個人経営のクリニックや診療所を医療法人に切り替えることで、節税・資金調達・事業承継など多くのメリットが得られます。
ただし設立には費用も時間もかかり、手続きも複雑です。
この記事では、医療法人設立を検討している先生方に向けて、費用の相場から手続きの流れ、注意点まで網羅的に解説します。
📋 この記事で分かること
- 医療法人設立にかかる費用の相場と内訳(専門家報酬・登記費用など)
- 設立後に毎年かかる維持費の目安
- 設立までに必要な期間(準備〜認可まで約1年弱)
- 設立に必要な要件(人的・施設・資産)
- 手続きの流れと法人登記後に必要な対応
目次
医療法人とは?
医療法人とは、医療法に基づいて設立される法人形態で、病院・診療所・老人保健施設などの医療機関を運営することを目的とします。
個人事業主として開業していた医者が都道府県知事へ届出を出し、認可を受けることで医療法人として医療機関の開設が可能です。
医療法人の種類
医療法人には大きく2種類があります。
| 種類 | 概要 | 基本的な取り決め |
|---|---|---|
| 医療法人社団 | 複数の人が集まって設立。預金・不動産・備品などを拠出 | 「定款」で基本事項を定める |
| 医療法人財団 | 個人や法人が無償で寄附する財産をもとに設立 | 「寄附行為」で基本事項を定める |
また、昭和60年の医療法改正以降、常勤医師が1〜2名の診療所も医療法人設立が可能になりました(一人医師医療法人)。
呼び方が異なるだけで、医療法上の区分や義務は同じです。
株式会社との違い
株式会社は利益を追求する営利法人ですが、医療法人は地域の公的医療を担う非営利法人です。
そのため、余剰金の配当は禁止されており、利益は医療サービスの拡充に充てる必要があります。
法律上も、株式会社は「会社法」、医療法人は「医療法」の管轄と区別されています。
医療法人設立に必要な要件
医療法人を設立するには、都道府県知事の認可を受けることが必須です。
認可を受けるためには、人的要件・施設設備要件・資産要件の3つを満たす必要があります。
人的要件
- 社員:3名以上
- 役員:理事長を含む理事3名+監事1名(計4名)以上
- 法人の理事に就任予定の方や医療機関の職員は監事になれない
- 理事長は原則として医師または歯科医師であることが必要
施設・設備要件
- 1か所以上の病院・診療所・老人保健施設を所有または賃借していること
- 施設の存在を証明する正式書類(賃貸借契約書・登記事項証明書・図面など)の提出が必要
- 認可の日までに施設が完成する見込みであれば、建築中でも認可が下りる場合がある
- 医療行為に必要な設備・器具の確保も審査対象となる
資産要件
- 設立後2か月分の運転資金が現金で確保されていること
- 予算書に記載された内容をもとに審査されるため、予算書作成時に十分な資金があるか確認する
- 個人開業時の医療設備は原則として法人に拠出するか、法人設立後に買い取る
医療法人設立にかかる費用の相場と内訳
医療法人設立の手続きは専門的な知識が必要なため、行政書士・税理士・司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
依頼内容によって費用は異なりますが、相場は以下の通りです。
専門家報酬・手続き費用の相場
| 手続き内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 医療法人設立認可申請(行政書士報酬) | 60〜100万円 |
| 法人設立登記(司法書士報酬) | 10〜15万円 |
| 保健所への開設手続き(診療所開設許可申請・廃止届) | 約25万円 |
| 厚生局への保険医療機関指定申請 | 約10万円 |
| 役員変更届 | 約5万円 |
| 事業報告等提出書の作成 | 約5万円 |
| 合計の目安 | 約100万円前後 |
また、上記の専門家報酬とは別に、以下の実費が発生します。
- 保健所への開設許可申請印紙代:診療所2万円程度、病院4万円程度
- 不動産登記事項証明書の取得費(600円/通)
- 印鑑作成・看板・名刺など:数万円〜
設立後の維持費(毎年かかるコスト)
設立費用は一度限りですが、医療法人になると毎年継続的にかかる維持費も発生します。
設立の判断をする際は、初期費用だけでなく維持費も含めたトータルコストで検討しましょう。
| 費目 | 目安 |
|---|---|
| 顧問税理士・会計士への報酬 | 年間30〜100万円程度 |
| 事業報告書・決算書類の作成 | 年間10〜30万円程度 |
| 均等割(地方税・赤字でも発生) | 最低7万円/年 |
医療法人設立にかかる期間の目安
医療法人の設立準備から設立完了までには、約1年弱かかるのが一般的です。
なぜ時間がかかるのか
医療法人設立の申請受付スケジュールは都道府県ごとに年2回程度に定められています。
そのタイミングに合わせて準備を進める必要があるため、タイミングを逃すと次の申請受付(約半年後)まで待たなければなりません。
おおまかなスケジュール
| フェーズ | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 準備期間 | 設立説明会への参加・書類の準備・専門家への依頼 | 3〜6か月 |
