を設立しても事業規模が小さいと税負担は大きくなります。
法人住民税の均等割はもちろんですが社会保険料も準備しておく必要があります。
かといって闇雲に事業拡大をすれば良いというわけでもありません。
現在大規模に法人を運営していたとしても急な経営悪化が生じ利益が減少した場合、一度あげてしまった固定費を急に下げることは難しいです。
常に会社の将来を見越しておくことで事業規模の変化に伴う税金負担に対応することができるでしょう。
結局どっちで起業すべき?
個人事業主と会社設立のどちらの方法で起業するかの1つの基準は「課税売上高」になります。
課税売上高とは、消費税の課税対象となる取引の売上高のことです。
ほとんどの取引の売上高は課税売上高となるのですが、土地の売却収入、住宅の家賃負担、社会保険診察報酬は対象外です。
個人事業主が行うビジネスとして挙げられる執筆活動における原稿料や印税、講演料、出演料、講師謝金、インターネットビジネスによる収入も課税売上高に該当します。
課税売上高が1000万円を超えると個人事業主は消費税の納税義務が発生するので、ここを1つの基準にするのが良いでしょう。
また課税所得も基準となります。
法人税は800万円を超えた所得の部分に適用されその税率は23.2%です。
一方で所得税は900万円を超えると33%になりますので、この税率が変更されるタイミングも1つの選択肢になってきます。
独立して売上があまり上がらなそうであればまずは個人事業主で良いかもしれませんが、既に販路を獲得しており売上の見込みが1000万円近くあるのならば法人化が適していると言えるでしょう。
また、取引先が個人事業主ではなく法人としか契約を結ぶことができないケースもありますので、取引先との調整の中で起業形態を検討することもできますし、融資を受ける場合の条件も1つのポイントになってきます。
ここまで個人事業主と法人設立の両方のメリットとデメリットを比較してきました。
どちらかを選択する上で規則などはありませんので、自分の性質や将来とすり合わせて最適な方法で起業を実現してください。
起業に必要な手続き
それでは具体的に起業をする際にはどのような手続きを行う必要があるのか、個人事業主と法人の2つに分けてご説明していきます。
手続き内容が異なってくるのでよく確認して手続きを進めてください。
個人事業主として起業する場合
これまでお伝えしてきた通り、個人事業主となるためには税務署に開業届を提出するだけの簡単なものとなっています。
開業する住所を管轄している税務署では「個人事業の開業・廃業等届出書」という書類が用意されておりますので、必要項目を記入して提出してください。
必要項目には住所氏名はもちろんですが事業内容を書く部分もありますので事前にまとめておくと良いでしょう。
こちらは直接税務署で提出する他に、自宅で記入のうえ郵送で提出することも可能です。
その場合は国税庁のホームページにフォーマットが用意されているのでダウンロードして使用してください。
こちらの届出は事業開始から1ヶ月以内が提出期限となっています。
開業準備で忙しくて提出を忘れてしまわないように注意しましょう。
青色申告を行う場合
青色申告のメリットは大きいので積極的に活用するべきです。
具体的には、赤字の3年間の繰り越しが可能になったり、配偶者や子どもに青色事業専従者給与を支払うことで経費化したりできるというメリットがあります。
ただし、白色申告に比べると経理処理が少し複雑になります。
今ではクラウド会計サービスも充実していますし、相談先もありますので積極的に活用してみてください。
この青色申告をするためには「青色申告承認申請書」の提出が必要になります。
こちらを税務署に提出し承認を受けることで適用できるのです。
新たに開業する場合は開業から2ヶ月以内に提出しましょう。
期限は開業届と異なっており1ヶ月の開きがありますのでここも頭に入れておいてください。
源泉所得税について納期の特例を受ける場合
源泉所得税とは、報酬を受けとる際に給与から天引きされるものです。
個人事業主は一人で事業を行うことも多いでしょうが、従業員を雇って給料を支払う場合はこの源泉徴収が必要になります。
事業主は給与支払い時に源泉徴収税を徴収して、税務署に納める必要があるのです。
先述した個人事業の開業・廃業等届出書を提出している場合は、給与支払いに関する届出は必要ありません。
