求人広告や求人サイト、ハローワークなどの情報をもとに就職活動を行った経験のある方は多いと思います。
しかし、自分が雇う側、求人を出す側になった場合、従業員への給料はどのようにして決めればいいのでしょうか。
新たに従業員の雇用を考えている事業主様にとっては、大きな悩みどころではないかと思います。
そこで今回は、個人事業主の失敗しない給与の決め方をご紹介します。
個人事業主が従業員の給与を決める時に大事な事5選
給与は、一度決めてしまうとなかなか減らすことができません。
大げさではなく、給与額の決定を誤ったために、経営が傾いてしまったなどと言う事例も多く存在するのです。
人件費を高額に設定しても、雇い主が期待するほど従業員のモチベーション向上、会社の繁栄には反映されないとも言われています。
そのため、給与は控え目に設定し、頑張りによって賞与や歩合(インセンティブ)で補うという方法がおすすめです。
給与額を決定する際に大事な項目には以下のようなものがあります。
- 同業者が支払っている給与や時給を参考にする
- 各都道府県提示の最低賃金以下にならないように気を付ける
- 給与以外にかかる負担も含めて考える
- 残業分を忘れない
- 有給休暇の影響も考える
同業者が支払っている給与や時給を参考にする
最も簡単で確実なのは、同業他社の給与形態を参考にする方法です。
求人雑誌や求人サイトに載っている同じ地域、規模、職種の店舗給与を調べ、予算を考慮して決定します。
また、求人広告を出す際の参考にもなりますので、老舗からチェーン店までいろいろな求人を見比べてみてください。
各都道府県提示の最低賃金以下にならないように気を付ける
給与は控えめで、頑張りによって賞与や歩合(インセンティブ)で補う方法を先ほどおすすめさせて頂きました。
しかし、各都道府県には最低賃金が提示されていますので、そこを下回らないようにご注意ください。
違反すると最低賃金法4条により罰則(50万円以下の罰金)を受けることになります。
また、基本給与がなく歩合だけの完全歩合方も労働基準法違反となりますのでお気を付けください。
給与以外にかかる負担も含めて考える
従業員に対してかかる金銭的負担は給与だけではありません。
そのため、総支出を考えてから逆算して給与を決定してください。
例えば、労働保険、通勤手当、制服代(クリーニング代)、備品などの消耗品、飲食店で賄いがある場合は食事代など細かい支出はたくさんありますので、計算漏れのないようにしましょう。
残業分を忘れない
時間外労働があれば残業代を支払う必要があります。
厚生労働省の調べによると月間の平均残業時間は42.18時間です。
これだけの残業代を考慮していなかったとなると後々大変なことになるでしょう。
有給休暇の影響も考える
労働基準法第39条によって、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には最低10日の有休休暇を付与する必要があると義務付けられています。
つまり、働いていなくても支払わなくてはいけない給与代が10日分あるということになり、踏まえて考えておかないとかなりの痛手になります(例:時給1000円×8時間×10日間=8万円)。
アルバイトやパートなど、所定労働日数が通常の労働者よりも少ない従業員も対象です。
従業員を雇うための準備
従業員に支払う給与が決まった後は、雇うための準備を行いましょう。
雇用を行うためには以下の2つの手続きの準備が必要になります。
- 労働保険への加入
- 法定三帳簿の作成
労働保険への加入
労働保険は、労災保険と雇用保険をあわせたものです。
従業員雇用1人以上で加入が義務付けられています。
雇用前に準備を行っておきましょう。
法定三帳簿の作成
「労働者名簿」「出勤簿」「賃金台帳」の3つをあわせて法定三帳簿と言います。
従業員を一人以上雇った場合には、この3つの作成・管理・保管が労働基準法で義務付けられています。
雇用後に慌ててしまわないように、あらかじめ準備をしておきましょう。
厚生労働省公式HPにフォーマットが用意されていますので参考にしてください。
厚生労働省(主要様式ダウンロードコーナー)
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雇用後に必要な手続き
準備が整った後は、雇用後に必要な手続きを確認していきましょう。
主な手続きには以下のようなものがあります。
- 労働条件通知書兼雇用契約書の交付
- 税務署への届け出
- 労働基準監督署への届け出
- ハローワークへの届け出
労働条件通知書兼雇用契約書の交付
まずは、労働条件通知書兼雇用契約書の交付です。
労働条件通知書兼雇用契約書は、労働条件通知書と雇用契約書をあわせたもののことを言います。
労働条件通知書は、雇い主が労働者と契約する際に交付する書類です。
