会社設立の際に、つい後回しになってしまいがちなのが社会保険への加入です。
起業準備に追われるあまり、手続きを後回しにしてしまう方が多いです。
しかし、新しく会社を設立したなら、社会保険には速やかに加入することをおすすめします。
起業した方の中には、「そもそも社会保険加入は必要なの?」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、未加入のままだとリスクがあり、後ほど社会保険料を払う羽目になると、資金繰りが悪化してしまいます。
社会保険は結論として加入義務があるのですがなかなかコスト負担を出来ない会社設立一年目の経営者はどのようにしているのでしょうか。
そこで今回は、会社を設立した際に社会保険への加入が必要な理由や手続きの仕方などについて解説してきます。
社会保険の加入についての相談や役員報酬の設定額を間違えたことによる損をなくすアドバイスを行っています。
労務も税務も会計も資金調達もワンストップで解決し、クライアントには安心して経営に集中して頂くことで成長の機会を創り出します。
創業される方からすると会社の負担も個人の負担もどちらも代表者の負担のようなもので社会保険コストは大変重たいものです。
社会保険は結論として加入義務があるのですがなかなかコスト負担を出来ない会社設立一年目の経営者はどのようにしてると思いますか?
このような社会保険負担に関するノウハウにご興味ありましたら、何度でもご相談を承りますので一度ご連絡くださいね。
目次
社会保険への加入は法律で義務付けられている
個人事業主の場合
個人事業主として起業した場合、常時雇用する従業員の人数によって加入が義務付けられています。
加入しなければならないのは、「従業員が5人以上の個人事業主(一部業種を除く)」です。
常時雇用する従業員が5人未満だった場合には、健康保険や厚生年金など社会保険への加入は任意となっています。
ちなみに、社会保険に加入しない場合、個人事業主と従業員は国民健康保険・国民年金に加入することになります。
法人の場合
会社を設立して法人となっている場合には、業種や従業員の人数に関係なく社会保険に加入する義務があります。
これは株式会社や合同会社の関係がなく、どんな法人であっても加入しなければなりません。
法律(健康保険法第3条、厚生年金保険法第9条など)によって義務付けられているため、法人化した際には加入するようにするべきです。
労働者側の社会保険加入条件
会社を設立すれば、社会保険の加入が義務です。
しかし、従業員側も一定の条件を満たすことが加入条件となります。
まず満たさないといけないのが、勤務時間・日数が正社員の4分の3以上であることです。
この条件に加え、以下の5つの条件を満たしている必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金月額が8万8千円(年収106万円)以上
- 1年以上の勤務する見込みがある
- 学生ではない
- 社会保険の対象となる従業員が501名以上(500人以下でも労使合意があれば加入可)
未加入時のリスク
法的措置を受ける
社会保険の加入義務があるのに加入しない場合、法的措置を受けるリスクがあります。
健康保険法208条によって、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金となっているのです。
また、追徴金が発生する可能性もあります。
年金事務所の調査で未加入が発覚すれば、社会保険料を2年に遡って追徴されることがあるのです。
社会的信用を失う
会社の社会的信用を失うというのも、リスクとして挙げられます。
社会保険未加入で罰則を受ければ、会社の名前が悪い意味で知れ渡ってしまいます。
その結果、社会的信用を失うことにつながってしまうのです。
会社にとって信用は重要なファクターだけに、社会保険未加入は大きなリスクがあります。
人材確保が難しくなる
人材確保の面でもリスクがあります。
信用を失った会社では、入社を希望する求職者が少なくなるのが普通です。
しかも、社会保険未加入の状態だと、基本的にハローワークで求人票を受け付けてくれません。
これらのことから、人材確保が難しくなるリスクがあるのです。
例外的に加入しなくていい場合
会社を設立し、法人化すれば原則社会保険に加入しなければなりません。
しかし、例外も存在しており、2つのケースで例外的に社会保険の加入をしなくてもいい場合があります。
その2つのケースについて解説していきます。
無報酬なケース
まず役員報酬がゼロのケースでは、社会保険に加入することができません。
無報酬となるため、社会保険料を報酬からの天引きをすることができません。
そのため、役員報酬がない無報酬という場合には、法人化していても加入しなくてもよくなるのです。
報酬が少ないケース
また、報酬が少ないケースでも社会保険に加入することができません。
役員報酬が少ない場合、報酬が社会保険料を下回ってしまいます。
それでは報酬からの天引きができないため、加入を断られてしまうのです。
社会保険料はどれくらい?
