「有限会社を設立したいと思っていたけれど、法改正により有限会社を設立できなくなってしまった…」
このため、どの会社形態で企業を設立すればいいのか迷っている方も多いのではないかと思います。
また、なぜ有限会社が設立できなくなってしまったのか気になる方もいるでしょう。
今回は、そのような疑問に対して、主に有限会社に変わる会社形態を中心に説明していきます。
目次
有限会社とは?
有限会社の意味
有限会社とは、有限会社法に基づいて設立できる会社です。
しかし、2006年の法律の改正に伴って、有限会社を設立することは不可能になりました。
改正前の有限会社法には、最低資本金規制という規定がありました。
株式会社を設立する際には、1000万円の資本金が必要(2006年の会社法改定前まで)であり、そこまでの多額のお金を準備出来ない人のために、有限会社という会社設立方法があったのです。
以前の有限会社は、資本金300万円で設立することができ、取締役が1人でも設立が可能でした。
しかし、株式会社の場合、資本金は1000万必要で、取締役は3人必要です。
このような条件で、比較的設立しやすい会社が有限会社でした。
一般的には、小規模なビジネスを始める方に適している会社設立方法だったのです。
では、株式会社の会社形態とどう違うのかもう少し詳しく説明していきます。
株式会社との違い
有限会社と株式会社の違いは、先ほど説明したこと以外にもいくつかあります。
株式公開ができるか
まず1つ目に、有限会社は株式公開できませんが、株式会社はそれができるということです。
決算報告の義務があるか
2つ目に、有限会社には決算の報告義務がありませんが、株式会社にはその義務があります。
任期に制限があるか
3つ目に、有限会社は取締役の任期が無制限ですが、株式会社は最大でも10年までです。
最低資本金がどの程度か
4つ目に、有限会社は最低資本金が300万円必要ですが、株式会社は1000万円必要だということです。
このように、有限会社は株式会社と比べて義務が少なく、自由度が大きい会社形態でした。
次に、今も存在する有限会社はあるのか見ていきたいと思います。
今も有限会社は存在するのか
有限会社法が廃止されるにあたって、2006年の時点で存在していた会社は株式会社への変更が可能となりました。
株式会社に変更するには、定款変更や解散登記、設立登記に20万円ほどの費用がかかります。
また、有限会社を引き続き維持したい人のために、特例有限会社として株式会社ではあるが有限会社と名乗ることが許されています。
以前の有限会社のメリットを引き継ぐことが承認されているのです。
そのため、今でも有限会社は存在しています。
これから会社を大きくしたいという方は、信用が大きい株式会社に移行することをお勧めしますが、このままも会社規模でも問題ないのであれば、特例有限会社として会社形態を継続する方が規約などによる縛りがないため活動しやすいかもしれません。
有限会社を設立できなくなったのはなぜ?
商法改正とその背景
冒頭で紹介したように、2006年に新たな会社法が制定され、有限会社を設立することができなくなってしまいました。
これには大きく2つの理由があります。
1つ目は、会社法と商法の見直しが行われたことです。
2006年まで会社に関する法律は、商法の一部となっていましたが、会社法として1つにまとめようということになりました。
2つ目は、経営者が起業しやすいように法律を改正したことです。
起業しやすいように、最低資本金制度を廃止し、資本金1円で会社設立を可能にしました。
この制度が設けられたのが株式会社で、株式会社の設立のハードルが非常に低くなりました。
また、会社の種類も以前に比べ増加しました。
出資者が会社の経営を兼ねる持分会社といわれる組織形態の中には、合名会社、合資会社、合同会社の3つの会社形態が存在しています。
さらに、参加するメンバーが自分の能力を発揮し、他企業と共同事業を行うことが可能な有限責任事業組合(LLP)も創設されました。
以上のことをまとめると、有限会社廃止の理由は、起業家が資本金に捉われず、より起業家のニーズに合わせることができるようにするためだといえます。
では、有限会社設立を考えていた人のために、どの会社形態が有限会社に代わるのかを見ていきたいと思います。
有限会社の代替案
有限会社に代わる会社としておすすめなのは、株式会社と合同会社です。
まず、株式会社から説明していきます。
「株式会社」が有限会社をカバー
会社法の改定により、株式会社が有限会社の性質も含むようになりました。
