「飲食店開業資金は何に?いくらくらい必要なのか?」
「他の人は、どうやって飲食店の開業資金を準備しているのか知りたい」
飲食店の開業資金は、営業の形態や規模、種類(和洋中華、イタリアンなど)によって千差万別なので、平均値やトレンドなど他人の事例はあまり役に立たないと感じる人がいるかもしれません。
しかし、飲食業の開業資金を知る上では多くの人が選んだものは、ある意味成功へのヒントになります。
そこで今回は、飲食店開業資金について銀行員が解説します。
融資を審査する視点でお話ししていきますので、ぜひ参考にしてください。
なおこの記事では飲食業のモデルケースとして「不動産購入はせず、借り店舗で飲食店を開業する計画中の人」をイメージしています。
また記事のデータは、日本政策金融公庫の調査結果を参考にしていますので、注釈がない限り、すべて下記引用を参照ください。
【参考出典】
日本政策金融公庫/新たに飲食業を始めるみなさまへプラス創業の手引+(プラス)
Contents
何にいくら?~データでひも解く開業資金
「何に」という使いみちと「いくら」つまり所要額を説明します。
「何に」開業資金の目的・お金の使いみち
飲食業開業資金の目的・お金の使いみちは金額の大きい順で、主に以下の5つに分けられます。
<飲食店の開業資金~「何に」目的別順位1~5位>( )内は全体に占める割合
- 内外装工事 (41.7%)
- 機械、什器、備品等(21.1%)
- 運転資金(19.1%)
- 賃借費用(17.5%)
- 営業保証金、FC加盟金(0.6%)
(*店を借りて飲食業を開業する場合を想定)
順位を見ると、内外装工事と機械や備品などの設備が開業資金の6割を占めています。
店舗の賃借費用も設備と考えれば、飲食店開業資金の大部分は設備、つまりお店に必要なお金だとわかります。
「いくら」開業資金の平均額
次に開業資金の平均額を、前項の順位に沿って紹介します。
<飲食店の開業資金~「いくら」目的別順位1~5位>
- 内外装工事: 368万円
- 機械、什器、備品等:186万円
- 運転資金: 169万円
- 賃借費用: 155万円
- 営業保証金、FC加盟金:6万円
<1~5の合計>: 883万円
飲食店の開業資金は、平均して約900万円必要だとわかります。
もちろん繰り返しになりますが、飲食店の開業資金は千差万別で金額も人それぞれ(店それぞれ)です。
ただ、最低でもこのくらいは準備が必要だという目安にはなると考えられます。
どうやって準備する? ~開業資金の資金調達方法
今度は飲食店開業資金をどうやって準備したか、資金調達方法を見てみましょう。
(*調査の指標が異なるため、前述の表とは金額の合計が異なります)
<飲食店の開業資金~「どうやって準備する?」金額順の資金調達方法>( )内は割合
- 金融機関等: 591万円(55.4%)
- 自己資金: 350万円(32.8%)
- 親族からの援助または借入:101万円(9.5%)
- その他上記以外: 24万円(2.3%)
<1~4の合計>: 1,066万円
飲食店開業資金の資金調達方法は金融機関からの融資が一番で、次が自己資金になっており、この上位2つで9割近くを占めています。
自己資金~データから考える重要性
飲食店の開業資金では自己資金が重要で、また注意が必要です。
その理由は本文後半で触れるとして、まず自己資金に関するデータを見てみましょう。
<開業時に注意しておけばよかったと感じること(複数回答)>
- 自己資金が不足していた:26.8%
- 開業時、従業員に対する教育期間が不足していた:25.9%
- ターゲットとする顧客をもっと明確化しておけばよかった:23.0%
(以下略)
<自己資金の準備を始めた時期〜開業の何か月前から準備していたか?>
(*開業月を含む月数、以下同じ)
- 3か月以内:11.9%
- 3ヶ月超6ヶ月以内:13.1%
- 6ヶ月超1年以内:19.6%
- 1年超2年以内:13.1%
- 2年超3年以内:13.1%
- 3年超5年以内:14.9%
- 5年超:14.3%
開業時に苦労した点の第1位が「自己資金が不足していた」です。
また自己資金の準備を1年以上前から始めていた人が全体の5割を超えていて、これらの点からも「飲食店の開業資金で自己資金は必要不可欠で、少しでも早いうちから準備しておかないと、後悔することになる」と言えます。
飲食店開業資金~3つの注意点
飲食店開業資金で注意すべき点が3つあります。
注意点1.設備「安上がり」は要注意
飲食店は設備が重要と前述しましたが、これを言い換えれば「しっかりとした設備投資ができなければ飲食店を開業するべきではない」とも表現できます。
これは融資を審査する銀行の視点なのですが、飲食店に設備が必要なのは当然の理なので、ここを必要以上に安上がりにすることはおすすめできません。
開業資金融資に必須の事業計画ですが、飲食店では特に重要で、また飲食店の場合は事業計画に「設備計画」(どのような設備を導入するか?新品か中古か?など)が重視されます。
ですから、計画で設備を安上がりにし過ぎると「飲食店開業のかなめである設備にお金をかけない計画だから危うい」と融資審査にマイナス影響となる恐れもありますので注意してください。
注意点2. 立地「何をやってもダメだから」空き店舗では?
