会社に所属せずフリーランスでお仕事をされている個人事業主の方は、法人化するべきか、もし法人化するならどのタイミングが良いのか迷われるのではないでしょうか。
一般的に、年商が1000万円を越えたら法人化するタイミングだと言われています。
そこで、この記事ではなぜ年商1000万円を越えたら法人化した方が良いと言われているのか、そして年商1000万円を越えた段階で法人化するメリット・デメリットについてお伝えしていきます。
目次
消費税の支払い基準とは?
課税対象となる売上高によって消費税の支払いが必要か否かが決まります。
国税庁の「納税義務の免除」によると、消費税はその年度の前年度の6ヶ月における課税売上高が1000万円を超えていない場合、基準期間の課税売上高が1000万円以下の事業者は、その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されています。
また、消費税の支払いについては、個人事業主も法人も同じ基準です。
年商1000万円でも法人化しない方がいい場合とは?
課税売上高が1000万円を超えると消費税の支払いが発生するだけでなく、所得税の税率も課税所得金額が900万円を超えると33%となり、法人税の税率より高くなってしまいます。
そのため、年商1000万円を目安に法人化を考えた方が良いと言われています。
しかし法人化しない方が支払い税額が少なく済む場合もあります。
経費が多い場合
1つ目のケースが経費が多く、売上から経費を引くと所得が900万円を大きく下回る場合です。
所得が900万円以上の場合は、法人化した方が支払い税額が少なく済みます。
しかし個人事業での経費が多く、所得がそこまで多くない場合には、年商が1000万円を超えていたとしても、法人化しない方が良いでしょう。
具体的には、所得税率は国税庁の「所得税の税率」によると330万円〜694万9千円で20%かかりますですが、中小企業の法人税は、同じく国税庁の「法人税の税率」によると800万円以下で15%になります。
そのため、経費を除いた所得が330万円以上であれば法人化した方が税率は低くなりますが、それ以下であれば法人化すると損する可能性が高くなります。
また、法人を設立するには資金が必要になるため、年商が1000万円以上あったとしても経費が多く所得がそこまで多くないという場合には、法人化することはあまりおすすめできません。
一時的に年商が1000万円を超えた場合
何か特別な要因によって、年商が1000万円を超えた場合はすぐに法人化をすると損する可能性が高くなります。
売上が上がると、より事業を拡大するために法人化しようと考える方がほとんどではないでしょうか。
しかし、今後の年商の見込みを分析し、来年度以降も安定して年商1000万円以上が見込める場合のみ法人化を検討することをおすすめします。
また、今年度と前年度を比較して、どのような理由で年商が上がったのかを明確にすることで、今年度の売上が一時的なものなのか、今後も見込めるものなのか判断できるでしょう。
法人化するのに資金が必要ということはもちろんですが、法人化前も法人化してからも手続きや事務処理、会計業務に時間を取られることになります。
法人化したら本来の事業以外の業務に時間が取られて、売上が落ちてしまうということもあり得ますので、年商が1000万円を超えたからといって、焦って法人化する必要はありません。
年商1000万円でもすぐに法人化しない方がいい場合もある?
消費税の支払いにおける基準期間は前々年度になるので、2年度前の売上高に対して消費税を支払うことになります。
そのため、個人事業主でも法人でも同様になりますが、開業して2年間は消費税を支払う必要がありません。
これは、個人事業主から法人化しても有効です。
この免税される期間をいつ利用するかで、長期的に見ると消費税の支払額が大きく変わってきます。
例えば年商が1000万円の段階で法人化をして、1000万円が免税されるより、事業が拡大して年商が3000万円の段階で法人化をして免税された方が消費税の節税になります。
短期的に見るのではなく、長期的に見て今後どのくらいの期間でどの程度売上が上がりそうか判断し、法人化するタイミングを考えるべきでしょう。
法人化するメリットとは?
ここまで、法人化しない方が良いパターンについてお伝えしてきましたが、ここからは法人化するメリットとデメリットについてお話していきます。
個人事業主として事業を行っていて法人化するタイミングを窺っている方はもちろん、これから個人で開業しようとしている方もぜひチェックしてみてください。
まずは法人化するメリットについてお伝えします。
先ほどもお話したように、所得税と法人税の税率を比べたときに一定の所得を超えると法人税の方が税率が低くなるというのもメリットの1つと言えます。
そこで、ここではそれ以外の法人化するメリットについて3つご紹介します。
家族への給与を経費にできる
法人化すると、役員報酬を経費として計算することができます。
自分1人で事業を行っている場合、自分の給与のみを役員報酬として計算することになりますが、家族を役員として登記することで、その家族への給与も経費として計算することが可能です。
法人の利益が大きくなると同時に法人税も高くなるため、法人に利益を残しておくより役員報酬として自分の家族に支給することで、法人税の節税になります。
もちろん役員報酬にも決まりがあり、事前に届出が必要になるので、詳しくは国税庁の「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」などを確認してみることをおすすめします。
融資を受けやすくなる
個人事業主は、税務署で開業届を提出するだけで開業することが可能です。
そのため、届出を出すだけでそこまで力を入れて事業に取り組んでおらず、事業所得がほとんどないという場合もあります。
また、確定申告の際に財政状況を示す書類を提出する義務がないことから、融資をする側が返済能力があるかどうか確認しにくくなっています。
こういった理由から、個人事業主が融資を受けるのは難しいのが現実です。
一方で、法人の場合は決算報告書の中に貸借対照表と損益計算書が含まれているため、銀行の融資を受けやすくなります。
法人化してすぐでも、無担保・無保証人で融資を受けることができる日本政策金融公庫の「新創業融資制度」を利用することも可能です。
企業との取引において信用度が高くなる
事業を拡大するにつれて、取引先が増えたり取引先の企業の規模が大きくなることがあるでしょう。
しかし、大企業になると、個人とは取引を行わないということが多くあります。
法人の場合は開業の際に登記を行うこともあり、企業情報が外部からも分かりやすくなっています。
一方で個人事業主の場合、融資のお話でもお伝えしたように、開業しやすいという理由や、財政状況が分かりにくいという理由、また具体的な事業内容が分かりにくいという理由から、全く関わりのない取引先に信用させるのは難しくなります。
そのため今後、大企業との取引を視野に入れた事業計画をしている個人事業主の方にとっては、法人化するメリットは十分にあると言えるでしょう。
ただし、法人化しない方が良い時期もありますので、現在の事業の売上や状況、今後について冷静に判断した上で法人化の手続きを進めることをおすすめします。
法人化するデメリットとは?