労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条の規定によって交付が義務付けられており、業務内容、契約期間、時間、休日、賃金、退職に関してなど記載内容としていくつかの項目が決まっています。
雇用契約書は、雇い主が労働者と契約する際に交付する書類という点は同じですが、義務ではなく雇用契約に双方が合意したことを示すためにお互いに署名・記名捺印を行うものです。
必須ではありませんが、トラブル回避のために交付が勧められており、最近では労働条件通知書とあわせた労働条件通知書兼雇用契約書での交付が主流となっています。
税務署への届け出
続いて、税務署への届け出についてです。
雇い主は、給与から所得税を天引きした額を従業員に代わって所得税を源泉徴収として税務署に支払う必要があります。
そのため、従業員に給与を支払っていることを「給与支払事務所等の開設届出書」として管轄の税務署へ、雇用から1カ月以内に提出する必要があるのです。
国税庁公式HPにフォーマットがありますので参考にしてください。
国税庁(給与支払事務所等の開設・廃止・移転届)
労働基準監督署への届け出
労働基準監督署へは「労働保険関係成立届」、「労働保険概算保険料申告書」の2つを雇用から10日以内に提出する必要があります。
先ほど記載したように、労働保険は、労災保険と雇用保険をあわせたものです。
労働保険関係成立届は、従業員を労働保険へ加入させるために必要な届けで一人以上の従業員雇用で労働保険の適用事業とみなされ、加入、保険料の納付義務が発生します。
雇用保険は、従業員が失業した場合に失業保険を受けたり、再就職を補助したりというサポートを受けるための制度です。
一定の条件(以下表を参照)に該当する従業員が適用対象となります。
【雇用保険適用条件】
雇用保険に該当する条件(①②のどちらにも該当)
①32日以上の連続する雇用が見込まれる場合(以下のいづれかの例に該当する)
◇ 期間の定めがない
◇ 雇用期間が31日以上
◇ 雇用契約に更新規定があり。31日未満で雇止めの明示がない
◇ 雇用契約に更新規定はないが、同様の雇用契約で雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある
②1週間の所定労働時間が 20 時間以上
ハローワークへの届け出
ハローワーク(職業安定所)にも「雇用保険適用事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」の2つを雇用してから10日以内に提出する必要があります。
雇用保険は、一定の条件(【雇用保険適用条件】を参照)のある従業員が適用対象となりますので、条件を満たし、雇用保険加入を行った場合にはハローワークにも届け出を行ってください。
従業員への給与は経費に計上できる?
事業を拡大させるには従業員の雇用・給与の支払いが不可欠ですが、支出はできるだけ節税したいものです。
そこで、個人事業主が従業員を雇った場合の給与が経費計上できるのかどうかもご説明しておきたいと思います。
- 従業員が家族の場合
- 家族でない場合
従業員が家族の場合
家族の場合は事業専従者となり経費計上することはできません。
ただし、青色申告申請済みで、一定の要件を満たしている場合は、青色事業専従者給与として全額を経費計上することができます。
【青色事業専従者給与の要件】
①青色事業専従者に支払った給与である
※青色事業専従者とは、15歳以上(その年の12月31日現在)の親族かつ年間6ヶ月以上の期間、青色申告者の営む納税者が営む事業に専ら従事している親族
②「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出済み
③届出書に記載されている方法、金額の範囲内で支払われている
④青色事業専従者給与の額は、労務の対価として適当な額である
青色事業専従者給与に該当しない、または白色申告の場合は経費計上を行うことはできませんが、事業専従者控除(15歳以上の親族かつ年間6ヶ月以上の期間、納税者が営む事業に従事している親族に対して、配偶者86万円、配偶者以外一人につき50万円まで控除)を活用する方法があります。
家族でない場合
勘定科目を「給与賃金」として経費計上可能です。
帳簿上経費として処理してください。
まとめ
事業を運営していくには重要な決定事項がたくさんあります。
その中でも従業員の給与は最たる重要な事項かもしれません。
従業員の給与が高すぎたとしても突然減らすことができませんし、低すぎる設定であれば人材は集まりません。
また、雇用時の手続きがスムーズでないことは従業員に不安を与える原因となってしまいます。
事前準備をしっかりと行い、余裕を持った状態で従業員を迎え入れるように心がけてください。
経営サポートプラスアルファでは、個人でも法人でも独立を少しでも考えている人のご相談に乗らさせていただいております。
相談は何度でも無料なので、お気軽にご相談ください。