個人で事業を行っている方で、「法人成り」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
しかし、「法人成り」についてちゃんと知識を持っている方はそう多くないでしょう。
「法人成り」をすることでメリットがあるのは知っているけれど、具体的にどんなメリットがあるのかわからないし、第一法人成りがどんなものなのかわからない、という事業主も少なくありません。
そこで、今回は法人成りとは何かから始め、メリットやデメリット、タイミングなどについて詳しく解説していきます。
目次
法人成りとは?
では、そもそも法人成りとは具体的に何を指すのでしょうか。
法人成り(法人化)とは個人が行っている事業を法人化し、業務を引き継いで行うことを指します。
つまり個人単位で行なっていた業務を、会社単位での業務にするということです。
新しく事業を始めるのではなく、すでにある事業を引き継いで行うという点で通常の法人設立とは異なります。
また、引き継ぐのは事業のみでなく、個人事業のときの資産や資本金、施設や車などの財産も対象です。
逆に、個人が事業に関して負っている未払金などの負債も引き継ぐことになります。
一から新しく事業を始めるよりも効率が良く、同時期に設立された法人よりも安定した事業を行うことができます。
法人成りはしやすくなっている?
平成18年に法人成りについての法律が大幅に改正され、法人成りのハードルは大きく下がりました。
主に資金面、人数面での負担が減ったことで、法人成りは近年注目を集めるようになっています。
最低資本金が1円になった
法改正以前は、「有限会社は最低資本金300万円、株式会社は最低資本金1000万円」というように最低資本金の額が定められており、法人成りの大きなハードルとなっていました。
しかし、平成18年にこうした最低資本金の規制が撤廃され、資本金の額を問わずに法人成りができるようになりました。
役員人数の規定がなくなった
もう1つの法改正は、人数規定についてです。
以前は、取締役3人+監視役1人の計4人が株式会社設立の際に必要となる役員の最低人数でした。
現在ではこの規制が緩和され、非公開会社の場合は1人以上の取締役で規定を満たすことができます。
活躍するフリーランスが増えた
近年、誰でも手軽に有益な情報にアクセスできるインターネットの影響で、個人がカジュアルにビジネスを始めることができるようになりました。
フリーランスの事業主の活躍が増えたことで、法人成りを勧める本やサイト、代行を請け負ってくれる専門家が増え、法人成りへのハードルは低くなっています。
法人成りをするメリット
法の規制の緩和、実際に法人成りを検討するフリーランス事業主の増加など、様々な要因によって法人成りのハードルはかなり低くなりました。
それでは、実際に法人成りをするとどのようなメリットが得られるのかについて解説していきます。
法人成りには、大きく分けて財政面、信頼面のメリットがあります。
節税できる
個人事業主は、事業で得た所得に対して所得税をかけられます。
所得税が累進課税の仕組みをとっており、所得が多ければ多いほど課される所得税の額も上がります。
年収195万円未満なら所得税は5パーセントになりますが、年収が4000万円を超えると45パーセントと、年収の半分近くを所得税として納めなければならないことになります。
一方で、企業の収入にかけられる税金は法人税です。
実は近年、個人にかけられる所得税が上昇傾向にあるのに対し、法人税は引き下げの傾向が続いていて、平成の30年間でなんと17%近くも税率が引き下げられているのです。
所得税の最大税率は半分近い45%ですが、法人税の税率は最大で23.2%と、法人税がとても低く設定されていることがわかります。
個人と企業で同じ額の収入を得ていたとしても、かけられる税金により、最終的に手元に残る手取りは企業の方が圧倒的に多いのです。
個人事業を法人化し、かけられる税金を変えることで税率の差を利用して大きく節税することが可能です。
消費税の納付免除
課税売上高が1000万円以上になると消費税を支払う義務があるのは、個人事業種でも法人でも変わりません。
しかし、資本金が1000万円未満の法人の場合は、一定期間(主に2年間)は消費税を免除されることがあります。
個人で事業を立ち上げ、2年後に法人化することで、さらに2年の消費税免除を望めるのです。
消費税の免除には条件がありますので、国税庁のホームページを参照する、専門家にアドバイスをもらうなどして確認する必要があります。
経費の幅が広がる
個人事業主の場合、自分の給料は経費として算入することができません。
しかし、法人では、正当な範囲の額であれば給料、退職金などを経費とすることができます。
役員報酬は、毎月固定の「定額同額給与」、決まった日に決まった金額を支払う「事前確定届出給与」、利益によって金額を決定する「利益連動給与」などの条件があります。
社会的信用度が上がる
個人事業は、どれだけ規模が大きくてもあくまで自営業です。
自営業よりも、「企業の社長」という肩書きの方が安心感を得やすく、顧客の増加、人材の確保、資金調達といった点において有利になる場合があります。
法人化し社会的信用を得ておけば、事業の拡大、さらなる利益につながります。
事業承継可能
個人経営の店舗では、店主が事業を続けることができなくなった時点で廃業となってしまいます。
後継者が事業を引き継ぐ場合、認可の取り直し、法務局での手続きが必要になる場合があります。
一方で、法人は事業を認可の取り直し等が必要なく、そのままスムーズに事業を引き継ぐことができます。
法人成りはタイミングを間違えるとどうなる?