特に資本金がネックになっていた企業の人にとっては、株式会社の最低資本金が1円からになったことは大きなことです。
株式会社の場合、毎年の決算報告の義務、役員の任期が最長でも10年など、有限会社に比べて手間がかかることが多少ありますが、定款などを調整して有限会社のような会社に近づけることは可能でしょう。
日本の会社の90%が株式会社であり、個人の起業から株式上場企業までの広い枠組みの中で利用されている株式会社は1番起業しやすい手法だといえます。
新たな形態「合同会社」
2006年の会社法の改正に伴って導入された持分会社の1つが、合同会社です。
合同会社の設立においては、出資者全員が有限責任という出資額の範囲で各々が責任を負う持分会社が設立できるようになりました。
株式会社のハードルが下がった有限会社と、持分会社として導入された合同会社を比べると、利益配分や議決権の形態などの法人の面で異なることがあります。
しかし、合同会社は、1人でも少額の資金でも出資できることや出資者は全員有限責任を持つなど、有限会社と似た特徴を持つので、小さな企業を設立する場合には適しているといえます。
設立時に株式会社よりも資金を要さないというメリットがあって、現在合同会社の数は5万社を超えており、着々と増加しています。
なお、特例有限会社は組織変更で株式会社のみならず、合同会社に変更することも可能になっています。
全会社形態の比較
では、それぞれの会社形態(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)のメリットを説明していきたいと思います。
株式会社
株式会社のメリットは大きく3つあります。
1つ目は社会的信用度が増すことです。
株式会社には情報開示の義務があります。
それにより、取引先や顧客などからの信用を得やすくなり、金融機関からの融資も金額が高くなる可能性も高いです。
借入額も個人で起業するよりも大きくなります。
2つ目は、何か起こっても有限責任で済むことです。
もし、会社が多額の負債を抱えたとしても、その責任は出資した金額の範囲内で収まります。
3つ目は、株の発行により資金を調達できることです。
株主の募集し、出資を得る増資をすることができるのです。
出資者は将来的な配当を期待し、利息や返済期限なしで資金を直接集めることができます。
合同会社
合同会社のメリットも大きく3つあります。
1つ目は、設立コストが低いことです。
例えば、登記する時に登録免許税がかかりますが、株式会社は最低額1件15万円であるのに対し、合同会社は最低額1件6万円で済みます。
また、公証役場で定款の認証をする時に、株式会社は1件5万円の手数料がかかりますが、合同会社は定款の認証が不要です。
2つ目は、出資者の合意で利益の配分を自由に決定できることです。
利益をどうするかの自由度が高いといえます。
3つ目は、決算の公表義務がないことです。
これにより、会社としての手間が少なくなります。
合資会社
合資会社とは、債権者に対して出資額を上限に責任を持つ有限責任社員と債権者に対して連帯を負う無限責任社員の両方で構成される特殊な会社形態です。
そのため、設立には最低2人必要になります。
合資会社のメリットは大きく4つあります。
1つ目は、設立費用が低コストで済むことです。
登録免許税と定款印紙代のみが登記の時にかかりますが、10万円で済ませることができるのです。
株式会社と比べると15万円ほど安価に抑えられます。
2つ目に、現物出資が可能なことです。
設立時に必ずしも資本金を用意する必要がないため、資本金集めのみに執着する必要がありません。
3つ目は、社会保険に加入できることです。
個人事業主とは異なり、国からのサポートも受けることができます。
4つ目は、株式会社と比べ、手間が少ないことです。
決算報告の義務がなく、定款も自由に定めることができます。
合名会社
合名会社とは、無限責任社員のみで構成される会社形態です。
会社の負債は自分の私財を犠牲にしてまでも返済する義務があるので、複数の個人事業主が集まって成り立つ会社といえます。
合名会社のメリットは大きく2つあります。
1つ目は会社設立が簡単なことです。
合名会社も合資会社同様、登記の時に登録免許税と定款印紙代の10万円のみで会社設立可能です。
2つ目は、自らの意思を経営に反映させやすいということです。
無限責任社員のみで構成されているため、社員が従業員であると同時に出資者なのです。
そのため、出資者と労働者の対立が生まれることがなく、経営方針に対して自分の意見を言えるのです。
有限会社から移行するべき?