一方で雇っている従業員が10人に満たない場合においては毎月の給与から徴収した源泉所得税を年2回ずつ納付する特例を適用することができます。
本来徴収した源泉所得税は翌月の10日までに納付するのが原則なのですが、年2回の納付に減らすことで事務的な手間を軽減できます。
この特例は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出することで適用可能です。
法人として起業する場合
法人を設立するための手続きは、個人事業主として開業するよりも多くの手続きを要します。
ここからは法人を設立するために必要な手続きについてご説明します。
法人の設立に必要な手続き
法人設立において必要な手続きを大別すると、定款の認証と登記の2つです。
設立する会社の形態によって違いもありますので、詳細を確認してから手続きを行ってください。
1定款の認証
定款は、「会社の憲法」と呼ばれ、会社を運営するうえで必要な基本的な規則が記されたものを言います。
定款内には会社名やどのような事業を行うのか、本店の所在地、株式、株主総会や取締役会などの会社の機関、事業年度などが定められています。
発起人なのであればこの定款の内容を決定するところからはじめ、無事作成が終わったら公証役場で公証人による認証を受けてください。
この認証を受けなければ、定款が正式な手続きによって作成されたものと認められません。
公的機関である公証役場で認証を受けることができたら、この定款を用いて登記を行なっていきます。
2登記
登記手続きは法務局で行います、具体的には下記の書類の提出が必要になります。
- 認証を受けた定款
- 登録免許税納付用台紙
- 払込証明書
- 発起人の決定書
- 就任承諾書
- 取締役の印鑑証明書
- 印鑑届書
登記申請書はパソコンで作成するか黒インクのボールペンを用いて作成してください。
法務局のホームページでフォーマットのダウンロードが可能ですし、記入例も掲載されています。
それでも難しいと感じたり間違っていないか不安に思ったりする方は専門家に依頼するのも1つの手段です。
また、現在では会社設立をサポートするサービスもありますので、そちらで設立するのも良いでしょう。
払込証明書は会社の資本金の払い込みを証明するもので、出資した人が発起人代表者の口座に入金する必要があります。
通帳のコピーで入金が確認できていれば問題ありません。
会社の実印を登録するために必要なのが印鑑届書です。
設立時に必ず用意しておく必要はないですが、一般的には登記申請時に同時に行います。
事前に法人の印鑑を準備しておけばスムーズに登録が可能です。
税務署への手続き
法務局での手続きを終えて登記が完了したのであれば、法人の所在地を管轄する税務署へも届出を行います。
3つの手続きがありますのでそれぞれご紹介していきます。
1法人を設立したことの届け出
まずは、「法人設立届出書」の提出をしましょう。
これはすべての法人に提出義務があります。
期限は設立から2ヶ月以内となっていますが、登記が終わった流れですぐに提出するのが良いでしょう。
この届出には下記の添付書類が必要ですので合わせて準備してください。
- 定款
- 登記事項証明書
- 株主名簿
- 設立趣意書
- 設立時貸借対照表
- 取締役の印鑑証明書
- 印鑑届書
2青色申告の承認申請
個人事業主の設立手続きの部分でも登場しましたが、「青色申告の承認申請書」も提出しておくのがおすすめです。
法人税を申告する際に青色申告をすれば最大で10年間赤字を繰り越すことができますので、大きな節税効果があります。
ただ個人事業主の場合と同様に複式簿記による帳簿作成が求められるので、事務処理の工数がかかるのは覚えておきましょう。
法人だからといって勝手に青色申告が適用されるということはありませんので、形式に則って手続きを進めてください。
また提出期限は、法人設立後3か月もしくは設立事業年度終了日のいずれか早い日の前日までと設定されています。
3給与を支払うことの届け出
「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」は源泉所得税の納付のために必要になります。
法人が役員や従業員に対して報酬や給与を支払う際は、源泉所得税の天引きをすると先述しましたが、個人事業主と同様に法人にも納税義務が課されるのです。