役員報酬がゼロや少ないケースでは、例外的に社会保険に加入できません。
そこで知っておきたいのが、社会保険料についてです。
社会保険料は役員報酬によって異なります。
役員報酬が年間400万円のケースなら、健康保険・厚生年金で合わせて年間約112万円が社会保険料となります。
役員報酬が年間600万円なら、年間約164万円が社会保険料となるのです。
社会保険の種類と加入手続きのやり方
会社を設立した場合、加入する社会保険は「健康保険」「厚生年金」「労災保険」「雇用保険」「介護保険」の5種類があります。
それぞれの社会保険の種類と加入手続きを開設していきます。
社会保険の種類と特徴
健康保険について
健康保険は、従業員に適用される公的医療保険です。
加入している健康保険協会から健康保険証が交付され、病院にかかった際に保険証を提示することで従業員は医療費負担が3割となります。
中小企業の多くは全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入するケースが多いです。
厚生年金について
厚生年金は、国民年金に上乗せする形で納入・支給される年金制度のことです。
そのため、厚生年金を納入することで、年金支給額が高くなります。
他にも、障害手当や遺族手当の金額も上がります。
労災保険について
労働者が勤務中・出勤中などにケガをした際や労働が原因で病気になった場合、手当てが支払われる制度が労災保険です。
休業給付や障害給付なども、労災保険から支払われることになります。
保険料は全額会社負担です。
雇用保険について
雇用保険は、退職後に次の仕事が見つかるまでの生活費を保障する制度のことです。
ただ、手当を受け取るためには条件があります。
条件をクリアすれば、最高1年間給与の1部を受取ることができるのです。
介護保険について
40歳以上の労働者が加入しなければならないのが介護保険です。
自分に介護が必要となった際には、最大で介護費用の9割を負担してもらうことができます。
健康保険と厚生年金の加入手続き
健康保険と厚生年金の手続きは、会社所在地を所轄する年金事務所に届け出ることになります。
届け出の方法としては、窓口に持参する以外にも電子申請や郵送による届け出も可能です。
提出するのは、「健康保険・厚生年金保険新規適用届(適用届)」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」「健康保険扶養者(異動)届」です。
適用届は、会社自体を健康保険・厚生年金に加入させるための手続きとなっています。
適用届の提出では、一緒に会社の登記簿謄本を添付する必要があります。
健康保険・厚生年金保険被保険者取得届は、役員や従業員などの被保険者の届け出のことです。
また、役員・従業員に扶養家族がいる場合には、健康保険被扶養者(異動)届を提出することになっているのです。
雇用保険の加入手続き
雇用保険は従業員を雇ったときに加入する必要があり、書類の提出先は会社所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)です。
届け出なければならない書類は、「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」の2つとなっています。
雇用保険適用事業所設置届の提出では、会社の登記簿謄本を添付する必要があるので注意してください。
労災保険の加入手続き
労災保険の手続きでは、会社所在地を管轄する労働基準監督署に書類を提出します。
提出する書類は「保険関係成立届」「労働保険概算保険料申告書」の2つです。
保険関係成立届を提出する際には、会社の登記簿謄本の添付が必要です。
また、従業員を10人以上雇用する場合、「就業規則届」も提出しなければならないので注意してください。
介護保険の加入手続き
介護保険は健康保険に上乗せされて徴収されます。
加入手続きとしては、会社所在地を管轄する年金事務所に「介護保険適用除外等該当・非該当届」を提出します。
提出方法は、窓口へ持参するだけでなく、電子申請や郵送での提出も可能です。
会社設立時の社会保険加入の手続きタイミング
自分で新しい会社を設立した場合、社会保険の加入の手続きタイミングを知っておきたいはずです。
そこで、それぞれの書類の提出タイミングについて紹介していきます。
健康保険・厚生年金
健康保険・厚生年金保険新規適用届:会社設立後5日以内に提出