有限会社のままでいることのメリット
有限会社法がなくなりましたが、「特例有限会社」として存続することは、新会社法でも認められるようになりました。
でも、株式会社になれば解決することの方が多いように思いますが、有限会社のままでいるメリットはあるのでしょうか?
実は有限会社のままでいるメリットは結構大きいのです。
「有限会社」の商号を用いることができる
特例有限会社は「有限会社〇〇〇〇」となり、変わらない名称、商号のまま存続することができます。
また、商号の変更をした場合(「株式会社〇〇〇〇」などに変更する)、その登記、諸届けなどの手続きに加え、印鑑、名刺、会社の看板、ホームページ、備品の変更、「社名が変わりました」という挨拶状の発送など膨大な時間的、金銭的のコストがかかります。
本来業務ではなく、そちらに社員の時間や労力が費やされ、仕事にならなくなります。
必要ない株式会社への移行が自社の経営資源を圧迫しないかよく考えてください。
有限会社のままであればそうした負担がなくなり、そのまま今まで通り業務を継続できます。
役員の任期が無い
株式会社の場合、役員には任期があり、それを超えて役員を務める場合、株主総会の議決を経て、「重任登記」というものをしなくてはなりません。
しかし、有限会社のままであれば、会議で役員の任期を伸ばしたり、重任登記をしたりする必要はありません。
有限会社を創業した代表取締役、そして一緒に役員をしている家族、そのまま何の登記もせずに事業を継続できます。
M&Aをして事業承継するなど、後継者問題を抱えていないのであれば、特例有限会社のまま家族経営でやっていくほうが圧倒的に楽です。
特例有限会社のままでいることで、役員選任や任期の延長にかかわるコストを大幅に削減させることができます。
ほとんど株主がいない、知り合いばかりなのに株主総会を開いて、議決を取り、役員の任期を決めるというのは無駄なコストでしかありません。
決算公告義務がない
株式会社になると、定時株主総会を経て「決算公告」をする必要があります。
第3者の目に触れる形で自社の経営成績を開示しなければなりません。
しかし、有限会社では決算公告の必要はありません。
特例有限会社のままでいることで、決算報告義務を免れることができます。
経営状況を隠せるということではありませんが、小さな会社には大きなコストダウンになります。
そもそも自分たちだけで分かっていればいいのならば、公告する必然性がないからです。
家族経営や零細企業などは特例有限会社のままのほうがはるかにコスパが良いです。
有限会社でいることのデメリット
一方、有限会社のままでいることのデメリットもあります、デメリットが自社にとって大きい場合、有限会社ではなく株式会社や合同会社に移行した方がいいかもしれません。
有限会社のままでいるデメリットとして以下のことが挙げられます。
株式の譲渡制限がある
株式会社の場合、上場会社では当然証券取引所において、公開で売買が行われ、非公開の会社では株の譲渡をする場合には、取締役会の承認か株主総会の承認が必要になります。
有限会社の場合、株主総会などの機関承認不要で株式の譲渡ができます。
つまり、ある株主のグループが悪意を持ってある人に株式を集めて、いきなり会社の経営を握ることも可能になります。
そうしたリスクを考えると、取締役会や株主総会という「ストッパー」を設けた方がいいかもしれません。
有限会社のままだと株式の譲渡について疑心暗鬼になってしまうかもしれません。
もちろん、家族経営などであればそうした不安はないのですが、そうではない場合思わぬリスクが生じる可能性があります。
組織の再構成をする際に不便がある
会社の買収や吸収合併はよくあることですが、有限会社を「存続会社」にした吸収合併や、有限会社を承継会社とする吸収分割は法律上できないことになっています。
特例有限会社も有限会社なのでそうなります。
有限会社は株式交換、株式移転もできません。
これらから、有限会社は吸収合併などを「する方」にはなれないのです。
積極的に事業展開をして、他社の買収、吸収、合併などをしたい場合、特例有限会社のままでいると不可能なのです。
攻めの経営を行いたい場合、有限会社から株式会社に移行するしかないのです。
有限会社のまま積極的に事業拡大をするのは制度上もなかなか難しく、家族経営など「守りの経営」はそれで良いのですが、そうでない場合デメリットとなります。