法人成りをする際の一番の懸念事項となるのが法人成りを行うタイミングです。
確かに個人事業を法人化した場合、社会的信用度を上げることができる、税率の差を利用して大きく節税することができるなど、様々なメリットを享受することができます。
しかし、タイミングを間違うと、様々なデメリットを被ることになってしまい、むしろ損をしてしまうこともあるのです。
法人成りは、良い点と悪い点の両方を理解し、適切なタイミングで行う必要があります。
法人成りをするデメリット
法人成りをする際には、タイミングを吟味することが大切であることがわかりました。
では、法人成りの具体的なデメリットとはどのようなものなのでしょうか。
法人成りをした際のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
法人登記する費用が必要
法人成りとするということは、新しく企業を立ち上げるということです。
そのためには、公的な手続きを踏むことはもちろん、手続きの際に必要な費用を準備しなければなりません。
設立する会社の形態にもよりますが、一般的に会社設立にはそれなりの費用がかかります。
株式会社は20万円程度、合同会社は10万円程度と言われています。
手続きの手間や少なくない費用は、法人成りのひとつのデメリットと言えます。
赤字でも法人税を支払う
法人には、法人住民税の均等割(年間7万円)を支払う義務があります。
これは、たとえ収支が赤字だったとしても払わなければいけません。
地域によって金額が違う場合がありますので、必ず確認しておきましょう。
社会保険が必要
法人は、従業員の健康保険料と厚生年金保険料を負担する義務があります。
事業を拡大し、多数の従業員を雇うことになると、その分の社会保険料の負担が増えてしまいます。
法人成りのベストタイミングは?
法人成りにはタイミングが重要だということは前述しました。
では、実際に最適なタイミングとはいつなのでしょうか。
法人成りをすることで、税率の差で節税することができますが、課される法人税が所得税より低くなるのが800万円です。
逆に言えば、年収が800万円以下のタイミングで法人化してしまうと、個人事業だったときより多く税金を支払うことになってしまいますので注意しましょう。
法人成りに関するよくある質問
法人成りについて、基本的な知識を解説してきました。
ここでは、実際に法人成りを行う際に疑問に思う方が多い点について解説していきます。
負債を引き継がないといけない?
法人成りはあくまで個人事業の引き継ぎです。
個人事業だったときの債務は引き継ぐ必要がありますが、自動的に引き継がれるわけではありませんので、手続きが必要です。
従業員なしでも法人化できる?
平成18年度の法改正により、取締役が1名以上いれば会社の設立ができるようになりましたので、従業員がいなくても法人化することは可能です。
その場合、社会保険料の負担の義務がなくなります。
まとめ
法人成りとは、個人で行っていた業務を、新たに会社を設立して法人という形で引き継ぐことです。
法人化には、社会的な信頼の獲得、事業の拡大といった多数のメリットがありますが、法人登記の際の手間な費用、社会保険料の負担といったデメリットもあります。
法人成りの鍵となるのは、法人化のタイミングで、基本的には年収が800万円を超えたときが適切であるとされています。
これは、個人にかけられる所得税と法人にかけられる法人税の税率の差により、800万円から法人税の方が安くなるためです。
今まで個人で事業を運営してきた事業主が会社を設立するとなると、1人の力では限界がある部分もあります。
少しでも不安に思う点があるなら、専門家に相談するのをおすすめします。