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届:会社設立後5日以内に提出
健康保険被扶養者(異動)届:会社設立後5日以内に提出
雇用保険
雇用保険適用事業所設置届:設立時から従業員を雇う場合は設立日の翌日から10日以内に提出し、あとから雇う場合は雇用した日の翌日から10日以内に提出
雇用保険被保険者資格取得届:従業員を雇用した月の翌月10日までに提出
労災保険
保険関係成立届:従業員を雇用した日の翌日から10日以内に提出
労働保険概算保険料申告書:保険関係が成立してから、50日以内に提出・納付
介護保険
介護保険適用除外等該当・非該当届:遅滞なく提出
一人会社の社長の場合は
次は、一人会社の社長の場合について社会保険の加入の義務や加入した際のメリットなどを確認しておきましょう。
また、もし加入が必要で加入を無視し続けた場合に発生する罰則についても紹介します。
一人会社の社長でも加入の義務あり
会社を設立しているのであれば、たとえ一人会社、一人社長でも一部の例外を除き社会保険の加入が義務付けられています。
「どうせ自分一人だから社会保険には加入しなくても大丈夫だろう」と考えて社会保険の加入をしないでおくと、最大2年間さかのぼった社会保険料を請求されることもあるので注意しましょう。
ただし、一人会社であっても役員報酬がない場合は、社会保険に加入する義務はありません。
また、役員報酬があっても金額が月額12,000円以内であれば、給与から社会保険料を差し引くことができないので、年金事務所から社会保険への加入を断られる場合があります。
なぜなら、協会けんぽの保険料表によると、令和2年3月分の東京都の月額最低健康保険料は、40歳未満で2,862円、厚生年金は8,052円とされているためです。
無視し続けた場合
一人会社であっても加入が義務づけられている社会保険ですが、「面倒くさい」などの理由により加入を無視し続けるとどうなるのでしょうか。
加入を放置した場合の流れや罰則を紹介します。
社会保険の加入を無視し続けた場合、はじめに管轄の年金事務所から加入要請が届きます。
加入要請は電話や文書で届き、この段階で加入をしておけば、その日以降に発生する保険料を納めるだけで済み、特に罰則等はありません。
しかし、管轄の年金事務所からの加入要請を無視し続けると、次は立入検査の警告運所が届くので注意が必要です。
「このまま無視し続けると立入検査や罰則があるので速やかに社会保険に加入してください」のような警告が届きます。
この段階までは、すぐに加入しておけば特に罰則等はなく、その日以降に発生する保険料を納めるだけで済みます。
ここまでの警告や通知を無視し続けたあとは、最終的に立入検査が実施され、社会保険へ強制加入させられます。立入検査まで実施されてしまうと、最大2年間までさかのぼって保険料の納付を請求されるので、注意しましょう。
また、警告を無視し続けると、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に課せられるケースもあるので、たとえ必要性を感じていなくても、社会保険には加入しておかなければなりません。
一人会社だからといって油断してしまうと経営に悪影響を及ぼす恐れがあります。
一人会社の社長が社会保険に加入するメリット
会社を設立しても一人社長で経営する場合は、社会保険の必要性を感じない人もいるかもしれません。
しかし、一人会社の社長が社会保険に加入するメリットがあるのも事実です。
社会保険に加入する3つのメリットを紹介します。
「収入保障保険」としての役割も得られる
社会保険は厚生年金と健康保険の2つで構成されていますが、そのうちの健康保険は「収入保障保険」としての役割もあります。
この収入保障保険に加入しておくことで、なんらかの理由で役員報酬がストップした場合、「傷病手当金」という制度を使って元の役員報酬の約3分の2が最大1年6ヵ月にわたって支給されます。
一人会社はサポートしてくれる社員がいないため、病気やケガによって突然働けなくなった場合、大きなリスクを背負うことになります。
しかし、社会保険の収入保障保険の役割を使えば、傷病手当金を受けながら、余裕をもって会社を立て直していくことが可能です。
後の資金が用意できる
一人会社は、会社員と違って会社が倒産し自己破産する恐れがあります。
もし会社の倒産により自己破産してしまうと、個人の預貯金はなくなり、民間の生命保険なども解約して債権者への弁済に充てなければなりません。