株式会社に移行したときのメリット
有限会社から株式会社になるには、手間やコストがかかりますが、それに見合うメリットもあります。
すべてのケースでメリットばかりということではありませんが、やはり得られるものも大きいのです。
株式会社に移行した際のメリットを以下に記します。
「株式会社」の商号を用いることができる
「有限会社〇〇〇〇」と「株式会社〇〇〇〇」で、顧客や金融機関が受けるイメージはどうでしょうか?有限会社のままだと、零細企業、家族でやっている企業、小さな昔ながらの企業という印象を受けるはずです。
イメージとしては、古臭く、あまり事業展開していない旧来の会社となり、ポジティブな印象を与えません。
一方「株式会社〇〇〇〇」になれば、対外的な信用度が上がります。
もともと有限会社であっても、株式会社に変わることで、新しい時代に適合しているコンプライアンスもしっかりしている企業というイメージになります。
個人事業主ではなく株式会社化しなさい、と創業コンサルタントなどが言うのと同じ理由です。
「株式会社」という響きが持つメリットはかなり大きいのです。
有限会社は「なぁなぁ」、株式会社はコンプライアンス徹底、実際はそうでもないのですが、そういうイメージを持つ人が意外と多いのです。
株式の譲渡制限を撤廃できる
有限会社は株式の譲渡制限があり、知らない第3者への譲渡は制限されています。
しかし、株式会社になることで、株式の譲渡制限に関する定款の規定を廃止し、公開会社となることができます。
その結果、上場などをして多くの人か株式による資金調達を行うことが可能になります。
資本を増やしたい場合、株式会社になるのが最適解です。
機関設計の柔軟性が上がる
有限会社は小規模な事業者を想定していますので、内部に設置する機関については機動性、柔軟性がありません。
機関もメンバーもほぼ固定され、流動性も必要としていません。
しかし、株式会社に移行することで、社内の機関設計に柔軟に対応できます。
執行機関や議決機関である取締役会、計参与の設置だけでなく、会計監査人の設置等も可能となります。
様々な機関を自社の成長や収益増、設立目的の達成に合わせるようにカスタマイズできるのは圧倒的に株式会社です。
株式交換や株式移転が可能になる
子会社を作る際に「株式交換」や「株式移転」という手法を行うと、それが容易になります。
詳細はここでは省きますが、経営統合や子会社の完全子会社化、グループ再編のために子会社を作る、「〇〇ホールディングス」といった持株会社を設立する際などに、使用されるテクニックです。
有限会社では、そもそもどこかの株式会社の子会社になることはあっても、その逆はありません。
有限会社のままでは、子会社を作ることは非常に難しく、事業を拡大して、子会社化を考えている場合、株式会社になるべきです。
特別清算制度が適用される
株式会社になると「特別清算制度」という制度が適用されます。
特別清算とは、会社の清算(倒産)の手法の1つで、改善の見込みがない会社を畳む際に、会社が弁護士を選任し、その人が清算の手続きを行える制度です。
破産と比べて迅速に会社の清算が進むのが特徴です。
通常の清算の場合、裁判所が選任した破産管財人による「破産」になります。
破産という言葉自体、ネガティブなイメージが強くて、そこからの立ち直りはかなり難しくなります。
一方、清算という言葉ならば、何か溜まっていたものを解消したというイメージで、それほどネガティブではありません。
対外的なイメージを考えると、この「清算」という言葉で倒産処理できるのはありがたいことです。
これは株式会社にしかできません。
不渡り→強制的な破産→倒産という流れをたどらず、ある程度弁護士と相談して計画的に事業を畳むことができます。
「自己破産」と聞くと、どうしてもその人に対して、なんらかの悪い印象を覚えることになるとは思いますが、「自己清算」であれば、前向きにこれまでの負の要素を解消したという捉え方をされるので、マイナスの印象というよりは、むしろプラスの印象をもたれやすいです。
会社の場合も同じです。
もちろん、実務的なメリットも大きいのですが、対外的なイメージとして「破産」ではなく「清算」を使えるのはとても大きなメリットです。
株式会社に移行したときのデメリット
株式会社に移行することはメリットだけではありません。
デメリットもあります。