徴収した源泉所得税は原則として徴収した翌月10日までに納付する必要がありますが、給与支払い対象者が10人未満の場合に、この届出をすれば1月と7月の年2回に減らすことができます。
これは税額が減るということではなく納付する回数が減るという意味であり、手間が少なくなるというメリットをもたらします。
毎月のように納付書を作成して金融機関や税務署に納付しに行くのは大変ですが、この特例を適用すればその負担が大きく減るのです。
また、従業員を雇い入れる予定がなく自分一人にしか報酬を支払わない場合にも「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」の提出は必要なので忘れずに提出しましょう。
社会保険に関する手続き
法人を設立したら、健康保険や厚生年金の手続きと労働保険に加入するための手続きもしなければなりません。
これは税務署ではなく、管轄の年金事務所や労働基準監督署、公共職業安定所で行います。
1健康保険や厚生年金への加入の手続き
法人を設立した場合は健康保険と厚生年金に加入する必要があります。
これは企業の規模や売上は関係ありません。
加入手続きは年金事務所で行います。
提出する書類は以下の3点で、会社を設立してから5日以内が期限です。
- 「健康保険・厚生年金保険新規適用届」
- 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」
- 「健康保険被扶養者(異動)届」
これらの届出のフォーマットは日本年金機構のホームページにありますので、こちらからダウンロードして記入してください。
また郵送で提出することも可能ですが初めての申請で不安がある場合は窓口で行うのがおすすめです。
詳しくみていくと、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」は、はじめて健康保険や厚生年金に加入する際に必要な書類です。
合わせて登記事項証明書の原本も提出する必要があります。
この原本は多くの手続きで必要になりますので、事前に複数枚用意しておくのが良いでしょう。
役員や従業員が健康保険、厚生年金の被保険者になる場合は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。
また役員や従業員に配偶者や子どもといった扶養家族がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」も提出しましょう。
これには健康保険被保険者証の添付が必要です。
提出期限が5日以内に設定されているうえ、添付書類もあるため事前に準備しておくと慌てずに済みます。
ちなみに、従業員を雇用しない一人社長であっても報酬を受け取るのであれば、手続きしなければなりませんので注意が必要です。
2労働保険に関する手続き
労働保険とは、一般的に労災保険と雇用保険の2つがあります。
それぞれの保険の内容と手続き方法をみていきましょう。
a 労災保険
労働者災害補償保険を省略して、労災保険と言います。
これは従業員が業務中や通勤途中で怪我をしたり、病気になったりすると適用される保険です。
病気や怪我によって病院にかかる場合は治療費が発生しますが、それを補填する制度となっています。
もし、死亡してしまった場合に遺族へ対して保険給付を行う場合もあります。
具体的な手続きは、「保険関係成立届」を10日以内に労働基準監督署へ提出するというものです。
この届出には、以下の添付書類が必要となりますので、準備しておきましょう。
- 登記事項証明書
- 会社あてに届いた郵便物、もしくは公共料金の請求書や領収書など
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿、もしくはタイムカード
- 営業許可証または納品書・請求書・領収書など
- 従業員が10名以上いる場合は就業規則
これは50日以内が期限です。
この申告書をもとに保険料を概算で計算して、納付することになります。
基本的には、「保険関係成立届」と同時に提出するので2種類の届出が必要ということを覚えておくと良いでしょう。
b 雇用保険
失業保険とも呼ばれるこちらの保険は、従業員が職を失った場合に再就職先を見つけるまでの支援を行うための制度です。
受給要件を満たすことで、数ヶ月から1年程度の給付を受けることができます。
