個人事業主が営める事業の数に制限はなく、所得税の確定申告は個人単位で1つにまとめて行います。
確定申告や個人事業税、消費税の判定はいずれも「事業ごと」ではなく「個人単位」で行われるため、屋号や事業の数が増えても手続きそのものが複雑になるわけではありません。
📋 この記事で分かること
- 個人事業主が複数事業を営む際の基本ルール
- 屋号の付け方・複数屋号の登録方法
- 確定申告のやり方(所得の合算方法)
- 個人事業税の計算と290万円控除の注意点
- 消費税・簡易課税制度の事業区分の注意点
- 複数事業を営むメリット・デメリット
- 法人化を検討すべきタイミング
目次
個人事業主は複数事業を営める?基本ルールを確認
個人事業主が営める事業の数に制限はありません。
所得税の確定申告は個人単位で行うため、事業ごとに別人の個人事業主として申告するわけではないからです。
複数の事業を同時に始める場合は、その内容が分かるように1枚の開業届にまとめて記載します。
すでに事業を営んでいる人が後から別の事業を始め、その活動が新たに事業所得等を生ずべき事業の開始にあたる場合は、改めて開業届の対象となります。
提出済みの開業届を後から書き換える手続きではありません。
- 複数事業を営む場合でも所得税の確定申告は個人単位で1つにまとめる
- 事業ごとに許認可が必要な場合は個別に確認が必要
事業を始めるたびに開業届の要否を確認する
複数の事業を同時に始める場合、開業届は1枚の書式で提出できます。
職業欄には主な事業を記載し、屋号欄には使用する屋号を記入するのです。
ただし、開業届はすでに提出した書類を後から書き換える制度ではありません。
事業を営んでいる人が新たに事業所得等を生ずべき事業を始めた場合は、その都度、改めて開業届の提出対象になります。
なお、青色申告を始めるには、開業届とは別に「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
事業ごとに許認可が必要な場合は個別に確認
飲食業や古物商など、許認可が必要な業種を追加する場合は、開業届とは別に保健所や警察署などへの許認可申請が必要です。
事業を追加する際は、その事業に許認可が必要かどうかを事前に確認しておきましょう。
複数事業を営む場合の屋号の付け方
事業ごとに屋号を分けることで、顧客に事業内容を伝えやすくなり、屋号付きの銀行口座を使い分けることもできます。
事業ごとに異なる屋号を持てる
個人事業主は、事業内容に応じて複数の屋号を使い分けることができます。
例えば、飲食店とWebデザインの2つの事業を営む場合、それぞれの事業内容が伝わる屋号を個別に設定できるのが一般的です。
ただし、屋号には法人の商号のような公的な登録制度はなく、開業届や確定申告書への記載だけで名称に独占的な権利が生じるわけではありません。
屋号を決める際の注意点
屋号を決める際は、次の点に注意することが大切です。
- 「株式会社」「合同会社」など法人と誤認させる文言は使用できない
- 既に登録されている商標と同一・類似の屋号を使うとトラブルになる可能性があるため、事前に商標の確認をしておくと安心
請求書、契約書、帳簿などで屋号と事業内容の対応を明確にしておきましょう。
屋号付きの銀行口座を開設できるかどうか、複数の屋号ごとに口座を作れるかどうかは、金融機関の審査によって異なります。
【参考】個人事業主から合同会社へ切り替えるべき?それぞれの特徴や流れを解説
複数事業の確定申告のやり方
複数事業を営んでいても、確定申告書は1部にまとめて提出します。
事業ごとに申告書を分ける必要はありません。
追加した事業が事業所得になるとは限らない
複数の活動から収入を得ていても、そのすべてを自由に事業所得として申告できるわけではありません。
事業所得に該当するかどうかは、営利性・継続性・事業としての規模・自己の危険と計算における企画遂行性などから、社会通念上「事業」といえるかどうかで判断されます。
開業届を提出しただけで事業所得になるわけではありません。
規模が小さく事業性が認められない副業などは、業務に係る雑所得として扱われる場合があります。
確定申告書・青色申告決算書は事業をまとめて1部
所得税の確定申告書は、事業の数にかかわらず個人として1件提出します。
同じ事業所得に該当する事業は、原則として合計して事業所得を計算しなければなりません。
一方、事業所得、不動産所得、農業所得など所得区分や使用する様式が異なる場合は注意が必要です。
それぞれに対応する青色申告決算書や収支内訳書を作成し、最終的に1件の確定申告書へ反映します。
なお、青色申告特別控除は事業ごとに65万円受けられるわけではなく、対象となる所得を通じて最高65万円・55万円または10万円が上限です。