逆に言うと、株式会社に移行するデメリット=有限会社のままでいるメリットにもなります。
デメリットを以下に列挙します。
取締役の任期に限度がある
株式会社の取締役には任期があります。
選任後2年が任期の原則で、定款で10年まで伸ばすことが可能ですが、そこが限度になってしまいます。
株式会社の議決と重任登記によって取締役の任期を延長することはできますが、手続きが面倒です。
有限会社ならば取締役の任期はなく、登記も何もせず、当初のまま継続できます。
家族経営の会社で役員構成が変わらないのであれば、株式会社に移行するメリットはあまりないのかもしれません。
監査役も同様で、選任後2年が任期の原則で、定款で10年まで伸ばすことが可能ですが、そもそも有限会社の場合監査役の任命は必須ではありません。
休眠会社のみなし解散の規定が適用される
会社は設立の際に登記が必要ですが、長期間何も事業活動をしていない会社は「休眠会社」と呼ばれます。
何もしない休眠会社がそのまま登記され存在していると、何のための登記なのか、商業登記制度の信用にかかわってしまいます。
そこで、株式会社で12年間何の登記も行われていない会社は、会社の実態がないということで、法務局が「みなし解散」を職権で行うことができます。
株式会社の取締役の任期が最大10年なので、重任登記にしても、変更登記にしても、12年間何の登記もしないのは考えにくいのです、12-10=2年間はむしろ大目に見てくれています。
みなし解散を適用されると、再び事業を行う際に会社継続の手続きが必要になります。
会社継続手続きとは、株主総会の特別決議とその2週間以内に法務局で会社継続の登記をすることです。
みなし解散の規定ができて10年未満なので、そのまま放置するとどうなるかまだ不確定ですが、強制的に会社の登記が抹消される危険性もあります。
有限会社はこのみなし解散の規定は適用されないので、いつまでも休眠会社として寝かせておくことが可能になります。
決算の公告義務が生まれる
株式会社になれば、株主総会で1期分の決算を承認し、その後、決算を公告する義務があります。
当然、決算公告にかかわるコストは大きく手間がかかります。
また、公告するということは、第3者にも自社の経営状況を知られるということでもあります。
粉飾決算が横行するのも、それが理由の1つになっています。
会社の経営状況、財務状況を全国、全世界に公開することが株式会社の義務になっています。
一方、有限会社はそうした義務がありません。
公告しなければ(しても良いですが)第3者に知られることもなく、経営を進めることが可能になります。
付附属明細書を作らなければいけなくなる
会社は貸借対照表と損益計算書を作成しなければならないのは当然ですが、株式会社の場合、それに加えて「附属明細書」と呼ばれるものを作る必要があります。
附属明細書とは
株式会社の貸借対照表、損益計算書、そして「株主資本等変動計算書」と「個別注記表」の内容を補足するための明細書です。
この作成がとても大変です。
- 有形固定資産及び無形固定資産の明細
- 引当金の明細
- 販売費及び一般管理費の明細
- 会計監査人設置会社以外の株式会社において、関連当事者との取引に係る注記の内容を一部省略した場合における省略した事項
有限会社にはこれらの事項を記した附属明細書の作成は不要となっています。
株式会社への移行の仕方
有限会社、株式会社のメリット、デメリットを有限会社から株式会社に移行することを決めた場合、どのように行えばよいのか解説します。
定款の作成
株式会社としての定款を作成します。
すでに、今までの有限会社の定款がありますから、それをベースにして作成していただいて構いません。
株式会社になるので、取締役の増員や監査役の選任、株主総会の規定の拡充など、有限会社の時のものをそのまま定款にするというわけにはいきません。
しかし、有限会社の定款がベースにあるので、新規に会社を立ち上げる時と比べるとスムーズにできるはずです。
なお、有限会社から株式会社になるので、商号には「株式会社〇〇〇〇」(あるいは「〇〇〇〇株式会社」となりますが、〇〇〇〇の部分を有限会社の時から変えても大丈夫です。
思い切って商号を大きく変えて、イメージを刷新するのも悪くない選択でしょう。
定款は会社の憲法ですので、この機会にしっかりブラッシュアップしてみてはいかがでしょうか?