労災保険と同様に従業員のための保険にはなるのですが、こちらは労働基準監督署ではなく公共職業安定所、つまりハローワークが手続き先です。
会社設立と同時に従業員を雇うことになったら、会社設立の翌日から10日以内に「雇用保険適用事業所設置届」を提出します。
これはその名の通り、従業員を雇用する事務所を設置したことを申告するための書類です。
この届出に必要な書類は下記になります。
- 労災保険の保険関係成立届
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿、もしくはタイムカード
- 雇用契約書
先にご説明した労災保険の保険関係成立届が必要になるため、まずは労働基準監督署の手続きを済ませてから、ハローワークへ向かいましょう。
また従業員を雇用した月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」も提出しなければなりません。
設置届はあくまでも事務所が設置されたことの届出に過ぎませんので、この届出を用いて従業員それぞれを雇用保険に加入させる必要があるのです。
基本的な添付書類は「雇用保険適用事業所設置届」と一緒になりますので、同時に提出すればスムーズに手続が進められます。
起業前に確認すべきこと
起業方法のメリットやデメリット、また起業の方法についてお伝えしてきましたが、一番大事なのはそれらを知ることではなく経営者となる自分自身の意気込みです。
会社の将来は、経営者のモチベーションが大きく影響します。
自分がやりたいと思っている事業がとても魅力的で、絶対にやり遂げたいという強い意志があるのだとしたら問題ありません。
しかし中途半端な気持ちで起業に踏み切るのはリスクが大きいです。
事前に自分の気持ちと向き合う時間を設けましょう。
どうして起業するのか
どうして起業するのか?という問いはとても大切です。
起業家には大きく2つのタイプがいると言われており、1つは「自分の経験やアイデアを事業にするためには起業するしか方法がなかった人」、もう1つは「会社員生活に嫌気がさしたので独立した人」です。
前者は、事業に対する熱い思いがありますし、仕事をモチベーションにできると言えるので起業向きと言えます。
一方で、後者の場合は起業することが目的となっており、その先で何をしたいのかが不透明です。
起業して現在の不満が解消されたとしてその先どうするのか見えて来ないうちはリスクが高いと言えます。
現在の環境に不満があるならば、転職や異動で十分解決する可能性もありますし、金銭的な部分の待遇に不満があるならば副業で収入を増やすことからはじめるのも良いかもしれません。
起業に対する覚悟
会社を退職して起業を経験した人の中には家族からの反発が強く、説得するのに苦労したという方も多いです。
独身であれば反対するのは親族くらいですので、あまり気にするところではないかもしれませんが、既に結婚していて配偶者や子どもがいる場合は、そうはいきません。
家族を納得させられないのであれば、その事業への思いや自身の熱意が足りないということでもあります。
たとえ反対を無理矢理押し切って起業したとしても、家族からのサポートがなければ事業を続けていくのは大変です。
経営者は従業員やアルバイトなどのビジネスパートナーと付き合っていくことになりますが、これはあくまでもお金を払う立場ともらう立場です。
待遇や環境次第では利害関係も生じますし、常に良好な関係を保っていられるかどうかはわかりません。
そう考えると経営者は仲間がいるように見えて、案外孤独なものですから、本当の意味で支えてくれる存在を大切にするべきです。
一番身近な家族に配慮できない経営者が、お客さんや社会に貢献できるかと言われると疑問が残ります。
家族に納得してもらい、応援を受けられたら自身のモチベーションにもつながりますし、事業が軌道に乗る確率も変わってくるかもしれません。
失敗したときの対応法
会社員と経営者は失敗の捉え方が大きく異なります。
経営をしていると基本的には失敗がつきものです。
新しいチャレンジをしてたくさん失敗を繰り返す中で、上手くいくケースを見つけていくのが経営者の発想です。
たとえ起業後にすぐに軌道に乗ったとしても、別の事業者がその後を追いかけてきます。
