合同会社に欠かせない業務執行社員とは何かご存知ですか?
今回の記事では、合同会社の業務執行社員に関して、基本的な疑問から登記手続きの仕方まで徹底解説します。
業務執行社員とは?
合同会社における出資者のこと
業務執行社員は、業務執行権のある社員であり、合同会社における出資者である人のことです。
前提として合同会社は、株式会社と異なり出資者である株主と経営者が同一人物であるため、出資した社員は原則として皆、業務執行社員になることができます。
しかし、会社の意思決定に関わりたくないという人や経営は能力がある人に任せたいという人がいる場合や、業務執行社員が多すぎると会社の方向性がなかなか決まらず、会社の舵が取りづらくなる場合を懸念して、通常は代表社員と業務執行社員を選出して定款に明記することが多いです。
・業務執行社員とは、業務執行圏のある社員であり、合同会社における出資者のこと。
・出資した合同会社の社員は原則として皆、業務執行社員になる権利がある。
・通常、業務執行社員と代表社員は社員の中から選出される。
業務執行社員の責務
前述したように、業務執行社員は合同会社の出資者で社員であれば、誰でもなる権利があります。
しかし、業務執行社員は株式会社の取締役に当たる役職であるため、当然重大な義務や責任が発生します。
以下の3つが業務執行社員の主な義務です。
管理者としての義務
管理者の義務は細分化すると更に3つの「善管注意義務」「忠実義務」「報告義務」に分けられます。
しかし、大まかな意味としては、社員が何か問題を起こした際に責任が求められる立場なため、管理者として日頃からしっかり管理するようにするという義務だと認識しておいても問題ないでしょう。
善管注意義務
会社の取引において、一般的に要求される程度の管理者としての注意をもって、事務処理をしなければならないという義務です。
忠実義務
法令や定款を遵守し、職務を会社のために忠実に行うという義務です。
報告義務
社員から要求があれば、いつでも職務執行の状況を提示し、報告する義務です。
職務が終了した場合は、速やかに経過や結果を報告しなければなりません。
競業禁止の義務
他の社員の合意もなしに私的に地位を利用し、自身や第三者のために同種の営業や取引を行うことができません。
また、同業界他社の取締役や業務執行社員になることもできません。
損害賠償の責任
業務執行社員が業務を怠ったことから合同会社に損害が発生した場合、連帯して賠償する責任があります。
また、業務執行社員が行う業務に悪意や多大なる過失があった場合、第三者に生じる損害を連帯して賠償する責任を負います。
・業務執行社員は、業務執行権があるため、重大な義務や責任が発生する。
・義務は主に「管理者としての義務」「競業禁止の義務」「損害賠償の責任」の3つ。
業務執行社員の定め方
次に、業務執行社員の定め方を説明します。
定款に記載する
合同会社は、基本的に社員全員が業務執行社員となりますが、定款に記すことで誰が業務執行社員かを明示することができます。
業務執行社員は、個人ではなく法人がなることもできますが、当該法人は職務執行者を選出しなければなりません。
職務執行者は、当該法人の中で、実際に業務を行う社員のことを指し、氏名と住所を他の社員に通知する義務があります。
任期はない
合同会社の業務執行社員や代表社員には、原則として任期がなく、辞めない限り任期が続きます。
しかし、定款に任期を記すことで、任期を作ることができます。
業務執行社員でも雇用保険や労災には入れる?
雇用保険
労働者が失業し所得がなくなった際に、失業給付などを受けることができます。
再就職までの繋ぎのようなものです。
労災保険(労働者災害補償保険)
労働者が通勤中や勤労中に起きた出来事により、怪我・病気・障害を被ったり、亡くなったりした際に保険給付を行います。
業務執行社員は、雇用保険と労災のどちらにも加入することができません。
なぜなら、合同会社の業務執行社員は、法人の「役員」に当たり、会社と雇用関係ではないからです。
しかし、例外として業務執行社員でありながら実質的には業務執行権がなかったり、誰かの指示を受けて労働者として働いており、従業員として給与を受け取っていたりした場合には、認められることがあります。
労災保険については、業務執行社員でも労働保険事務組合や社会保険労務士を通じて、特別加入制度で加入することができます。
しかし、特別加入制度を利用すると、入会金・組合費・更新料等が自己負担です。
外国人でも可能か?
合同会社の社員に外国の方でもなることができるので、もちろん業務執行社員にもなることができます。
また、外国法人も業務執行社員になることが可能です。
在留資格さえあれば、基本は就任可能です。
ただし、外国法人の場合、登記薄謄本の代わりに宣誓供述書を添付しなければならないことがあります。
宣誓供述書
①登記薄謄本と同様の法人の本店・商号・設立年・代表者等の基本情報と②職務執行者の住所・氏名・生年月日と③職務執行者を選任する旨を記載したものを外国法人がある国の公証役場で作成してもらいます。
・業務執行社員は、定款で明示することができる。
・業務執行社員は、個人だけでなく法人もなることが可能だが、法人がなる場合は業務執行社員を選出しなければならない。
・業務執行社員に任期はないが、定款に記すことで作れる。
・業務執行社員は会社と雇用関係ではないため、通常雇用保険や労災に加入することはできない。
・在留資格さえあれば、外国人でも業務執行社員になることができるが、外国法人が業務執行社員になる場合は、宣誓供述書が必要になる場合がある。
業務執行社員の追加や解任は?
