個人事業主にとって、インボイス制度の導入は事業の未来を左右するほどの大きな出来事と言われています。
しかし、インボイス制度について詳しく分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、ここではインボイス制度について、個人事業主に与える影響を分かりやすく徹底的に解説していきます。
目次
個人事業主の消費税免税がなくなるのはどうして?
インボイス制度導入に伴い、消費税免税の恩恵を受けられる個人事業主がいなくなると言われています。
個人事業主のうち課税事業者は、消費税を二重に支払うことがないよう、仕入額控除の適用を受けることができます。
この仕入れ額控除適用のためには、インボイス=適格請求書が必要になります。
しかし、インボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者に限定されています。(適格請求書発行事業者になるためにはまず課税事業者になる必要があるため、適格請求書発行事業者は全員が課税事業者です。)
適格請求書発行事業者=課税事業者は、仕入れ額控除適用のため、インボイスを発行できる業者との取引を望むようになるのは想像に難くありません。
このため、免税事業者との取引は、課税事業者にとって税制上デメリットが発生するため、課税事業者同士で取引をするようになることが考えられます。
課税事業者からの取引停止を忌避するために、今までは消費税免税の恩恵を受けていた免税事業者たちも、自主的に課税事業者になろうとすることが予想されます。
これは免税事業者の数が減ることを意味しており、個人事業主の消費税免税は事実上消滅する可能性も高いでしょう。
インボイス制度とは?
インボイス制度とは、一言で述べると売り手と買い手の間で詳細な請求書をやり取りすることを義務付ける制度です。
この制度は消費税の誤納付や不当利益の発生を防ぐことを目的としています。
消費税率は8%のものと10%のものが混合しているのが現状です。
その混合による納税のミスを解消するものがインボイス制度になります。
8%の税率で仕入れた商品を10%で計上したり、逆に10%で仕入れた商品を8%で計上したりする可能性が高いでしょう。
これらは、ミスの場合もあれば不正に意図的に行われることもあります。
このような不正を防ぐために、売り手と買い手の間でインボイスをやり取りすることを義務付けたのがインボイス制度です。
売手側は、買手側から求められたときはインボイスを交付しなければなりません。
また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります。
買い手側は、売手から交付を受けたインボイスを保存することが必要です。
このようにしないと、仕入税額控除の適用を受けることができません。
このように、取引においてインボイスを使用し、保存することを義務付ける制度をインボイス制度と言います。
(参考元:国税庁HP)
適格請求書とは?
適格請求書=インボイスとは、現行の「区分記載請求書」に、「適用税率」「消費税額等」及び「登録番号」の記載を義務化したものです。
「登録番号」とは、適格請求書発行事業者が適格請求書発行事業者登録簿に登載される際に付与される番号のことを言います。
つまり、インボイス制度の下での新しい登録番号ということになります。
現在の課税業者の条件とは?
インボイス制度導入に伴う課税事業者との取引停止回避のため、課税事業者になろうとする免税事業者が増えることが考えられるでしょう。
課税事業者になるためには、下記2つの条件のうちのいずれかを満たしている必要があります。
- 基準期間における課税売上高が1,000万円を超える
- 特定期間における課税売上高が1,000万円を超え、かつ給与支払額が1,000万円を超える
この条件のいずれかを満たしていれば、自動的に課税事業者となるのです。
個人事業主の消費税免除がなくなるのはいつから?
免税事業者が課税事業者になる、つまり消費税免除がなくなるのはいつからなのでしょうか。
それは、下記3つの条件のうちいずれかを満たしたタイミングになります。
- 基準期間における課税売上高が1,000万円を超える
- 特定期間における課税売上高が1,000万円を超え、かつ給与支払額が1,000万円を超える
- 自ら課税事業者となることを選択し、適格請求書発行事業者となる
一つ目と二つ目は、売上増加により、消費税の納税義務が生じたケースです。
いわば事業拡大に伴う必然的な結果と言えます。
しかし、三つ目の「自ら課税事業者を選択し、適格請求書発行事業者となる」については、消費税免除という恩恵を自ら手放していることになります。
個人事業主が消費税の免税業者のままだとどうなる?