市場のシェアを大きく獲得している企業や参入障壁が高い企業ならまだしも、新興企業にはそのようなアドバンテージは少ないと考えられるため、常に差別化や新たな展開を追い求め続けなければなりません。
一方で会社員は、失敗をいかに減らすかという発想で働くことが多いです。
もちろん部署にもよりますし、新規事業開発に従事する方はその限りではありませんが、基本的には失敗しないに越したことはありません。
もちろん企業内では失敗しても良いからどんどん挑戦しようという風潮もあるでしょうが、これまでの経験や先輩の助言をもとに失敗の少ないルートを選んでしまうのが一般的ではないでしょうか。
会社員生活が長くなればなるほど、失敗は減っていくとは思いますがそれは挑戦をしていないということでもあるのです。
経営者になると膨大な数のアイデアの中で1つでも成功すれば良いというマインドが必要なのでその転換に苦労する可能性もあります。
かといっていきなり大きな予算を投下して闇雲に事業に取り組めば良いわけではなく、スタートはリスクを小さく小規模にはじめることが大切です。
小さな挑戦を繰り返し続けることで、1つでも可能性が見えたら大きくしていくのがスタンダードな手法と言えます。
自分が今会社員で失敗していない方、また失敗してもそのままにして次に活かしていない方は起業家の発想を持つことが起業への第一歩となるでしょう。
困ったときに誰が助けてくれるか
家族のサポートが大切と先述しましたが、家族以外にも支えてくれる人の存在は事業の成功を大きく左右すると言っても良いでしょう。
家族以外に挙げられるのは、真摯に対応してくれる取引先や、アドバイスをくれる起業経験のある先輩などです。
特に同業界や同業種であれば心強いでしょう。
会社員と起業家の違いは自分を評価し指示する人間がいなくなることでもあります。
自分の選択が会社の命運を左右するわけですから、そこにアドバイスがないと独りよがりな決定になりかねません。
もちろん経営の才覚がずば抜けていてそのようなアドバイスが不要な方もいらっしゃるかもしれませんが、事業のことを気軽に相談できる仲間がいるだけで随分心強いものです。
従業員はいるかもしれませんが、従業員は必ずしも経営者と心中するとは言い切れません。
会社が倒産の危機に瀕しても転職という選択ができるからです。
そのため価値観を共有できたり、同じ目線で相談できたりする方を見つけておくのも大切なのです。
起業を本当に一人で行って大丈夫か
起業して経営者になると、営業活動を通して売上を獲得していく必要がありますがそれ以外の業務もたくさん舞い込んできます。
起業の第一歩は、自分の能力や知見を存分に活かしたサービスを展開し軌道に乗せていくことになるのですが、そうして得た売上を処理したり顧客からのクレームに対応したり、副次的に業務が発生することは想像に難くありません。
はじめはクライアントに向き合っているだけでよくても、事業が大きくなればなるほど業務は多岐に渡ります。
オフィスを構えるのであれば清掃が必要になりますし、財務や会計も行いながら、人材の確保にも奔走することになるかもしれません。
あらゆる分野の知識を兼ね備えたオールラウンダーは少なく、起業するきっかけとなった領域には詳しくても専門外の業務に苦労するケースは多いです。
そうなると従業員を雇用する必要があるのですが、採用する方が自分の求める能力を持っているかどうか見極めないといけないですし、必ずしもその方が協力してくれるかどうかもわかりません。
特に新しい企業にコミットするのは大企業に比べて待遇面や将来性で不安に思う可能性も高いです。
まずは自身の熱意や今度の展望に共感してくれる方を見つけましょう。
それから教育を通じて良い人材と一緒に会社を大きくしていけば良いのです。
気をつけたいのは、他人は思い通りに動いてくれないということです。
起業するくらいですから経営者はやりたいと思ったことに一生懸命取り組める人と言えるでしょう。
ただ発起人や創業メンバーならまだしも後からコミットしてくれた人が経営者と同じで熱量で取り組んでくれるかと言われるとそうではありません。
自身の生活のために働いている方もいらっしゃいますし、働き方に対する価値観は人それぞれです。
そのような協力者に対して結果や高いクオリティを求めるのは自由ですが、必ずしも同じ熱量ではないことを頭に入れておきましょう。
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