会社経営者、とりわけ中小企業の経営者にとって、家族を会社の役員にすることは一般的な手法です。これは主に経済的なメリットを享受するための方法であり、家族経営としての安定性を図ることが目的です。
この記事では、家族を役員にすることの具体的なメリットとデメリットについて詳しく解説し、それぞれの対策についても触れていきます。
家族を役員にするメリット
所得税の節税
家族を会社の役員にすることで、所得税の節税が可能です。所得税は累進課税であるため、個人の収入が高いほど税率も高くなります。しかし、役員報酬として家族に収入を分配することで、個人ごとの収入を低く抑えることができます。これにより、所得税の負担を軽減することができます。
例えば、年収720万円の社長がその収入を配偶者と分け、各自360万円ずつにした場合、所得税率はそれぞれ約9.6%となり、全体の税負担が軽減されます。これは単純計算の例ですが、実際の節税効果はさらに大きいことが多いです。
相続税・贈与税の対策
家族を役員にすることで、相続税や贈与税を減らすことも可能です。役員報酬として家族に資産を渡すことで、相続時に課税される財産の総額を減らすことができます。また、役員報酬として資産を移転するため、贈与税も回避できます。これにより、家族間での資産移転がスムーズかつ税効率的に行えます。
社会保険の加入
家族を役員にすることで、社会保険に加入させることができ、年金や医療保険の面でのメリットがあります。特に、厚生年金に加入することで、将来的な年金受給額が増えます。これは、老後の生活を安定させるための重要な手段となります。
高額な役員報酬の支払い
役員と従業員の給与体系は異なるため、高額な役員報酬を支払うことが可能です。役員報酬は会社の利益に対して支払われるため、実務に見合う報酬であれば高額な支払いも正当化されます。税務調査において妥当性が認められれば、家族に高額な報酬を支払うことができます。
家族を役員にするデメリット
社内の不和
家族を役員にすることで、社内での公平感が損なわれる可能性があります。特に、親族が努力なしに高額な報酬を受け取っていると見なされると、他の従業員の労働意欲が低下し、社内の人間関係が悪化する恐れがあります。このような状況を避けるためには、透明性のある報酬制度を設けることが重要です。
役員報酬の固定化
役員報酬は基本的に事業年度途中で変更することができません。経営状況が悪化した場合でも、期首に決めた報酬額を支払わなければならないため、財務的な柔軟性が欠けることがあります。経営が著しく悪化した場合に限り、例外的に変更が認められることもありますが、基本的には難しいとされています。
副業規定の制約
妻が他の会社で働いている場合、その会社の副業規定によっては、夫の会社で役員になることが禁止されることがあります。このため、妻が勤めている会社の就業規則を事前に確認することが重要です。
みなし役員のリスク
「みなし役員」とは、法人税法上の役員と同じ扱いを受ける人物を指します。役員登記をしていなくても、経営に実質的に関与している場合に該当することがあります。みなし役員と認定されると、役員報酬の制限を受けるため注意が必要です。
みなし役員の判定条件
みなし役員の判定条件としては、以下の要素が考慮されます。
- 役員と同等の経営関与(重要な決定に携わる)
- 株式の5%以上を保有し、経営に関与している
みなし役員への対策
みなし役員と判定されることを避けるためには、以下の対策が有効です。
- 経営に関与する家族には株式を保有させない
- 株式を保有している家族には経営に関与させない
みなし役員への対策は、中途半端な権利譲渡を避けることが一番です。
株式を保有している人には経営には触れさせない、経営に関わってもらうなら株式を保有させないなど、はっきりとした線引きが必要です。家族に、従業員として自分の会社で働いてもらうなら、みなし役員と判定されてしまいそうなことは避けるようにしましょう。
まとめ
経営者の中には、家族を役員に登記して働いてもらうことがあります。
家族の役員登記には、所得税、相続税、贈与税の節税ができる、家族が社会保険に加入することができる、家族に高額な報酬を渡すことができる、などのメリットがあります。
一方で、家族経営ということでよくないイメージを持たれてしまい、社員のやる気の低下が起こる、新入社員を獲得しにくくなるというリスクを負うことになります。
また、役員として登記していないのに、税法上役員としてみなされ、報酬や賞与に制限がつけられてしまう「みなし役員」にも注意しなければなりません。
みなし役員と判定される条件は、株式の保有、会社経営への参画などが挙げられます。
不安がある場合は、専門家への相談が一番です。ぜひ、「経営サポートプラスアルファ」にご相談ください。