• HOME
  • 独立時に顧客の引き抜きをしても大丈夫?基本的な考えを解説

独立時に顧客の引き抜きをしても大丈夫?基本的な考えを解説

独立時に顧客の引き抜きをしても大丈夫?基本的な考えを解説

独立する際に「独立前にいた会社の顧客引き抜きはしても良いのか」という点を気にする人は多いはずです。

顧客と良好な関係が築けているならば、独立時に引き抜きしたいと考える人はいるでしょう。

独立時に引き抜きできれば良いものの、引き抜きによってトラブルになっては独立の意味が薄れてしまいます。

また、企業側としては独立して顧客を引き抜きされる状況を防がなければなりません。

今回は双方の観点から引き抜きについてご説明します。

法律的には顧客の引き抜きは禁止ではない

法律的な観点で判断すると、独立して顧客を引き抜きすることは違法行為ではありません。

まずはこの点についてご説明していきます。

自由競争の範囲内で引き抜きはできる

従業員が独立して顧客を引き抜きする行為はトラブルの原因となります。

このトラブルが裁判に発展しているケースも多いため、顧客の引き抜きに関する判例は数多く存在しています。

それらの判例に目を通してみると、基本的に顧客の引き抜きは違法行為と判断されていません。

独立するとお互いにライバル的な存在となり、自由競争の観点から顧客の奪い合いはあってしかるべきだと考えられているのです。

独立して顧客を引き抜きするのと、独立していない別の会社の人間が顧客を奪い取るのは同じだと考えられているわけです。

もちろん、独立した側が自由競争の範囲を超えて顧客の引き抜きをすると、これは違法行為となる可能性があります。

独立して顧客を引き抜きすることすべてが合法ではなく、違法だと判断されているケースも存在します。

必ずしも認められるわけではないため、この点は正しく理解しなければなりません。

顧客の引き抜きはできないとのイメージが強すぎる

独立して顧客を引き抜きすることは「違法行為である・法律で禁止されている」などのイメージを持たれるケースがあります。

ただ、これらはあくまでもイメージであり実態とは異なっています。

特に注意してもらいたいのは、経営者が上記のようなイメージを持つことです。

「違法行為であるため最悪訴えれば良い」などと甘く考えていると、独立して顧客を引き抜きされているにも関わらず、裁判に負けてしまいかねません。

また、独立する側も「顧客の引き抜きをすると訴えられる」などのイメージが強いようです。

これも同様にイメージが強いだけで実態とは異なっています。

独立時に顧客の引き抜きから会社を守る方法

ご説明したとおり一般論では顧客の引き抜きは違法行為に該当しません。

状況によっては違法行為だと判断されるものの、自由競争の範囲内であれば合法だと判断されます。

そのため以下の方法などを活用して顧客の引き抜きから会社を守らなければなりません。

また独立する側は以下のようなルールで顧客の引き抜きが禁止されていないかを確認すべきです。

禁止されていると、顧客の引き抜きは損害賠償請求などの対象になってしまう可能性があります。

独立時に顧客との取引を禁止する

独立してからの顧客の引き抜きを防ぎたいのであれば、顧客の引き抜きを禁じるように就業規則などで定めておかなければなりません。

理想としては就業規則に加えて誓約書も用意して、この両方で顧客との取引を禁止しておくと独立後の顧客の引き抜きを防げるようになります。

例えば就業規則や誓約書に以下のような内容を含めておくと良いでしょう。

「従業員は退職後〇年間、在職中に取引をした顧客に対して、弊社の商品やサービスなどと競合する商品やサービスの提供を禁止する」

まず、取引の禁止については有効期間を定めておかなければなりません。

独立してから無期限に引き抜きを禁止するような内容を盛り込むと、顧客の引き抜きで裁判が起きた際にその内容を否定される可能性があります。

無期限は制限として厳しすぎるとの判例があるため、独立(退職)してから2年程度と定めておくのが現実的です。

また、取引を禁止する相手を在職中に従業員が取引した顧客に絞っておきましょう。

こちらも独立後に取引先すべての引き抜きを禁止すると、範囲が広すぎて有効性を認められない可能性があります。

無期限にしないのと同様に、禁止する相手についても範囲を絞って明示しておきます。

独立前の顧客リストの利用を禁止する

在職中に知り得た顧客の情報を持ち出せないように禁止しておきましょう。

独立後に顧客の引き抜きが発生するのは顧客リストが独立後にも利用されるからです。

これを禁止しておけば、独立した人間からは顧客に連絡ができなくなるため引き抜きを防げます。

例えば就業規則や誓約書に以下のような内容を盛り込んでおくと良いでしょう。

「従業員は顧客の住所や氏名、連絡先など取引に関する一切の情報を社外に持ち出してはならない。これらの情報は会社の企業秘密であるため、在職中や退職後を問わず担当する業務以外の用途に利用してはならない。」