| 仮申請〜事前協議 | 書類提出・都道府県との協議・修正対応 | 1〜3か月 |
| 本申請〜認可 | 捺印・本申請・医療審議会の審査・認可書受領 | 1〜3か月 |
| 登記〜開設 | 法人設立登記・保健所開設許可・厚生局指定 | 1か月程度 |
| 合計 | 約1年弱 |
東京都など各都道府県の公式ホームページで、年間スケジュールが公開されています。設立を検討したら、まず最寄りの都道府県の受付スケジュールを確認しましょう。
医療法人化のメリット・デメリット
医療法人化を検討する前に、メリットとデメリットを両面から把握しておくことが重要です。
医療法人化するメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 税率が下がる | 個人の所得税参考税率56%に対し、法人税参考税率は32%。節税効果が期待できる |
| 所得の分散 | 家族を役員にすることで役員報酬として所得を分散し、税負担を軽減できる |
| 役員退職金の準備 | 生命保険を活用した役員退職金の積み立てが可能。保険料の半額を経費計上できる |
| 損金にできる支出が増える | 役員・家族の生命保険料や医療法人名義の自動車など、経費計上の範囲が広がる |
| 欠損金の繰越年数が長くなる | 個人の3年に対し、法人は10年間繰り越しが可能 |
| 資金調達がしやすくなる | 法人名義での借入が可能になり、理事長個人のリスクを分散できる |
| 相続がスムーズになる | 事業承継として理事長を変更するだけでよく、医療機器や施設をそのまま継続できる |
| 分院・事業拡大が可能 | 分院や介護老人施設、訪問看護ステーションなど、事業拡大がしやすくなる |
医療法人化するデメリット
| デメリット | 内容 |
|---|---|
| 事務が複雑になる | 事業報告書・財産目録・決算書類などの提出義務が増え、管理コストが上がる |
| 地方税が発生する | 均等割として最低7万円の地方税が赤字でも発生する |
| 余剰金の配当禁止 | 利益を個人に配当することができず、医療サービスへの再投資が求められる |
| 残余財産が国に帰属 | 解散時に残った財産は国または地方公共団体に帰属し、個人に戻ってこない |
| 接待交際費の上限がある | 個人開業は全額経費計上できたが、法人化後は年800万円までが損金算入の上限となる(800万円を超える分は経費にできない) |
| 厚生年金の加入が必須 | 従業員の人数に関わらず、社会保険・厚生年金への加入が義務化される |
| 簡単に解散できない | 解散には都道府県の認可が必要。個人的な理由での解散は認められない |
| 監督官庁のチェックが厳しくなる | 医療法人は設立申請時の事業計画書に沿った経営が求められる |
医療法人と個人経営の比較
| 項目 | 医療法人 | 個人経営 |
|---|---|---|
| 設立・維持費用 | 高い(設立100万円前後+維持費) | 低い |
| 税率 | 法人税(参考税率32%) | 所得税(最高税率56%) |
| 所得分散 | 家族を役員にして分散可能 | 分散が難しい |
| 退職金 | 受け取れる | 受け取れない |
| 資金調達 | 法人名義で有利 | 個人名義のみ |
| 相続・承継 | 理事長変更のみでスムーズ | 相続手続きが複雑 |
| 事業拡大 | 分院・介護事業など可能 | 制限が多い |
| 解散 | 認可が必要・難しい | 比較的容易 |
| 事務負担 | 大きい | 小さい |
医療法人の資本金・基金はいくら必要か
「医療法人設立に資本金はいくら必要?」とよく聞かれますが、現在の医療法人(出資持分なし)の資本金は0円です。
2007年(平成19年)の医療法改正により、新たに設立できる医療法人は「出資持分なし」に限定されました。
出資持分なし医療法人では、資本金の概念がなく、代わりに基金制度が利用されます。
基金とは
基金とは、医療法人社団に拠出された金銭や財産のことです。
医療法人は基金の拠出者に対して、定款で定められた方法・時期に返還する義務を負います。
基金の額に法律上の下限はありませんが、設立後2か月分の運転資金を現金で確保していることが要件となるため、実質的に数百万円以上の資金が必要になります。
医療法人化する際に必要な書類
医療法人設立に必要な書類は、①現在の診療所・クリニックですでにあるもの、②新しく作成するものに分かれます。
主な既存書類
- 役員・社員になる方の印鑑証明と履歴書
- 医師免許証の写し(理事長・管理者・理事医師)
- クリニック開業時の開設届
- 現在の診療所の図面・略式図
- 不動産の謄本または賃貸借契約書
- クリニックの過去2年分の確定申告書・収支実績表
主な新規作成書類
- 医療法人設立の認可申請書
- 医療法人の定款(または寄附行為)
- 設立総会議事録
- 事業計画書(2〜3か年)・予算書
- 財産目録
- 社員および役員名簿
必要書類の詳細は都道府県ごとに異なります。申請時期に各都道府県から配布される「設立の手引き」を必ず確認し、担当者へ事前に問い合わせることを推奨します。