しかし、社会保険で納めてきたお金は、老後の年金として反映されます。
自己破産をしていても、個人の預貯金のように差し押さえられることはありません。
継続的に社会保険料を支払っておくことで、老後の生活に備えることができるのです。
障害や死亡時に手厚い補償が受けられる
一人会社の規模にもよりますが、役員報酬の額次第では、社会保険での料金は国民保険や国民年金とほとんど変わりません。
しかし、負担はほとんど変わらずに障害や死亡に対する補償が手厚くなります。
例えば、あまり売り上げが立たない一人会社で役員報酬が月10万円の場合、厚生年金の保険料は月額18,000円程度です。
国民年金の月額17,000円程度とほとんど変わりません。
しかし、厚生年金に加入していることで、障害を負った場合は「障害厚生年金」、家族を残して亡くなった場合は「遺族厚生年金」が支給されます。
このように、一人会社で社会保険に加入するのは悪いことではなく、一人会社のリスクを低くしてくれるメリットも多くあります。
一部の例外を除いて、社会保険は加入するようにしましょう。
社会保険の計算方法
ほとんどのケースで加入が必須となる社会保険ですが、社会保険料の額はどのようにして決まり、どのように計算したらよいのでしょうか。
社会保険の計算式や、実際の計算例を把握しておきましょう。
社会保険の計算式
会社員として社会保険を支払う場合、従業員だけではなく会社も社会保険の一部を負担する仕組みになっています。
そのため、計算式を考える際も従業員と会社の両方が負担する保険料を考えなければなりません。
社会保険の従業員負担分は以下の計算式で算出可能です。
各保険料=標準報酬月額×保険料率÷2
「÷2」と記載されているのは、健康保険料や厚生年金保険料・介護保険料を従業員と会社双方が折半して納めるためです。
ちなみに、社会保険には健康保険や厚生年金保険などさまざまな保険が含まれています。
各保険によって保険料率は変わるので、すべての社会保険の額を知るためには、各保険の保険料率も調べておかなければなりません。
標準報酬月額とは
上述した保険料の計算式に現れるのが「標準報酬月額」です。
この標準報酬月額に保険料率を掛け、2で割ったものが各保険料として算出されます。
それでは、社会保険計算に出てくるこの「標準報酬月額」とは一体なんなのでしょうか。
「標準報酬月額」を簡潔にいうと、「被保険者が事業主から受け取る毎月の給料などの月額報酬を区切りのよい幅で区分したもの」です。
このベースとなる賃金額には、基本給の他に、残業手当や家族手当、住宅手当なども含まれます。
特に残業手当は働く時間によって大きく額が変わるので、標準報酬月額を算出する場合は意識しておきましょう。
この標準報酬月額は毎年4月から6月の報酬をベースに決定されます。
この3か月間で実際に支払われた給与総額を3で割ることで、平均額を算出し、保険料額表に当てはめることで該当する標準報酬月額の決定が可能です。
また、提示決定で決められた標準報酬月額は、その年の9月分から翌年の8月分の保険料の計算で使われ、大きな変更があれば改定されます。
大きな変更は、具体的に昇給や降給、また産前産後休業、育児休業等などによって起こります。
これらが原因で一定の要件を満たす場合は、標準報酬月額を見直さなければなりません。
会社員の中には「4月から6月に働きすぎて給与が高くなると税金も高くなる」と考える人がいますが、これは厳密にいうと税金ではなく社会保険料が高くなってしまうことがある、ということです。
つまり、4月から6月の残業を意図的に減らすなどすれば、標準報酬月額を減らすことが可能で、結果的にその1年の社会保険料額を抑えられることもあります。
とはいえ、標準報酬月額は健康保険の「手当額」や老後の「年金額」での計算にも使われるので、標準報酬月額が低いからといって一概にお得というわけではありません。
標準報酬月額が高いことで、トラブル時の傷病手当金や、産前産後休業中の出産手当金が高くなるというメリットも得られるのです。
実際の計算例
ここまで計算式と標準報酬月額について解説してきましたが、より具体的にイメージしやすいように実際の計算例もチェックしておきましょう。
まずは健康保険料の計算です。
健康保険料の従業員負担額は「標準報酬月額×健康保険料率÷2」で算出できます。標準報酬月額は4月から6月の平均額となるので、仮に4月に32万円、5月に35万円、6月に29万円の給与が支払われれば、標準報酬月額は32万円となります。