株主総会で決議する
定款を作成したら、株主総会を開催して、有限会社から株式会社に移行する旨の議決を行い、承認を得る必要があります。
その際には、議事録を作成する必要が有ります。
- 商号変更の決議
- 定款変更の決議
この2つの決議をして、株主の承認を得てください。
なお、株式会社に移行するにあたっての発行済株式総数は、「登記事項証明書」の数と同数になります。
株主総会で株式会社に移行する決議が承認されてから、2週間以内に登記の申請が必要になります。
登記申請書を作成する
有限会社から株式会社に移行するにあたって、以下の2つの登記を行うため、その登記申請書を作成します。
有限会社から株式会社への商号変更による移行では、下記2つの登記が必要です。
また、登記の申請日から株式会社へ変更になります。
- 特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書
- 特例有限会社の商号変更による解散登記申請書
特例有限会社を商号変更によって株式会社に移行する場合、有限会社の「解散」と株式会社の「設立」を同時に申請する形になります。
一度株式会社に移行した場合、もう特例有限会社は解散してしまうので、戻ることはできません。
特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書や特例有限会社の商号変更による解散登記申請書ははひな型が法務局にありますが、例えばこのような形になります。
特例有限会社の商号変更による設立登記申請書
1.商号 株式会社海老山商事
※株式会社に移行後の商号
1.本店 東京都△△区〇〇町●丁目■番◇号
1.登記の事由 令和 年 月 日商号変更による設立
1.登記すべき事項 別紙のとおり
1.課税標準金額 金300万円
※資本金を指します(一部例外あり)
1.登録免許税 金3万円
1.添付書類
定款 1通
株主総会議事録 1通
上記のとおり登記の申請をします。
令和 年 月 日
東京都△△区〇〇町●丁目■番◇号
株式会社海老山商事
東京都△△区〇〇町●丁目■番◇号
代表取締役 蟹 川 烏 賊 三 代表印
東京法務局 △△出張所 御中
特例有限会社解散・清算人登記申請書
1、商 号 海老山商事有限会社
1、本 店 東京都○○区○○町○丁目○番○号
1、登記の事由 解 散
令和〇年〇月〇日清算人就任
1、登記すべき事項 令和〇年〇月〇日株主総会の決議により解散
※株主総会日と清算日は同じ
清算人の住所氏名
東京都○○区○○町○丁目○番○号
清算人 鯵村河豚美
東京都○○区○○町○丁目○番○号
清算人 猫沢倶栗鼠
1、登録免許税 金39,000円
※資本金によらず固定
1、添付書類 定款 1通
株主総会議事録 1通
上記のとおり登記の申請をします。
令和○年○月○日
東京都○○区○○町○丁目○番○号
申請人 海老山商事有限会社
東京都○○区○○町○丁目○番○号
清算人 鯵 村 河 豚 美 清算人の届出印
連絡先電話番号 03-1234-5678
東京法務局 ○○出張所 御中
有限会社の解散にあたっては清算人の選任が必要となります。
清算人には定款に定めがある場合その人が就任しますが、有限会社の場合、記載しているところは少ないので、株主総会で選任します。
清算人は、未成年や後見人がついている人、前科がある人以外の成人ならば基本的に誰でも就任できます。
弁護士等の有資格者である必要はありません。
印鑑届書を作成する
個人の印鑑登録と同じように株式会社としての代表印を法務局へ届ける必要があります。
「設立登記の申請書」と一緒に「印鑑(改印)届書」も提出します。
有限会社から株式会社に移行したので、代表印も「株式会社〇〇代表取締役▼△▲▽」と「株式会社」が入った代表印になるはずです。
この「印鑑(改印)届書」には、代表取締役個人の実印の押印が必要で、代表者個人の印鑑証明書も添付します。
つまり、代表者の実印の印鑑登録を先にしなければならないということになります。
