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個人事業主と運転資金融資~運転資金の基本から融資を受ける注意点まで銀行員が解説

個人事業主と運転資金融資~運転資金の基本から融資を受ける注意点まで銀行員が解説

個人事業主が受けられる運転資金融資はなに?
個人事業主のままでは融資が受けにくい、法人のほうが有利と聞くけど本当?

今回はこうした疑問に銀行員がお答えします。

個人事業主が利用できる運転資金を知るには、まず個人事業主のこと、運転資金のことを深く知ることが大事です。

運転資金融資の基本をおさらい

まずはじめに運転資金の基本的なおさらいからはじめましょう。

今さら聞けない基礎的な内容なので、知識のブラッシュアップができて、この記事も受け止めやすくなると思います。

運転資金とは?

運転資金とは企業活動そのものです。

事業を経営することを「運転」と専門的に表現します。(工場がストップすることを「運転休止」などというのも、ここから来ています)

また車の運転もそのままイメージにつながり、運転資金はガソリンのようなものです。

あるいは人間なら血液で、どちらも必要不可欠で、無くなれば死んで(倒産)しまいます。

運転資金融資には、お金のつかいみち(資金使途)でいくつかの種類に分けられます。

 <運転資金融資の種類>

  • 経常運転資金:事業で常に(経常的に)必要となる運転資金(*)
  • 増加運転資金:売上増加や工場新築などで必要になる運転資金(*)
  • 季節資金:季節限定の運転資金 例)春の新茶や夏の水着仕入など
  • 決算資金:企業の決算で必要とな資金 例)配当金や納税など
  • 赤字資金:売上減少により支払に必要な資金が足りない場合、赤字の補填など

(*経常運転資金と増加運転資金、そして赤字資金はのちほど詳しく説明します)

運転資金の計算方法

では運転資金の計算方法を、経常運転資金を例にわかりやすく解説します。

運転資金の計算式

(①売上債権+②棚卸資産)-③買入債務=経常運転資金

運転資金の用語解説

①売上債権:受取手形と売掛金
②棚卸資産:棚卸資産とは在庫のこと
③買入債務:支払手形と買掛金のことです)

経常運転資金は①売上債権と②棚卸資産の合計から③買入債務を差し引いて計算します。

企業活動のなかで売上(売上債権)が入ってくるまでの間に在庫(棚卸資産)や仕入代金(買入債務)を支払うお金が瞬間的に不足するのでお金が必要になるのです。

   

運転資金の計算例

〇事例:以下の要素よりA社(小売業)が必要とする経常運転資金を計算

 ①売上債権500万円(受取手形200万円+売掛金300万円)
 ②棚卸資産200万円(商品在庫200万円)
 ③買入債務1,000万円(支払手形500万円+買掛金500万円)

〇計算

 (①売上債権500万円+②棚卸資産200万円)-③買入債務1,000万円=▲300万円

となり、300万円の経常運転資金が必要

*実際の経常運転資金は、受取手形や買掛金にサイト(いつまでに現金化できるか?受け取れるのか?といった期間のこと)を掛け合わせ計算します。

興味のある人は経理や会計の解説記事で確認してください。

個人事業主で運転資金融資が必要な3つのタイミング

個人事業主で運転資金融資が必要になるタイミングを、3つ紹介します。

個人事業主で運転資金が必要なタイミング1. 創業時

なんといっても、創業のときが運転資金を最も必要とするタイミングです。

事業をゼロからスタートアップするのですから、売上は当然ながらゼロです。

そこから事業を始めるために必要なお金の支払いもスタートするので、創業時には運転資金が必要不可欠です。

個人事業主で運転資金が必要なタイミング2. 事業が好調で不足するとき

事業が通常の状態で続く、つまり運転をし続けているときは経常運転資金が常に必要になります。

また売上の増加や、工場新築などで生産量がアップするなどなにかが「増加」することで必要になるのが増加運転資金です。

通常の状態も好調とも言えるので、経常運転資金と増加運転資金は理想的な運転資金です。

個人事業主で運転資金が必要なタイミング3. 事業が不調で不足するとき

売上が減少するなど事業が不調になると、仕入代金や諸経費などの運転資金が不足してきます。

経費を払うもととなる売上が減っても支払はしなければならず、不調な企業ほど運転資金は必要になります。

また赤字で融資の返済が苦しくなってきた場合なども、不足する運転資金を融資でまかなう場合もあり、こうした後ろ向きな資金使途をまとめて「赤字資金(赤字補填資金)」と呼んでいます。

個人事業主が利用できる運転資金融資5選

次に、個人事業主が利用できる運転資金融資を5つ、創業融資を例に解説します。

個人事業主が利用できる運転資金融資1. 日本政策金融公庫

創業者や開業間もない個人事業主の資金繰りを支援する公的融資が日本政策金融公庫です。

運転資金の融資は数多いラインナップがそろい、創業時に個人事業主が利用できる運転資金融資もいくつかあります。

  • 新創業融資制度

新たに事業を始める人、事業開始後で税務申告が2期以内の人向けの無担保、無保証人の融資制度

  • 新規開業資金

新たに事業を始める人、事業開始後7年以内の人向けの融資

  • 女性、若者/シニア起業家支援資金

女性や35歳未満の人・55歳以上で、新たに事業を始める人や事業開始後おおむね7年以内の人が利用できる融資
参考 日本政策金融公庫/創業時支援/創業時に利用できる主な融資制度