健康保険の場合は、運営主体が「全国健康保険協会(協会けんぼ)」か「健康保険組合」で変わりますが、ここでは協会けんぽのケースについて考えてみましょう。
協会けんぽは都道府県ごとに保険料率が異なりますが、今回は東京都の料率で計算します。
32歳の被保険者で東京都の協会けんぽに加入している従業員の場合であれば、保険料率は9.87%(令和2年度保険料額表から)となり、算出される健康保険料は「32万円×9.87%÷2」で15,792円となります。
同じように、厚生年金保険料も算出可能です。
厚生年金保険料の負担額は「標準報酬月額×18.300%÷2」で算出されます。
厚生年金保険料の場合は、平成29年9月以降に保険料率が18.300%で固定されているので、標準報酬月額さえわかれば容易に計算可能です。
標準報酬月額が32万円であれば、計算式は「32万円×18.300%÷2」となり、29,280円が納めるべき厚生年金保険料となります。
従業員が40歳から64歳の場合に支払うことになる介護保険料の計算例も見ておきましょう。
協会けんぽの場合、介護保険料率は全国一律1.73%です。
標準報酬額が32万円であれば、計算式は「32万円×1.73%÷2」となり、27,680円が納める介護保険料として算出されます。
このように、標準報酬月額と年齢、各保険料率さえ分かれば、容易に保険料の算出が可能です。
ここまで3つの社会保険料の計算例を解説しましたが、これらの保険料率は定期的に改定があり、改定によって具体的な額は変わるので注意しましょう。
ちなみに、ここまでは毎月の給与をベースにして社会保険料を算出しましたが、賞与もある場合はその賞与も社会保険の対象になります。
ボーナス等の賞与が支給されたときは、標準賞与額に加えて各保険料率や年齢を考慮し、保険料を計算します。
社会保険の電子申請とは
社会保険は電子申請もできると知っていましたか?社会保険の電子申請の義務化や、対象の法人、また手続き方法などについて確認しておきましょう。
電子申請をすることで得られるメリットやデメリットについても解説していきます。
社会保険の電子申請の義務化
2018年に厚生労働省より発表された『行政手続きコスト削減のための基本計画』により、2020年4月から義務化されたものが社会保険の電子申請の義務化です。
これは行政手続きの作業削減を目的としてつくられた新しいルールで、このルールの適応により、書面で提出していた社会保険や労働保険などの一部の手続きは、オンラインで申請しなければならなくなりました。
このような電子申請の義務化は、「e-Japan」と呼ばれる日本政府が掲げた「日本型IT社会の実現を目指す構想」に含まれています。
社会保険の電子申請の義務化は、「電子政府の実現」という概念に含まれていて、他にも登記関係や税金関係のオンライン化が進められています。
社会保険は、「e-Gov」と呼ばれるウェブサイトか「e-Gov外部連携API」に対応したシステムを使用することで申請可能です。
最も一般的な申請方法は総務省行政管理局が運営している「e-Gov」からの申請で、サイトページにある「e-Gov電子申請」遷移先の「電子申請メニュー」から申請を行えます。
申請方法は、メニューから手続き方法を選択し、申請したい項目を検索しながら必要事項を入力するだけです。
これまでのようにデータを出力し、書類をプリントして行政の窓口に持っていくことはありません。
「e-Gov」以外の申請方法である「e-Gov外部連携API」に対応したシステムの利用もおすすめです。システムを利用すれば、サイト上で情報を入力する必要がなく、すでにシステムに記入されたデータを使用して直接申請ができます。
外部の労務会計ソフトを使用していたり、進捗管理の効率化を目指していたりする場合は、積極的に利用しておきたいシステムです。
対象の法人と手続き
申請の義務化がされ、これまでのようにプリントした書類を窓口に持っていくことができなくなった社会保険ですが、電子申請を使用できる法人は限られています。
大きく分けて4つの対象法人と、その手続き方法を把握しておきましょう。
社会保険電子申請義務化の対象となる1つ目の法人は、投資信託及び投資法人に関する法律に基づいて設立された「投資法人」です。
2つ目の法人は、保険業法で規定されていて、保険会社のみに認められている非営利法人の「相互会社」です。
株式会社とは異なり、保険の契約者が社員と称されます。