申請書類をまとめる
上記の申請書をまとめます。
申請書類は以下のセットとなります。
<セット1>
1.特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書
2.登録免許税納付用の収入印紙貼付台紙(登記申請書と同じ印鑑で契印する )
3.定款
4.株主総会議事録(商号変更の決議と定款変更の決議両方
5.委任状(必要な場合のみ)
<セット2>
下記の順番で左側をホチキス等で2カ所綴じます。
1.特例有限会社の商号変更による解散登記申請書
2.登録免許税納付用の収入印紙貼付台紙(登記申請書と同じ印鑑で契印します。)
<セット3>
クリップ留めをします。
1.印鑑(改印)届書
2.代表者個人の個人の印鑑証明書
この<セット1><セット2><セット3>が登録書類となります。
綴じるものは必ずこの順番に綴じて契印(割り印)をして下さい。
自分の手元にも書類を置いておきたい場合、コピーを1部添付して「原本還付の手続き」を行ってください。
申請費用について
株式会社に移行する申請に際して、下記の費用が掛かりますので注意してください。
- ・特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請:3万円以上(資本金によって
変わる) - ・特例有限会社の商号変更による解散登記申請:1件3万円
これらは収入印紙を貼付します。
現金ではありません
その他、印鑑作成、印鑑登録、印鑑証明書発行等の諸経費が掛かります。
また、解散登記の場合、上記の解散の登記申請30,000円に加えて、清算人選任の登記申請9,000円の計39,000円が必要となります。
登記申請をする
本店所在地がある法務局に行き、株式会社の設立登記を申請します。
なお「登記申請日」が株式会社の設立日になります。
郵送対応もできますが、記載ミスがあった時に対応に時間がかかります。
可能ならば、代表印と個人の実印を持参して、法務局に出向く方が安心できます。
これで、特例有限会社から株式会社に移行する手続きは完了します。
このように、有限会社から株式会社に移行することについて、時間と手続きコストがかかります。
法務局への登記はかなり時間がかかるため、ある程度スケジュール感をもって株式会社に移行する準備をしておいた方がいいでしょう。
繰り返しになりますが、一度株式会社に移行してしまうと、元の有限会社は解散します。
有限会社の新規設立はできませんから、元の有限会社に戻れないことになります。
まずは、特例有限会社のままでいることと、株式会社に移行することのメリットとデメリットを比較し、見極めたうえで経営判断として以降の可否を決めてください。
経営者としての一大経営決断となります。
株式会社への移行をお考えなら、経営サポートプラスアルファにご相談ください!
これまでの説明で、有限会社のままでいること、株式会社に移行することには、それぞれのメリットデメリットがあるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
どちらかが絶対的に良いということはなく、あくまでもご自身の状況や、目的を考慮した上で、選択すると良いです。
ここで最後に、株式会社への移行を考えている方に向けて、弊社経営サポートプラスアルファの紹介をさせていただきます。
前述した通り、株式会社への移行手続きには、とても煩雑な作業が伴います。一人で全て済ましてしまうのも、選択肢としてはあっても良いですが、もしそうするなら相当な労力を費やさなければならないことでしょう。
そこで、株式会社への移行手続きを弊社に任せていただきたいのです。
弊社は、会社設立時の節税対策や、電子定款作成などの業務などを代行させていただいている税理士グループです。
自分だけで、株式会社への移行手続きをするのが心細いとお感じなさっている方は、ぜひ一度弊社にご相談いただければと思います。