医療法人設立の手続きの流れ
医療法人設立の手続きは、以下のステップで進みます。
すべて完了するまでに約6か月(書類準備を含めると1年弱)が必要です。
ステップ1:仮申請(事前協議)
設立を決意したら、まず都道府県が定めた受付期間内に仮申請を行います。
「仮」とはいえ、本申請に必要な書類をほぼすべて添付して提出するため、実質的な本申請に相当するものです。
受付期間を逃すと次の受付(約半年後)まで設立が延期されてしまいます。
ステップ2:事前協議
提出書類をもとに、都道府県の関係部署との事前協議に入ります。
書類の不備確認・修正指示・保健所などへの照会・申請者(院長)への面接などが進むのです。
指摘された内容を修正・追加して再提出し、設立認可申請書が完成すると本申請へ進みます。
ステップ3:本申請
仮申請を経て完成した書類に捺印して提出します。
捺印が必要な関係者は多岐にわたるため、計画的に進めましょう。
- 医療法人の役員・社員になる予定の方
- 開業資金の借入先(銀行等)
- 医療機器のリース会社
- 医療施設の不動産オーナーなど
本申請も受付期間が定められているため、事前に捺印関係者へ連絡・調整しておくことが重要です。
ステップ4:認可
本申請書類が受理されると、都道府県の医療審議会による調査審議が行われます。
審議の結果、認可に問題なしとの答申が得られれば、都道府県知事名で医療法人設立認可書が交付される仕組みです。
ステップ5:法人設立登記
設立認可書を受け取ってから2週間以内に、管轄の法務局(地方法務局)で法人設立登記を行います。
登記が完了したら、登記届を都道府県知事に提出しましょう。
法人登記後に必要な対応
法人登記が完了しても、医療法人として診療を開始するまでにはさらにいくつかの手続きが必要です。
主な手続き:
- 個人院の廃業届の提出(保健所への廃止届)
- 医療法人としての開設許可申請(管轄の保健所へ)
- 開設届の提出(開設許可通知受領後10日以内)
- 厚生局での保険医療機関指定申請(新しく指定を取り直す)
- 税務署・都道府県税事務所・市区町村への届出
- 個人事業廃止届・法人設立届書・青色申告承認申請書など
- 社会保険・厚生年金の新規加入手続き(年金事務所)
- 銀行口座・電気・ガス・水道・電話の名義変更
- 医師会や関係機関への手続き
個人開業から医療法人に移行する場合、名義変更が必要なものが非常に多いです。リース契約・不動産賃貸借契約・借入金なども法人名義への引き継ぎが必要です。変更漏れがないよう、早めにリスト化して管理しましょう。
医療法人設立の注意点とよくある失敗
非営利性の徹底
医療法人は非営利が原則です。
余剰金を医療以外の用途に使うことはできません。
- 利益の個人への配当は禁止
- 役員報酬は定款で定めた範囲内に限定
- 残余財産は解散時に国・地方公共団体に帰属
利益の私的流用や不適切な経費計上は、監督官庁からの是正指導・最悪の場合は設立認可の取り消しにつながります。
税務調査リスク
法人化すると個人事業主よりも税務調査の対象になりやすくなります。
- 日々の帳簿を正確に記録し、収支の透明性を保つ
- 税理士・会計士と顧問契約を結び、適切な税務処理を行う
- 交際費・役員報酬・生命保険料など、医療法人特有の経費処理を正確に管理する
継承問題(解散できない)
医療法人は個人開業と異なり、理事長が引退しても簡単には解散できません。
解散には都道府県の認可が必要で、個人的な理由では認められないケースがほとんどです。
設立前から以下を見据えた計画を立てることが重要です。
- 後継者(子どもや新しい理事長候補)の確保
- M&Aによる事業承継の検討
- 万が一のための生命保険・リスク対策
スケジュール逸脱のリスク
都道府県の申請受付は年2回程度しかなく、書類不備や捺印対応の遅れで受付期間を逃すと半年以上のロスになります。
専門家への依頼は早めに行い、書類作成のスケジュール管理を徹底することが重要です。
まとめ
医療法人設立に関する重要なポイントをまとめます。
費用について:
- 設立費用の総額は約100万円前後が相場(設立認可申請60〜100万円+登記・開設・保険各手続きの合計)
- 設立後も顧問税理士報酬・登記費用・地方税均等割など毎年の維持費が発生する
期間について:
- 準備から設立まで約1年弱が目安
- 都道府県のスケジュールに合わせた申請が必要(年2回程度)。タイミングを逃すと半年以上ロスする
設立要件について:
- 社員3名以上・理事3名+監事1名以上の人的要件
- 施設・設備の所有または賃借
- 設立後2か月分の運転資金の現金確保
注意点:
- 費用・期間・書類が多く、専門家への依頼が不可欠
- 非営利原則の遵守・税務調査リスク・継承問題を事前に理解しておく
- 解散には認可が必要なため「設立したら永続的に運営する覚悟」が前提
医療法人の設立は手間と費用がかかりますが、設立後は税制面・資金調達・事業承継において大きなメリットが得られます。
専門家に相談しながら、ご自身のクリニックの状況に合わせた最適な判断をしてください。
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