課税売上高が1000万円以下の個人事業主にとって、消費税免除の恩恵は非常に大きいです。
しかし、この恩恵に預かったまま免税事業者を継続していると、インボイス制度では下記のような2つのデメリットが発生します。
- 仕入税額控除ができない
- 取引先から敬遠される可能性がある
仕入税額控除ができない
インボイス制度の導入によって、課税事業者は、免税事業者との取引において仕入税額控除ができなくなります。
なぜならば、仕入税額控除を適用する為にはインボイス制度に則る必要があり、国に定められた書式のインボイスを保存・提出しなければならないからです。
しかし、インボイスを発行できるのは課税事業者に限定されており、免税事業者では発行することができません。
このため、課税事業者にとって、免税事業者との取引においては仕入税額控除の適用ができなくなるというデメリットが発生します。
取引先から敬遠される可能性がある
インボイス制度の導入に伴い、免税事業者は取引先から敬遠される可能性が高くなっています。
取引先が課税事業者であった場合、取引において仕入額控除を適用すれば、納付する税金が減額されます。
この仕入額控除の適用のためにはインボイスの発行が必要です。
しかし、インボイスの発行は課税事業者に限定されており、免税事業者には発行が認められていません。
このため、課税事業者は課税事業者との取引を望むようになり、免税事業者は取引先として敬遠されてしまう可能性もあるのです。
インボイスを発行するには?
個人事業主がインボイスを発行するためには、下記の二点の手続きを完了させる必要があります。
- 「適格請求書発行事業者」への登録
- 「消費税課税事業者選択届出書」の提出
「適格請求書発行事業者」への登録
適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録を受けるという形になります。
なお、課税事業者でなければ登録を受けることはできないので、免税事業者はまず課税事業者となり、その後適格請求書発行事業者への登録をする、という順番を踏まなければいけません。
また、適格請求書発行事業者になると、基準期間の課税売上高が 1,000 万円以下となった場合であっても消費税及び地方消費税の申告義務が生じますのでご注意ください。
(参考元:国税庁パンフレット)
「消費税課税事業者選択届出書」の提出
免税事業者では適格請求書発行事業者になることができないので、まずは消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。
この消費税課税事業者選択届出書は、課税期間前日までに税務署に提出しなければなりません。
例えば事業年度が毎年1月1日から12月31日までの個人事業主の場合、令和2年1月1日から課税事業者となることを希望するのであれば、令和元年12月31日までに税務署へこの書類を提出する必要があります。
(参考元:消費税課税事業者届出書)
インボイス制度の目的とは?
免税事業者に様々な打撃を与える可能性が高いインボイス制度ですが、どのような目的で導入される制度なのでしょうか。
インボイス制度導入の目的は、以下の三つです。
- 消費税の支払い逃れの阻止
- 納税の厳格化
- 不正の防止
消費税の支払い逃れの阻止
インボイス制度の目的として挙げられるのが、消費税の支払い逃れの防止です。
免税事業者の場合、取引先から受け取った消費税を納める必要がありません。
このような免税事業者の利益享受を防ぐことが、インボイス制度の目的の一つと言うことができます。
納税の厳格化
インボイス制度は、納税ルールを厳格に守らせることも目的の一つとしています。
インボイス制度の導入に伴い、免税事業者、つまりインボイスを発行できない事業者との取引において、仕入れ額控除を適用できないという厳しいルールが定められました。
この厳格なルールができたことにより、課税事業者は正確な額の納税をせざるを得なくなったのです。
不正の防止
消費税の納税に関して、これまでは軽減措置が適用されている8%の商品・サービスと、改定後の10%の商品・サービスが混在し、各取引の正確な納税額が分からないという状況でした。
この課題を解決すべく、まずは区分記載請求書に消費税率を明記するルールが策定されたのです。
さらにインボイス制度の導入によって、仕入れ額控除を適用するためにはインボイスを保管しておかなければならないルールができました。
仕入れ額控除を適用するメリットは大きいので、課税事業者たちはインボイスをしっかり保管するようになります。
国税庁としても、保管されたインボイスを見れば、消費税率が8%か10%か明確に分かり、納税額不正の防止に繋がると考えられます。
このように、インボイス制度には納税額の不正を防止する目的もあるのです。
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まとめ
インボイス制度導入に伴い、免税事業者は様々な対応に迫られることでしょう。
事業規模を拡大し、1000万円を超える売上を出せればいいですが、全事業主ができることではありません。
事業主にとって、課税事業者になるかどうかの判断は、取引を停止されるリスクや消費税納税のデメリットをしっかり考えることが重要になります。
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