事業所得に該当する複数事業の利益と損失は事業所得の中で合算して計算できますが、雑所得の赤字は事業所得や給与所得など他の所得と損益通算できない点には気を付けましょう。
事業ごとに帳簿を分けて管理する
確定申告自体は1部にまとめますが、日々の帳簿は事業ごとに分けて記帳しておくことをおすすめします。
どの事業がどれだけの利益を生んでいるかを把握しやすくなるほか、後述する個人事業税や消費税の計算でも、事業ごとの数値が必要になる場面があります。
個人事業税の計算と290万円控除の注意点
個人事業税は、地方税法で定められた法定業種を営む個人事業主に課される地方税です。
複数事業を営む場合の控除の考え方を誤解しやすいため、事前に理解しておきましょう。
事業主控除は事業の数にかかわらず年290万円のみ
個人事業税には年290万円の事業主控除がありますが、この控除は事業を複数営んでいても、個人1人につき年290万円のみです。
「事業が2つあるから580万円控除される」という誤解をしないよう注意が必要です。
個人事業税の課税標準は、所得税の事業所得の計算とは異なります。
所得税で受けた青色申告特別控除額は個人事業税では適用されません。
いったん所得に加算し直したうえで、法定業種に該当しない所得を除いた金額から290万円の事業主控除を差し引いて計算します。
営業期間が1年未満の場合、290万円の事業主控除は月割りで計算される点に留意が必要です。
業種ごとの税率(3〜5%)で按分計算
個人事業税の対象となる法定業種は70業種あり、税率は業種によって3%・4%・5%のいずれかに分かれています。
複数の業種を営んでいる場合は、事業主控除後の課税標準を各事業の所得割合で按分し、それぞれの業種の税率を掛けて計算します。
事業ごとの所得を明確に区分しておくことが重要です。
なお、法定業種のいずれにも該当しない事業を営んでいる場合、その所得には個人事業税がかかりません。
消費税・簡易課税制度を利用する場合の注意点
消費税の納税義務は屋号や事業ごとではなく、同じ個人事業者が行うすべての事業を合計して判定します。
原則として、基準期間の課税売上高や特定期間の課税売上高等が1,000万円を超える場合は課税事業者です。
また、インボイス登録を受けている間は、売上規模にかかわらず免税事業者にはなりません。
課税売上高が一定額を超えて消費税の課税事業者になった場合、複数事業を営んでいると簡易課税制度の計算で見落としが起きやすくなります。
簡易課税は事業区分ごとにみなし仕入率が異なる
簡易課税制度では、事業を第1種(卸売業・みなし仕入率90%)から第6種(不動産業・みなし仕入率40%)まで区分し、それぞれ異なるみなし仕入率を適用します。
原則として、事業区分の判定は課税資産の譲渡等(取引)ごとに行うこととされています。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 該当業種の例 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業 |
| 第2種 | 80% | 小売業、飲食料品を扱う農林漁業 |
| 第3種 | 70% | 製造業、建設業、鉱業など |
| 第4種 | 60% | 飲食店業など |
| 第5種 | 50% | 運輸業、金融・保険業、サービス業 |
| 第6種 | 40% | 不動産業 |
複数事業を営む個人事業主は、Web制作(サービス業=第5種)と物販(小売業=第2種)のように異なる区分にまたがるケースが少なくありません。
簡易課税制度を選択できるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に限られます。
原則として、適用を受けようとする課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署へ提出しなければなりません。
なお、1種類の事業区分の課税売上高が全体の75%以上を占める場合は、その事業のみなし仕入率を全体に適用できる特例もある点がポイントです。
区分経理をしないと最も低いみなし仕入率が適用される
複数の事業区分がある場合に売上を区分せずにいると、区分していない部分については、その中で最も低いみなし仕入率が適用されてしまいます。
例えば、Web制作(第5種・みなし仕入率50%)と物販(第2種・みなし仕入率80%)を営んでいて区分経理をしていないと、全売上に50%のみなし仕入率が適用され、納税額が増えてしまうのです。
帳簿や請求書などから、各取引がどの事業区分に該当するかを客観的に判別できるように記録しておくことが欠かせません。