個人事業主が利用できる運転資金融資2. 商工中金

「中小企業による、中小企業のための金融機関」が商工中金です。

過去、中小企業の救済を目的として誕生した商工中金は、政府と組合の共同出資によって設立された公的性質の強い金融機関です。

個別の創業時向け融資は設定されていませんが、中小企業向けの金融機関として柔軟な対応が期待できます。

  • 一般的な融資

原則として設備資金15年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金10年以内(うち据置期間2年以内)
参考 商工中金/資金調達/中小企業向け融資一般的な融資

個人事業主が利用できる運転資金融資3. 信用保証協会の制度融資

信用保証協会は「信用保証協会法」に基づき、中小企業や小規模事業者の円滑な資金調達のため設立された公的機関です。

個人事業主が事業資金を調達するときに、融資の保証を通じてサポートしてくれます。

信用保証協会の創業時向け融資はいくつもあります。

  • 東京都制度融資/創業融資「創業」

東京都において現在事業を営んでおらず、1か月以内に新たに個人で開業 又は、2か月以内に新たに法人を設立して都内で創業しよう とする計画を持っている人などに向けた融資制度
参考
一般社団法人全国信用保証協会連合会/もっと知りたい信用保証
東京信用保証協会/東京都制度融資/創業融資(創業)

個人事業主が利用できる運転資金融資4. 銀行プロパー融資

日本政策金融公庫などの公的融資や、信用保証協会保証付の制度融資以外で、銀行が直接融資するのがプロパー融資と呼ばれるものです。

公的な後ろ盾や信用保証協会保証が付かないぶん、融資審査や条件は厳しくなるのがプロパー融資の基本です。

しかしながら、創業しようとする個人事業主などをサポートするために特別な創業者向けプロパー融資を扱っている銀行もあります。

  • 創業サポートローン

東京都、横浜市などの地公体や日本政策金融公庫と連携し、創業を希望する個人事業主の資金ニーズに応える融資商品

きらぼし銀行/創業サポートローン

個人事業主が利用できる運転資金融資5. カードローン

一般的にカードローンというと、サラリーマンなど純粋な個人が利用する30万円から100万円前後の極度額のある、プライベートなお金として利用するものです。

こうしたカードローンは個人事業主も利用可能ですが、そうした場合事業資金とプライベートなお金の区別が付けにくいので、おすすめできません。

個人事業主でも利用できる、事業資金専用のカードローンを選ぶことが重要です。

  • 創業者向けビジネスライン(スタート型)

新たに事業を始める人や、事業開始後税務申告を2期終えていない人で、中小企業等支援機関との連携した支援が可能な事業者、あるいは公的機関が開催・共催・後援したビジネスプランコンテスト等での入賞者など
鳥取銀行/資金の調達/創業者向けビジネスライン(スタート型)

個人事業主が融資を受けにくい3つの理由

個人事業主は融資を受けにくいのはひとつの事実です。

ここではその理由として3つ紹介します。

 <個人事業主が融資を受けにくい3つの理由>

  • 1.ネガティブな先入観
  • 2.決算が不透明
  • 3.信用度は法人に勝てない

個人事業主が融資を受けにくい理由1. ネガティブな先入観

現在では会社を作るのも簡単で、誰でも思い立てばすぐ社長になれます。

だからこそ、個人事業主でそれなりの規模で仕事している人がいれば、なぜ法人化しないのか?と勘ぐられかねません。

「経費などをごまかしやすいから、今も個人のままなのでは?」

「会社組織にすると、経営者として能力に自身がないのでは?」

「いや、そもそも法人化しないのは、単にヤル気がないからではないか?」

このように、融資する側の銀行などはネガティブな先入観を持たれてしまい、融資審査にもマイナスな影響を与えてしまうことがあります。

個人事業主が融資を受けにくい理由2. 決算が不透明

売上などが同程度であっても、法人は融資を受けられて、個人事業主では審査落ちすることも多くあります。

その理由としてひとつは、決算に対する信憑性があげられます。

必ずしも個人事業主の決算がいい加減という意味ではありませんが、それでも法人の作る決算書と比べると、信頼度はどうしても劣ってしまいます。

個人事業主が融資を受けにくい理由3. 信用度は法人に勝てない

決算書が端的な例ですが、個人事業主のままでは信用度で法人に勝てませんので、融資が受けにくいとも言えます。

例えば企業への融資姿勢や融資の限度額などを決めるもととなる、いわゆる「格付」(信用格付、銀行格付)も、個人事業主というだけで法人より格付けは低くなる傾向があります。格付が低ければ融資審査では厳しく見られ、融資限度も少なくなってしまいます。

まとめ

今回は個人事業主と運転資金融資について説明してきました。

個人事業主でいることが悪いことではありませんが、創業して経営者になった以上、やはり目標とするひとつのステップが法人化であることは間違いありません。

だからこそ、個人事業主として適切な事業資金調達ができるようにするには、自分の力だけでなく、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

また個人での創業、あるいは法人設立でも頼れるプロのサポートを得るべきだと、銀行員は考えます。

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