そもそも顧客に関する情報は企業秘密に該当します。

そのため、情報を保護するとの観点からも、社外への持ち出しは禁止するようにしておきましょう。

在職中であっても独立後であっても顧客情報の流出はトラブルになる可能性があるため、引き抜きの防止も視野に入れておくことが無難です。

なお、顧客リストについては「全顧客」を持ち出しの禁止対象としても差し支えありません。

こちらは会社の企業秘密であるとの観点から、全顧客を対象に禁止しても問題ないと判断されます。

引き抜きについては就業規則にも誓約書にも定める

独立した際に顧客の引き抜きを防ぐために、就業規則に必要な文言を含めている会社は多く見られます。

ただ、状況によっては就業規則の内容だけでは不十分だと判断されるようです。

判例にも記載内容や手続きの不備によって、就業規則の内容が適用されなかったものがあります。

そのため、顧客の引き抜きを確実に防止するためには、就業規則でも誓約書でも定めておくのが重要です。

誓約書を従業員全員に書いてもらうのは手間になりかねないですが、独立後にトラブルを防ぐためには重要です。

経営者として必要な対応はするようにしましょう。

逆に独立する側としては、就業規則には誓約書にも独立後の引き抜きについて定められていると基本的には抜け穴がありません。

この状態で独立して顧客を引き抜きすると、独立前の会社とトラブルになる可能性が高くなります。

長年働いていると誓約書を書いたかどうか忘れてしまうかもしれません。

ただ、署名したならばその効果は発揮されるため、独立する際は会社が何かしらの対策をしていなかったか思い出す必要があります。

独立して顧客引き抜きたい場合の注意点

独立後に顧客を引き抜きたい場合には注意点があります。

上記のとおり顧客の引き抜きについては対策される可能性があるため、その点を考慮しなければならないのです。

続いては独立時の注意点についてご説明します。

基本的には独立すると自由が保障されている

法律の全般的な解釈によると、職業選択の自由から営業の自由が保障されています。

そのため、独立して顧客を引き抜きするために営業する行為は違法行為ではありません。

この点について違法行為であるとの認識を持ってる人が多いため、まずは正しい解釈を持たなければならないのです。

また、営業活動の結果どのような契約を結んでも、その内容は法律的には認められます。

もちろん契約内容に違法行為があれば別ですが、独立前と同じような業務で引き抜きする契約について無効とされることはありません。

この点も勘違いしている人が多いため注意しなければなりません。

何かしら独立前に署名をすると効果が発揮される

独立する前に会社との間で何かしらの契約を結んだならば、その効果は退職するまで発揮されます。

また、内容によっては退職して独立してからも発揮されます。

そのため、どのような内容に署名したかは注意しなければなりません。

重要となるのは、署名した内容に独立後の顧客引き抜きについて定められているかどうかです。

何かしらの定めがあるならば、会社と個人の間で契約が成立してるとみなされ、契約違反だと判断される可能性があります。

ただ、上記でご説明したとおり、就業規則や誓約書などで書かれている内容が全て適用されるとは限りません。

制限が厳しすぎると個人の自由が保障されなくなるため、無効だと判断される可能性があるのです。

しかし、この点の判断は私たちができるものではなく、裁判所が判断した結果です。

自分勝手に判断するのではなく、このように無効化される場合もあるとだけ認識しておきましょう。

状況次第では独立時の退職金を盾に取られる

会社によっては独立時の顧客引き抜きで発生した損害を、支払う予定の退職金と相殺する仕組みを導入しています。

これも状況によっては合法だと認められるため、独立する側が引き抜きをすると不利になる可能性があります。

もちろん、このような仕組みがあるからと言って必ず退職金と相殺できるわけではありません。

ただ、このような条件を含めた誓約書に署名させ、一定の威圧力を見せつけるケースはあるようです。

初めてでもわかる会社設立の流れ【完全版】

まとめ

ご説明したとおり独立して顧客を引き抜くことには基本的に法律上の制限がありません。

判例では顧客の引き抜きをしても自由競争の範囲内であれば特に問題がないとされています。

「独立して顧客を引き抜くことは一概に違法だ」「損害賠償請求の対象になる」などの認識を持っている人が多いですが、実はそうとも限らないのです。

独立時に顧客を引き抜くことはトラブルになりやすい事柄です。

そのため、トラブルを防ぐためには会社として誓約書を書かせるなどして未然に防いでおかなければなりません。

会社側が適切な対応をしていなければ、独立時に顧客を引き抜かれても主張できなくなってしまいます。

逆に独立する際は顧客の引き抜きについてトラブルにならないようによく確認しておくべきです。

会社で誓約書などを求められていると、その効果で損害賠償請求などに発展する可能性があります。

独立して顧客を引き抜くと後味が悪くなる可能性があるため注意しましょう。

記事監修者の情報

税理士法人
経営サポートプラスアルファ

代表税理士 高井亮成

保有資格:税理士・行政書士

税理士の専門学校を卒業後、会計事務所に入社。
その後、税理士法人に転職をして上場企業や売上高数十億円~数百億円規模の会計税務に携わる。

現在は税理士法人の代表税理士として起業・会社設立をする方の起業相談からその後の会計、決算、確定申告のサポートを行っている。