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医療法人の設立にかかる期間や手続きを解説。医療法人のメリット・デメリットも

医療法人の設立にかかる期間や手続きを解説。医療法人のメリット・デメリットも

病院やクリニックには、個人事業主として運営しているケースと、医療法人として運営しているケースがあります。

個人運営のクリニックと、医療法人とはどのような違いがあり、運営上のメリットやデメリットは存在するのでしょうか。

この記事では、医療法人についての説明と、医療法人設立までの流れなど関連事項について解説しています。

病院やクリニックの運営形態や、医療法人設立について、興味がある方は記事内容をぜひご確認ください。

医療法人制度とは

医療法人制度とは医療制度の安定と拡充を目的に作られた制度です。

以下に詳しく解説します。

病院や介護施設などを運営する法人

医療法に記載されている医療法人の概要を要約すると、「病院や診療所、介護老人保健施設、介護医療院の開設を目的として設立される法人」となります。

通常の法人と比べて違うところは、営利目的でなく、病院の健全な運営を目的としている点です。

日本は個人で運営しているクリニックや診療所が多く、半数以上の53%を個人医院が占め、医療法人は33%となっています。

平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況

医療法人の種類

医療法人は大きく分けて以下の3つの種類があります。

  • 「持分の定めのある」社団医療法人
  • 「持分の定めのない」社団医療法人
  • 財団医療法人

持分のあり、なしとありますが、医療法人における持分とは、財産権のことを指します。

持分とは自分の出資資産のことで、簡単にいうと誰の財産なのか、明確な決まりがある、ということになります。。

平成19年の4月1日に医療法が改正され、この日以降は持分の定めがある医療法人が設立できなくなりました。

仮に医療法人を解散した場合、持分あり医療法人の場合、出資した人に財産が戻ってきますが、持分なしの医療法人の場合は、解散した時の財産は国か、他の医療法人に財産が帰属し、出資者には戻ってきません。

移行計画の認定を受けた医療法人は「認定医療法人」と呼ばれています。

財団医療法人は、寄付などの基金を募って設立された医療法人です。

財団医療法人には出資持分の概念がなく、社員の概念もありません。

財団医療法人の割合は全体の1%程度で、全体に占める割合はとても少なくなっています。

医療法人には非営利性が求められる

医療法人の制度は昭和25年からスタートしたものですが、当初の設立目的は、病院の運営に集中し、医療の質の向上を支援するため、資金調達の融通を利かせるというものでした。

他の一般企業に比べて資金の運用を楽にします、という内容です。

その代わり、一般市民に分かるように運営の透明性も確保してください、という文言が当時の医療法には加えられています。

余剰金の分配をしてはいけない、という文言が記載されていることから、医療法人は公益性のある団体であり、運営の透明性を確保しなければいけないことがわかります。

医療法人設立のスケジュール

医療法人の申請から認可までの流れは、各自治体によって異なります。

東京都を例に、主な自治体の設立スケジュールを見ていきましょう。

設立までの流れ(東京都)

医療法人の設立申請はスケジュールが決まっており、いつでも申請できるしくみではありません。

多くの自治体では、年2回の受付期間を設定しており、期間はそれぞれ異なります。

したがって、医療法人の申請を行う場合、事前にスケジュールを確認しておく必要があります。

東京都では、3月と9月の年2回、申請を受け付けます。

以下の流れは9月に申請した前提となっています。

申請時点で診療所を1件運営する個人医師が、東京都内で医療法人を設立するケースを想定しました。

1. 6月~7月 設立要件の確認
2. 8月上旬~中旬 必要書類の取得(印鑑証明、領収書、各契約書の控え、診療所開設届けの控えなど)定款の作成
3. 8月下旬 設立総会の開催
4. 9月初頭 設立認可申請書の提出(仮申請)
5. 11月~12月 設立認可申請(本申請)
6. 2月上旬 申請書類の最終審査と医療審議会への意見聴取
7. 2月中旬~下旬 設立認可書交付式
8. 3月上旬 法務局にて法人設立の登記
9. 3月中旬 保健所にて使用許可申請と開設許可申請
10. 4月上旬 診療所開設届と個人診療所廃止届を保健所に提出
11. 関東信越厚生局にて保険医療機関指定申請
12. 税務署や社会保険庁へ届出

各自治体の医療法人設立のスケジュール

自治体

1回目

2回め

3回目

東京都

仮受付9月上旬

認可証交付翌年2月

仮受付3月上旬

認可証交付8月

 

神奈川県

事前審査等の申請書提出5月中旬

認可証交付10月中旬

事前審査等の申請書提出9月下旬

認可証交付翌年3月

 

千葉県

事前審査期間4月下旬~5月中旬

認可証交付8月上旬

事前審査期間8月下旬

認可証交付12月下旬

事前審査期間11月下旬

認可証交付翌年3月

埼玉県

予備審査予約受付5月

認可証交付9月上旬

予備審査予約受付10月下旬~11月上旬

認可証交付翌年3月

 