3つ目は、資産流動化に関わる法律に規定されている「特定目的会社」です。
法人では社団法人に分類され、TMKやSPCとも呼ばれます。
4つ目の社会保険電子申請義務化の対象となる法人は、「大規模法人」です。
資本金や出資金、または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超えている法人を「大規模法人」と呼びます。
上記の4つの法人は、社会保険の電子申請が義務化されており、プリントした書類を窓口に持っていくような社会保険の申請はできません。
上述した「e-Gov」や「e-Gov外部連携API」に対応したシステムを利用してオンラインでの申請を行う必要があります。
また、これらの法人は社会保険の電子申請義務化の対象となっていますが、義務化された手続きは全てではなく一部です。
手続きの4つの種類もチェックしておきましょう。
1つ目の手続きは、「厚生年金保険」です。
厚生年金保険でも、下記の手続きが。
社会保険電子申請義務化で可能となっています。
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 70歳以上被用者算定基礎届
- 被保険者報酬月額変更届
- 70歳以上被用者月額変更届
- 被保険者賞与支払届
- 70歳以上被用者賞与支払届
2つ目の手続きが、労働者の失業時などに必要となる給付金を与えることを目的とした「雇用保険」です。
雇用保険には、義務化として指定されている下記5つの手続きがあります。
- 被保険者資格取得届
- 被保険者資格喪失届
- 被保険者転勤届
- 高年齢雇用継続給付受給資格確認・支給申請
- 育児休業給付受給資格確認・支給申請
3つ目の手続きは、ケガや病気の場合に医療サービスを受けることのできる「健康保険」です。
下記6つの手続きが電子申請で可能となります。
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 70歳以上被用者算定基礎届
- 被保険者報酬月額変更届
- 70歳以上被用者月額変更届
- 被保険者賞与支払届
- 70歳以上被用者賞与支払届
4つ目の手続きは、「労働保険」です。
大きく分けて2つの手続きがあります。
- 年度更新に関する申告書(概算保険料申告書・確定保険料申告書・一般拠出金申告書)
- 増加概算保険料申告書
これら4つの手続きも把握しておくことで、スムーズに社会保険のオンラインによる申請が行えるようになります。
電子申請をするメリット・デメリット
IT化の波により、従来のシステムから新しいシステムへと変わった社会保険の申請ですが、企業側にとって電子申請によるメリットもあれば、デメリットも存在します。
まずは、社会保険の電子申請による代表的なメリットを確認しておきましょう。
代表的なメリットは下記の4つです。
- 時間や場所に縛られずに申請可能
- 行政機関の窓口に行く必要がない
- 時間や交通費の節約
- 手書きの手間が削減される
これらは、申請が多くなる企業にとって嬉しいメリットとなるのではないでしょうか。
一方で、社会保険の電子申請による主なデメリットは3つあります。
- 書類の補正や確認が少なくなりミスに繋がりやすい
- 手続き完了までのタイムラグがある
- デジタル化への慣れが必要
上記のようなデメリットも存在するので、まずは慣れることが必要かもしれません。
とはいえ、魅力的なメリットが多い電子申請の義務化は、企業の業務の効率化へも繋がる便利なシステムといえるでしょう。
月額変更届とは
会社設立による社会保険の基本知識を学ぶにあたって、忘れてはならないのが「月額変更届」です。
月額変更届とは、被保険者の昇給や降給、雇用契約の変更などによって報酬額が大きく変わった場合に、標準報酬月額の見直しで届ける書類のことです。
社会保険料の算出に必要な「標準報酬月額」は、1年に1回、4月から6月の給与等によって決められますが、念の途中で給与額が大きく変わった場合は、月額変更届を提出しなければなりません。
特に年の途中で被保険者の給与等が大きく下がった場合は、月額変更届の提出で見直しを行わなければ、高い社会保険料を支払い続けることになってしまいます。
社会保険の支払いを検討するにあたって知っておきたい月額変更届ですが、随時改定の条件や提出の流れなどを確認しておきましょう。
随時改定の条件