こちらも設備に通じる部分で、店の立地についてです。
「掘り出し物」「飲食店に最適」といった貸物件があったとします。
でも飲食店に最適なら、なぜ前の人は退去したのか?そこを見極める必要があります。
街を歩くと「何をやってもダメな場所」と言われている土地があります。
不動産の立地、例えば駅なら繁華街とは反対側のさびれた通りだったり、ビルでも上の階ほど入りにくいのは一般人でもわかります。
それ以外にも、なぜかお店ができては撤退して、を繰り返すような場所があり、これもしっかり分析すれば人流・客足が向きにくい原因があるものです。
開業を決め物件を探した末に出会った場所も「ここしかない!」と決めつける前に、なぜ空き店舗だったのか、例えば地元の人に聞いて見るなど慎重に見極める必要があります。
注意点3.自己資金は「見せ金」ではない
「飲食店開業に必要な自己資金は全体の10分の1」
「自己資金ゼロで飲食店開業はできる?」
これは記事執筆のため情報収集しようと検索して見受けたネット記事のフレーズです。
自己資金は最低でいくらあればいい、といった考えはあくまで融資審査の切り口であり、10分の1あれば充分ではないのです。
また自己資金ゼロとは、今日開業した瞬間からまったく手元にお金がない状態なので、それでは開業どころか生活すらできません。
飲食店に限らず、自己資金は開業資金で重要だからこそ、開業を目指す人も苦労して準備するのです。
でも苦労して準備ができてはじめて開業できるわけですし、開業に向けた融資も自己資金があるから審査を受けられるのです。
「最低これだけあれば」など自己資金が少ないことから目を背けたり、まして「〇〇も自己資金だと金融機関に認めさせる方法」といったように、自己資金を飾り立てたりすることは絶対におすすめできません。
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【銀行員の見た実例】何をやってもダメな場所は何をやってもダメだった
ここまで飲食店開業資金の注意事項を説明してきましたが、これらは銀行員として私の経験から来るものです。
ここで、ひとつの例を紹介します。
自分の担当していた飲食業(和風の居酒屋経営)の個人客から新規出店の融資相談を受けました。
概要は以下のとおり
- 行楽地のメインストリート、東京へ向かう上り車線沿いの貸店舗
- 専門の和食ではなく、興味があるラーメン屋を出店 メニューは独学
- 開業資金のうち自己資金は5%程度
なじみの顧客で仕事も前向きに頑張っていたので自分も応援したかったのですが、問題点がいくつかあり、結局はその問題により失敗してしまいました。
まず自分の専門外を選択した点で、ここはリスクを伴います。
趣味なら問題ないのですが、それを商売にするためには綿密な準備が必要なのです。
また開業資金に対して自己資金が少なく、開業後に軌道に乗るまで運転資金が枯渇してしまいました。
そしてなにより大きかったのが、開業地に選んだ場所が「何をやってもダメな場所」だったのです。
審査の一環で私も銀行員として開業予定地の調査をしましたが、その場所こそ地元でも有名な「何をやってもダメな場所」だったのです。
融資審査にあたり、事業計画を一緒になりなおすなど自分も力を注いだのですが、結局は客足を向けさせることができませんでした。
場所の選定から考え直す選択肢もあったと、いまでも苦い思いが残っている経験です。
まとめ~飲食店開業資金を銀行員はこう考えます
今回は飲食店の開業資金について銀行員の視点で解説してきました。
飲食店は比較的小規模からでも開業が可能で、自分の磨いてきた腕を発揮できるなど、若い人でも開業のチャンスがある業種です。
しかしその反面、競争相手も多く、また努力も実らず失敗する人が多いのも飲食店です。
もちろんチャンスは誰にでもあります。
しかしそのチャンスは、飲食店開業に向け腕と人脈、経験、そして自己資金を蓄えた人に与えられると銀行員は考えています。
ですから「自己資金が乏しくても大丈夫」などと、ことさらに強調する記事に同調するのはおすすめできません。
飲食店開業にはタイミングもありますが、自己資金を貯める努力と時間も必要です。
この記事が飲食店開業を目指す人の参考になれば幸いです。