ここからは法人化するデメリットについてお伝えします。
資金面だけでなく、きちんと準備をしておかないと法人化をすることで事業に集中しにくくなってしまうなどのデメリットもあるので、必ずチェックしてください。
法人設立にお金がかかる
まずは資金面に関するデメリットについてです。
個人事業主が事業を開始するには、税務署に開業届を提出するだけなので手間もお金もかかりません。
しかし、法人を設立するには登記が必要で、コストがかかります。
一般的に法人化する際に、1人または家族のみで新設する場合は株式会社か合同会社になります。
株式会社は、法人に出資する株主と実際に経営を行う取締役が別々に存在する法人のことで、合同会社は株主が経営者となって会社を運営する法人のことです。
それぞれ新設するのにかかる費用や書類が異なりますが、ここでは費用面についてお伝えします。
株式会社の設立にかかるお金
株式会社の設立には、定款認証手数料と定款謄本代・定款印紙代、登録免許税などがかかります。
定款認証手数料額は令和4年1月1日より、資本金の額等が100万円未満の場合3万円、資本金の額等が100万円以上300万円未満の場合4万円、その他の場合5万円に改定されました。
参考:会社の定款手数料の改定(日本公証人連合会)
そのため、定款認証手数料は3万円〜5万円と考えておくと良いでしょう。
定款印紙代は、日本公証人連合会によると電子認証の場合以外は4万円かかるようです。
また、定款謄本代についてはページ数によって異なるため、作成の際に確認が必要になります。
登録免許税は国税庁の「登録免許税の税額表」によると、資本金の額の1,000分の7と決まっており、最低15万円〜です。
そのため、少なくとも20万円程度かかると考えておきましょう。
この他に証明書代など1通数百円程度かかります。
合同会社の設立にかかるお金
一方で合同会社の設立には、定款認証が必要ないため登録免許税と証明書代のみがかかります。
合同会社の登録免許税も株式会社と同様に資本金の額の1,000分の7になりますが、最低金額が株式会社より低く、資本金が6万円に満たないときは、1件6万円です。
参考:登録免許税の税額表(国税庁)
そのため、株式会社を新設するよりも合同会社を新設する方が低コストで済みます。
しかし合同会社は株式会社よりも、一般的に認知度があまり高くなく、代表者も「代表」「代表社員」という肩書きしか使用できないというデメリットもあります。
このように、株式会社と合同会社のどちらを選択しても、個人事業主と比べて法人を設立するにはコストがかかることが分かります。
このようなコストや書類の準備などの手間をかけても法人化するメリットがご自身の事業にあるのかどうか、考えてから法人化の準備を進めるようにしましょう。
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社会保険の負担金がかかる
1人で事業を行っている個人事業主の場合、社会保険の加入義務はありませんが、法人化した場合、1人で事業を行っていたとしても社会保険に加入しなければなりません。
社会保険料は会社と個人が半分ずつ負担することになるため、個人事業主のときよりも個人の負担金額自体は少なくなります。
しかし、法人化したてで事業が安定していない場合など、会社の少ない利益で社会保険料も賄わなけばならないとなると、社会保険料が法人の負担になる可能性も十分にあります。
個人事業主としてある程度安定した事業所得があり、法人化しても事業の拡大や安定した利益が見込める場合でも、法人化を検討するにあたっては、社会保険料の負担金についても考慮することをおすすめします。
事務処理が増える
個人事業主の場合は、個人で確定申告を行えることがほとんどです。
一方で法人化した場合、法人税申告書の作成や決算報告書の作成を個人のみで行うことは難しくなります。
そのため、多くの法人が税理士にお願いしています。
しかし税理士に丸投げというわけにはいかず、会計帳簿などの経理に関する管理は代表者が行う必要があるのです。
税理士にお願いするにも費用がかかりますし、経理担当として人を雇うにも人件費がかかります。
だからといって全て代表者1人で事務処理をしてしまうと、そればかりに時間が取られ、肝心の事業が疎かになりかねません。
このように、法人化した場合、事務処理には時間やコストがかかるというデメリットがあると理解しておいた方が良いでしょう。
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まとめ
大切なのは今年度や前年度のみの売上を見るだけでなく、しっかりと分析を行い、来年度以降の売上もこれまでの分析に基づいて予測を立てることです。
もし法人化した方がメリットが大きいという結論に至った場合には、予測を立てた来年度以降の売上を考慮して、消費税の免税期間となる2年間をいつ活用するか検討し、適切なタイミングで法人化することをおすすめします。
年商が1000万円を超えたからといって、焦って法人化する必要はないので、さまざまなパターンを予測して、結果的に黒字になるように事業を行なっていきましょう。
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相談は何度でも無料なので、お気軽にご相談ください。