随時改定とは、年の途中で昇給や降給、雇用契約の変更などによって被保険者の給与等が大きく変わった際に、標準報酬月額を見直すために行う改定のことです。
この随時改定は、3つの条件を満たしたときのみに行われます。
各条件を確認しておきましょう。
随時改定が認められる1つ目の条件は、従業員の固定的賃金が変わったときです。
あらかじめ支給率や支給額が決まっている賃金が昇給や降給、基礎単価の変更などで大きく変わった場合は随時改定の対象として認められます。
2つ目の条件は、変動月以降、継続した3か月間に従業員に支給された給与の月額の平均額に当てはまる標準報酬月額に2等級以上の差が発生したときです。
支給された給与には、残業手当などの非固定的賃金も含まれます。
随時改定が対象となるのは、給与額が特定の1ヵ月だけではなく、3カ月間継続し、平均額が大きく変動したときです。
3つ目の条件は、4月から6月の3ヵ月間で支払基礎日数が17日以上あった場合です。
支払基礎日数とはその報酬の支払い対象となった日数のことで、時給制や日給制であれば実際の出勤日数が支払基礎日数に認められます。
月給制や週給制であれば、出勤日数に関係なく歴日数が支払基礎日数としてカウントされます。
以上の3つの条件を満たしたときに、随時改定は認められ、月額変更届の提出が可能になります。
月額変更届の提出の流れ
月額変更届の提出の流れもチェックしておきましょう。
月額変更届とは「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を略したものであり、その名前からも分かるように、各都道府県の日本年金機構の事務センターや管轄の年金事務所で提出できます。
健康保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)ではなく健康保険組合のものであれば、その健康保険組合にも書類を提出しなければなりません。
月額変更届のフォーマットは、日本年金機構の公式ホームページにある「年金の制度・手続き」からダウンロード可能です。
フォーマットをダウンロードしたあとは、はじめに必要事項を記入していきます。
月額変更届に記入する必要事項は下記の9項目です。
- 資格取得時に払い出された被保険者証の番号
- 被保険者の生年月日
- 標準報酬月額が改定される年月
- 変更により算出された標準報酬月額
- 従前の標準報酬月額が適用された年月
- 給与等の変更が生じた月の支払月と区分
- 遡及分の支払いがあった月と、支払われた遡及差額
- 固定的賃金の変動が発生した月から3カ月分の給与支払月
- 給与計算の基礎日数
これら9項目を埋めたあとは、窓口持参、電子申請などで書類の提出が可能です。
このような届出は一般的に添付書類も求められますが、月額変更届の場合は添付書類が必要ありません。
例外として、降給の場合は改定月前4ヵ月分の賃金台帳のコピーが求められます。
また、事業主の報酬が2等級、または役員の報酬が5等級以上引き下がる場合には取締役会議事録の写しも必要です。
月額変更届には提出期限はありませんが、随時改定が必要になったのであれば、次回の定時決定を待たずにできるだけ早く月額変更届を出しましょう。
早めに提出することで、トラブルなく本来支払うべき社会保険料額に変更されます。
もし提出しなかったら
月額変更届には提出期限がなく、随時改定も不定期に発生するため、提出条件を満たしても提出を忘れてしまうケースがあります。
もし月額変更届を提出しなければ、どうなってしまうのでしょうか。
仮に提出漏れが発覚すると、これまでの社会保険料の差額が一気に請求される恐れがあるので注意が必要です。
年金事務所は3年から5年の周期で事業所を調査しているので、提出漏れがあると発覚する可能性が非常に高く、場合によっては数年分の差額を1度に請求されます。
数年分の差額が一気に請求されると多額の出費が発生するので、会社によっては経営に悪影響を及ぼすかもしれません。
また、会社は社員にも負担分を請求しなければならないので、従業員に不信感を与える恐れもあります。
年金事務所から一気に請求されないためにも、月額変更届の提出漏れは防ぐ努力をしておきましょう。
普段から随時改定を意識しておき、従業員の固定的賃金が変動した時は、社会保険料にも変化がないかを確認することが重要です。
最近では随時改定の該当者を自動で判断してくれる高性能な給与計算ソフトもあるので、そのようなソフトを活用するのも1つの手段です。
社会保険は誰に相談したらいい?