個人事業主が複数事業を営むメリット
複数事業を営むことで、収入源が分散し、事業ごとの相乗効果も期待できます。
- 収入源を分散できる
- 屋号ごとに顧客の信頼を得やすい
収入源を分散できる
1つの事業が季節や景気の影響で落ち込んでも、他の事業でカバーできる可能性があります。
収入源を複数持つことで、経営の安定性を高められる点は大きなメリットです。
屋号ごとに顧客の信頼を得やすい
事業内容に合わせた屋号を使い分けることで、顧客からは専門特化した事業者として認識されやすくなります。
業務内容が分かりやすい屋号をつけることで、営業や集客の面でも有利に働くことがあります。
個人事業主が複数事業を営むデメリット・注意点
複数事業を営むことにはメリットがある一方、税負担や管理コストの増加といったデメリットもある点に注意が必要です。
- 所得が増えると税負担が上がる
- 事業ごとの管理コストが増える
所得が増えると税負担が上がる
複数事業の所得を合算した結果、所得税は累進課税により税率が上がる可能性があります。
前述の個人事業税や消費税の計算も複雑になりやすいため、所得が一定水準を超えてきたら早めに税理士へ相談することをおすすめします。
事業ごとの管理コストが増える
事業が増えるほど、帳簿付けや請求書管理、取引先とのやり取りにかかる手間も増えることは避けられません。
会計ソフトの部門機能を使い分けるなど、管理の仕組みを整えておくと、事業拡大後も対応しやすいでしょう。
また、銀行口座やクレジットカードを事業ごとに分けておくと、後から経費を仕分けし直す手間を減らせます。
事業が3つ以上に増えてきた場合は、記帳代行や税理士への部分的な業務委託も選択肢に入れておくと、本業に充てる時間を確保しやすくなるでしょう。
【参考】個人事業主と法人は掛け持ちはできる?掛け持ちするメリット・デメリットを徹底紹介
複数事業が拡大したら法人化も検討する
複数事業の合計所得が大きくなってきた場合、法人化によって税負担や社会的信用の面でメリットが生まれることがあります。
法人化のメリット
法人化すると、事業ごとに部門を分けて経営管理をしやすくなるほか、法人税の軽減税率や役員報酬の経費計上など、個人事業主にはない節税の選択肢が増えます。
取引先によっては、法人でないと契約できないケースがある点も法人化を検討する理由の一つです。
ただし、役員報酬を経費(損金)にするには定期同額給与などの要件を満たす必要があり、原則すべてを自由に経費化できるわけではありません。
また、法人の事業所は代表者1人のみであっても、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所となり、保険料負担が生じる点にも注意が必要です。
【参考】個人事業主は会社設立すべき?それぞれのメリット・デメリットや違い、やるべきことなどを紹介
法人化を検討する目安
| 項目 | 個人事業主(複数事業) | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 事業ごとの区分方法 | 屋号と帳簿上の区分 | 事業部・子会社などで区分可能 |
| 赤字時の負担 | 所得がなければ所得税は原則発生しない | 均等割が定額で発生する |
| 税率の傾向 | 所得が増えるほど累進的に上昇 | 中小法人は年800万円以下15%の軽減税率あり |
| 社会的信用 | 屋号次第で個人事業と認識されやすい | 登記情報が公開され対外的な信用を得やすい |
法人化すべき所得額について、法律や税務上の一律の基準があるわけではありません。
「合計所得800万円」という数字が目安として語られることがあります。
これは中小法人の法人税に一定の所得部分まで15%の軽減税率が適用される区分であり、個人事業主が法人化すべき所得水準を直接示すものではありません。
実際に有利・不利を判断するには各種税金、社会保険料、法人の維持費用まで含めて比較する必要があります。
所得が継続的に増えている場合のほか、取引先から法人格を求められた場合、従業員を採用する場合、事業承継や資金調達を重視する場合なども、法人化を検討するタイミングになります。
事業内容や家族構成によって最適な判断は変わるため、具体的な数値をもとに税理士へシミュレーションを依頼するのが安心です。
複数事業のうち一部だけを法人化し、残りを個人事業として続ける「一部法人化」を選ぶ事業者もいます。どちらが有利かは所得水準や事業内容によって変わるため、早めに専門家へ相談しておくと判断しやすくなります。
【参考】ここが法人化の分岐点!個人事業主が法人化する最適なタイミングを解説します!!