追加の場合
合同会社を設立した後、新たに社員を迎え、この新規社員を業務執行社員にする際の手続きを説明します。
社員の加入
合同会社は、社員全員が業務執行社員になる権利を持っています。
このため、社員の加入には、既存の社員全員の同意が必要です。
定款の変更
定款事項の変更が必要な際には、社員全員の同意を得てから規定を変更します。
新規社員による出資
合同会社の業務執行社員になる人は、前述したように出資者であり、社員でもあります。
このため、業務執行社員になるためには必ず会社に出資しなければなりません。
しかし、新たな出資をせず、現社員から持分の一部を譲り受けることもできます。
新たな出資をした場合には、資本金額の変更の登記が必要です。
登記手続き
業務執行社員になる際には、必ず登記しなければなりません。
【業務執行社員の追加の登記のみの場合】
業務執行社員の加入の登記のみ行います。
業務執行社員加入の登記には、総社員の同意書、定款、業務執行社員の決定書、就任承諾書が必要です。
加入する業務執行社員が法人である場合には、法人の登記事項証明書、職務執行者の選任に関する書面、職務執行者の就任承諾書が更に必要となります。
また、業務執行社員加入の登記には、登録免許税が3万円(資本金が1億円以下の会社に関しては1万円)かかります。
【加入の際に資本金の増額も起こる場合】
業務執行社員加入と増資について2つの登記を行わなければなりません。
業務執行社員加入の登記については、①と同様です。
増資の登記には、払込みがあったことを証する書面と資本金計上証明書が必要となります。
また、増資の登録免許税は、資本金の7/1000の額で、業務執行社員加入の登記の登録免許税とは別の納付です。
※増資の登録免許税が、計算上3万円に満たない場合は一律で3万円となります。
また、100円以下の端数は切り捨てです。
解任の場合
現業務執行社員の同意による退社
【任意退社】
任意退社は、事業終了年度の6ヶ月前に退社予告をすることで、終了時に退社することができるというものです。
しかし、やむを得ない事由がある場合は、いつでも退社することができます。
退社の登記手続きの際に、総社員の同意書と退社予告書を提出する必要があります。
【総社員の同意による退社】
退社に関して総社員から同意を得られた場合、退社する社員を定款から除名するため、定款の変更手続きを行います。
社員が退社することに伴い資本金額が減少する際には、資本金の減資手続きも必要です。
退社の登記手続きの際に、総社員の同意書を提出しなければなりません。
現業務執行社員の同意を得られない場合の退社
【死亡または合併による退社】
社員が死亡、または合併した場合、一般継承人の持分継承に関して定款に記載がある際を除き、当該社員は退社になります。
退社の登記手続きの際に、総社員の同意書と社員の死亡が事由の場合のみ死亡を証する書面を提出しなければなりません。
【社員を除名する場合】
出資の義務を履行しない、業務執行社員の義務に反した、不正行為をしたり業務執行権がないにも関わらず業務を執行したりした、重要な義務を尽くさないなどの事由がある時、社員の過半数の決議に基づく訴えを裁判所にすることにより、対象社員を除名することができます。
・業務執行社員の追加や退社は、既存の社員の同意と出資金の変動が大切。
・社員の同意による退社は「任意退社」と「総社員の同意による退社」がある。
・業務執行社員の同意を得られない場合の退社は「死亡または合併による退社」と「除名による退社」がある。
・除名による退社は、正当な理由と社員の過半数の決議に基づく訴えを裁判所に行わなければならない。
まとめ
業務執行社員とは、業務執行権のある社員であり、合同会社の出資者でもあります。
株式会社で言う経営者と株主の両方を兼ね備えている役職です。
合同会社の社員になるには、出資する必要があるので、合同会社の社員は全員業務執行社員になる権利がありますが、通常全員が職務執行社員になることはなく、総社員から選任します。
また、業務執行社員には個人だけでなく法人がなることもできますが、この場合は法人から職務執行者という実質的に業務に当たる社員を選出しなければなりません。
業務執行社員は経営に関与するため、管理者としての義務、協業禁止の義務、損害賠償の責任という3つの責務を負います。
また、会社と雇用関係ではないので通常、雇用保険や労災保険に加入することができませんが、労災保険のみ特別加入制度を利用すれば、加入できます。
業務執行社員の公的手続きまとめ
業務執行社員が決定したら、定款に明示すると同時に、登記手続きも必要です。
合同会社の業務執行社員には、任期がありませんが、定款に記すことで任期を決めることができます。
職務執行社員の追加や退社(解任)をする際には、定款と登記手続きを必ずしなければなりません。
また、資本金の増減が職務執行社員の加除に伴いある際には、登記手続きが必要です。
合同会社は、誰でも業務執行社員や代表社員になる権利がある分、社員の人選が法人に比べて重要になります。
また、業務執行社員に法人がなることができるというのも大きな特徴です。
このように合同会社は業務執行社員や代表社員など法人とは異なる点があります。
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