ここまで社会保険料の計算や随時改定による届出の提出方法などを解説してきましたが、社会保険を完璧に理解するのは難しく、社長であれば事業のことも考えなければならないので、場合によっては義務化されているものを見逃す恐れもあります。
そのため、社会保険の問題は社長1人で抱え込まずに、専門家に相談することが重要です。
ここでは、社会保険について困りごとあった際、誰に相談すべきかを紹介します。
社会保険労務士とは
社会保険に関する疑問や問題が発生した場合、適切な相談相手としておすすめなのが「社会保険労務士」です。
社会保険労務士は社労士とも呼ばれ、社会保険労務士法に基づいた国家資格者のことを指します。
社労士の業務は、企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」や「年金の相談」などに対応することです。
社会保険の相談をする相手としてまさにうってつけの存在といえます。
社労士とは会社で顧問契約を結ぶことも可能です。
顧問社労士がいれば社長だけではなく従業員の安心材料にもなります。
会社を経営していくにあたって社会保険の手続きや賃金の変動などは避けては通れません。
このような手続きや業務で課題が生じたとき、専門家に相談できる環境があるのは大きな安心に繋がります。
特に労働や社会保険の法令はどんどん移り変わるので、経営者だけですべてを把握することは困難です。
社労士と契約しておくことで、会社運営の円滑化に役立ちます。
社労士を選ぶときは、
- 社労士の強み
- サポート範囲
- 社労士が主に担当している業界
- 業務スタンス
- 開業登録しているか否か
- 最新のIT動向にも詳しいか
などのポイントをチェックするようにしましょう。
一口に「社会保険労務士」といっても、強みにしている業界や能力は変わるので、慎重に選ぶことが重要です。
社会保険労務士に相談する費用
社会保険についての疑問を解決してくれる社会保険労務士ですが、気になるのが社労士への相談費用です。
社労士費用について今のうちに確認しておきましょう。
社労士への相談費用は、一般的に下記3つのポイントで決まるといわれています。
- 従業員の人数
- サポートの範囲
- 対応にかかった手間
これら3つのポイントは「社労士の時間や手間」を左右する要素です。
従業員が多ければ対応に手間がかかり、サポートの範囲が広くても手間がかかります。
社労士の手間や時間がかかれば、その分の費用が高くなる仕組みです。
また、社労士への相談は「顧問契約」と「単発相談」の2種類があり、どの相談タイプを選ぶかによっても値段は変わります。
まずは単発で依頼した場合の費用相場を見ておきましょう。
その依頼内容によって費用は下記のように異なります。
- 就業規則作成 50,000円~150,000円
- 就業規則修正 20,000円~30,000円
- 各種保険関係の書類作成1つあたり 5,000円~10,000円
今回のテーマである社会保険であれば、「各種保険関係の書類作成」に該当する依頼が多くなるかもしれません。
就業規則作成や就業規則修正に比べると比較的安い価格で依頼できます。
社労士は、単発相談ではなく月額で顧問料を支払い、いつでも相談できる顧問契約を結ぶのも可能です。
社労士と顧問契約を結んだ場合の顧問料の相場は下記のとおりです。
事業主・役員と全従業員の人数 | 報酬月額の相場 |
---|---|
4人以下 | 15,000円~25,000円 |
10~19人 | 35,000円~45,000円 |
50~69人 | 80,000円~90,000円 |
100人~149人 | 130.000円~140,000円 |
150~199人 | 160,000円~170,000円 |
上記の表を見ても分かるように、会社の人数によって報酬月額は変わります。
また、顧問契約といっても、どこまでの業務をカバーするかで値段は変わり、社会保険などの手続きと簡単な労務関連の相談程度であれば10,000円~20,000円程度で契約可能です。
相談できる内容
社会保険に関すること以外にも、社労士に相談できる内容は多くあります。
社労士に相談できる代表的な内容をチェックしておきましょう。
社労士に相談できる内容には以下のようなものがあります。
- 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
- 申請書等の提出代行
- 申請等についての事務代理
- 都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続の代理
- 都道府県労働局における男女雇用機会均等法、パート労働法及び育児・介護休業法の調停の手続の代理
- 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理(紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)
- 労務管理その他の労働及び社会保険に関する事項についての相談及び指導[金城1]
上記の業務の中でも、特に
- 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
- 申請書等の提出代行
- 申請等についての事務処理
の3つに従事できるのは社会保険労務士、または社会保険労務士法人のみです。
社会保険労務士または社会保険労務士法人以外で、これらの業務を行い報酬を得ることは、法律で禁止されています。
また、社会保険労務士には
- 優秀な人材の採用に苦戦している
- トラブルを未然に防げるような就業規則を見直したい
など、人事や労務関係のコンサルティング相談も可能です。
社労士によっては無料相談を受けていることもあるので、社会保険だけではなく人事や労務関係について悩みがある場合は、気軽に相談してみましょう。
問題が大きくなる前に相談することで、予期せぬ出費や手間を避けられます。
まとめ
会社を設立して法人化すれば、社会保険に加入することが義務付けられています。
その義務がある中でも、「社会保険コストをどう抑えるか?」が非常に重要にです。
また社会保険コストだけでなく役員報酬の設定の仕方によっても、大きく税金は変わり損も得もあり得るのです。
だからこそ当社、経営サポートプラスアルファでは、会社設立に関する手続きだけではなく、設立後の運営を税務、労務、資金のあらゆる面でサポートしています。
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