まとめ
この記事では「個人事業主は複数事業を営める」について解説しました。
押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 所得税の確定申告は事業の数にかかわらず個人として1件にまとめる
- 複数の活動があっても、事業所得になるかどうかは規模や継続性などで別途判定される
- 青色申告特別控除・個人事業税の事業主控除は、事業の数が増えても増額されない
- 消費税の課税事業者判定や簡易課税の売上高判定は、事業ごとではなく個人全体で行う
会社設立や法人化に関するお悩みは、税理士法人経営サポートプラスアルファの無料相談をご活用ください。
設立手続き・資金調達から設立後の税務まで、専門家が一貫してサポートします。
よくある質問(FAQ)
Q. 個人事業主は開業届を事業ごとに複数出す必要がありますか?
個人事業主が営める事業の数に制限はありません。複数の事業を同時に始める場合は、その内容が分かるように1枚の開業届にまとめて記載します。
ただし、提出済みの開業届を後から書き換える手続きはなく、すでに事業を営んでいる人が新たに事業所得等を生ずべき事業を始めた場合は、改めて開業届の提出対象になります。
Q. 複数事業でも確定申告書は1つでいいですか?
事業所得に該当する複数事業であれば、所得を合算して1件の確定申告書にまとめるのが基本です。ただし不動産所得や農業所得など所得区分が異なる場合は、それぞれに対応する決算書等を作成したうえで、最終的に1件の確定申告書へ反映します。
なお、開業届を提出しただけで事業所得になるわけではなく、規模が小さく事業性が認められない副業などは雑所得として扱われることがあります。事業所得同士は黒字と赤字を相殺できますが、雑所得の赤字は事業所得や給与所得と損益通算できません。
Q. 個人事業税や青色申告特別控除は事業の数だけ増えますか?
増えません。個人事業税の事業主控除は事業の数にかかわらず、個人1人につき年290万円のみです(営業期間が1年未満の場合は月割り)。所得税で受けた青色申告特別控除は個人事業税では適用されないため、いったん所得に加算し直したうえで税額を計算します。
また、青色申告特別控除も事業ごとに65万円ずつ受けられるわけではなく、対象となる事業所得等を通じて最高65万円・55万円または10万円が上限です。
Q. 簡易課税制度や消費税の課税事業者判定で複数事業を営む場合の注意点は?
消費税の課税事業者かどうかは、屋号や事業ごとではなく、同じ個人事業者が行うすべての事業の課税売上高を合計して判定します。基準期間の課税売上高等が1,000万円を超えると課税事業者になり、インボイス登録を受けている間は売上規模にかかわらず免税事業者にはなりません。
簡易課税制度では、事業区分ごとに売上を区分経理していないと、区分していない部分に最も低いみなし仕入率が適用されてしまいます。帳簿や請求書などから、各取引がどの事業区分に該当するかを客観的に判別できるように記録しておくことが重要です。なお簡易課税を選択できるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に限られ、事前に届出書の提出が必要です。
Q. 複数事業を営むと社会的信用は下がりますか?
事業内容や屋号の付け方によって変わります。
業務内容が分かりやすい屋号を使い、事業ごとに実態を説明できるようにしておけば、取引先からの信用を維持しやすくなります。
Q. 複数事業が増えたら法人化すべきですか?
法人化すべき所得額に一律の基準はありません。「合計所得800万円」という数字は、中小法人の法人税に軽減税率(原則年800万円以下の部分に15%)が適用される区分であり、法人化の判断基準そのものではありません。
個人側の税金と、法人税・社会保険料・法人の維持費まで含めて比較したうえで、税理士にシミュレーションを依頼して判断することをおすすめします。
Q. 屋号は後から追加できますか?
使い分けは可能です。屋号には法人の商号のような公的な登録制度がないため、新しい事業を始める際に確定申告書や請求書などへ新しい屋号を記載して使用できます。
ただし、記載によって名称の独占的な権利が生じるわけではありません。事業内容によっては別途許認可の確認が必要になることもあります。
複数事業を営む場合は、確定申告や税金の計算が複雑になりやすいため、早めに税理士へ相談しながら管理体制を整えることをおすすめします。
監修:税理士法人経営サポートプラスアルファ