首都圏の自治体の認可スケジュールを表にまとめました。

多くの自治体では、年に2回の申請期間を設定していますが、千葉県は年3回となっています。

認可が降りるまでおおよそ、4~5ヶ月の期間が必要です。

医療法人設立に関して、事前説明会を行っている自治体もあります。

医療法人設立のメリット・デメリット

医療法人を設立するにあたってのメリット、デメリットを確認しておきましょう。

メリット

病院の運営に関わるメリットは以下の2点です。

節税の方法が増える

医療法人の設立によって、節税の手段を複数手にすることができます。

法人化すると、個人の資産と法人の資産を分けて管理することができますので、法人化をして自分の役員報酬を低く設定すると、所得税を抑えることが可能です。

残ったお金は医療法人の所得となります。

法人税の実質的な成立は30%で、所得税の最高税率を大きく下回っていますので、うまく所得を分散させることで、所得税の税率を下げることができ、全体の納税額を抑えることができます。

また、家族へ所得を分散することで、所得税率を抑えることも可能です。

医療法人では、家族を理事にすることができます。

理事長一人で役員報酬を受け取るよりも、家族を理事として、複数の人へ役員報酬を分散したほうが所得税率を抑えることができるのです。

事業承継が簡単に行うことができる

医療法人は個人と法人の財産が切り分けられているため、理事長が引退して事業を継承する場合、交代の手続きのみで簡単に完了できます。

個人事業の場合、税務上の手続きなど、世代交代の際に大きな手間がかかってしまうため、病院の規模を拡大したいと考える場合、医療法人の設立を検討したほうが良いでしょう。

デメリット

節税では多くのメリットがある医療法人ですが、いくつかのデメリットもあります。

デメリットを4つピックアップしました。

手続きが複雑になる

医療法人には定期的な届け出や、運営上の義務が定められています。

定期的な提出物

・年1回の決算報告書の提出
・年1回の資産総額の登記
・2年に1回の役員重任の登記

運営上の義務

・年2回の社員総会の開催
・年2回の理事会の開催
・年1回の監事による監査

その他、病院での決まりごとの変更や住所の変更にも届け出が必要です。

株式会社と同じ内容もありますが、医療法人の場合、運営の透明性や公益性を前提としたルールが定められており、やるべきことが増えます。

個人事業主から医療法人へ変更すると、煩わしさを感じるかもしれません。

資金が動かしにくくなる

前述の通り、個人の資産と医療法人の資産の切り分けができるため、節税の幅が広がる点が医療法人のメリットですが、一方で資産を簡単に動かせなくなるデメリットもあります。

個人事業主の場合、売上から個人の用途としてお金を自由に使うことができますが、医療法人の場合、勝手に個人的な用途で使うことができません。

もし使った場合、法人が個人へお金を貸したことになります。

個人のお金が足りない場合、役員報酬を上げる方法がありますが、役員報酬の改定は年に1回のみなので、取り急ぎの対応はできません。

解散時に残った資産は国のものになる

これから医療法人を設立する場合、持分の定めがない医療法人として設立することになりますが、持分の定めがない医療法人が解散した場合、資産は国や地方公共団体に帰属し、出資者へ分配されません。

財産を残したまま解散すると、出資金は戻ってきませんが、前もって解散時期を決めた上で、役員報酬や役員退職金の支給計画を立て、財産をすべて精算してしまうことも可能です。

事前に手続きを行えば、資産を出資者へ戻すことはできますが、ひと手間かかってしまう点はデメリットといえるでしょう。

業務内容の制限

医療法人は本業である医療行為に集中しなければならないため、業務内容に制限があります。

サプリメントなどの販売は、条件付きで販売が認められますが、通信販売はできません。

アパート経営や病院の敷地外での駐車場運営など、不動産運用は禁止されています。

医療法人の名前でできることは、医療法人の業務範囲として定められており、それ以外の業務は認められていないのです。

不動産運営を行う場合、個人の名前と資産で行う必要があります。

まとめ

医療法人は医療の質の向上を目的に作られた制度で、医療業務に集中できるよう、資金調達の融通が利きやすくなっています。

一方で、一般市民へ向けて運営の透明性を維持しなければならず、過剰に利益を追求しない公益性も求められます。

法人化することで、節税がしやすくなる、事業承継が簡単にできる、など税制上のメリットがありますが、提出物や届け出などの手間が増え、資産移動が困難になる、などのデメリットもあります。

個人事業と医療法人では、それぞれにメリットとデメリットがありますので、事業規模に合わせた運営形態を検討すると良いでしょう。

経営サポートプラスアルファでは、医療法人設立についてのご相談を承っています。

医療法人の設立について知りたい、個人事業主からの移行を考えている、という方は、ぜひ一度ご相談ください。

記事監修者の情報

税理士法人
経営サポートプラスアルファ

代表税理士 高井亮成

保有資格:税理士・行政書士

税理士の専門学校を卒業後、会計事務所に入社。
その後、税理士法人に転職をして上場企業や売上高数十億円~数百億円規模の会計税務に携わる。

現在は税理士法人の代表税理士として起業・会社設立をする方の起業相談からその後の会計、決算、確定申告のサポートを行っている。