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開業医(クリニック開業)の 融資を銀行員が徹底解説

開業医(クリニック開業)の 融資を銀行員が徹底解説

今回は開業医(クリニック開業)の融資について解説します。

この記事では筆者が銀行員として多くの開業医(クリニック開業)の融資を扱った経験を交えて説明しますので、ぜひ参考にしてください。 

開業医(クリニック開業)の融資とは?

開業医(クリニック開業)の融資とは、個人や医療法人設立により新たなクリニックを開業する資金の総称です。

勤務医として経験を積み、自己資金を蓄えたうえで独立開業するケースが、一般的な開業医のパターンです。

開業には多額の資金が必要になり、自己資金だけでは不足するので融資を利用するケースが多くなっています。

開業医(クリニック開業)を取り巻く環境

ここで、開業医(クリニック開業)を取り巻く環境をお話しします。

一般的にお医者さんはお金持ちといったイメージを抱く人が多いと思いますが、それはもう過去の話で、現在は医者でも破綻する時代です。(皆さんもロードサイドなどに病院跡地などを見たことはないでしょうか?)

クリニックにも競争があり、経営がうまくいかず廃業する数は結構多いのが現状です。

このような状況だからこそ、開業医(クリニック開業)の融資は注意しなければいけないことも多いのです。

開業医(クリニック開業)に融資が必要なときはいつ?

開業医(クリニック開業)で融資が必要なのは開業のときだけです。

クリニックを開業するには精緻な事業計画(詳細後述)が必要で、その計画にないような「運転資金が足りなくなったから融資を受けたい」などという事態は原則ありえない、というのが金融機関で融資審査する側の考えかたです。

現実的には「融資が必要なときは開業時だけのはず」とも言えます。

開業医(クリニック開業)に必要な金額は?

一般に開業医(クリニック開業)に必要な資金は数千万円~1億円以上と高額になります。

(*信頼できる公的データではなく、筆者の調査による推定です)

もちろんクリニックの規模、働く人員、診療科目によっても金額は変わってきますが、いずれにしても大きな金額です。

これはある意味、それだけ投資しても回収できる見込みがある事業だとも言えますし、そのためにしっかりした事業計画が必要になるのです。

開業医(クリニック開業)に必要な融資は、設備資金と運転資金をミックスした「開業資金」

開業医(クリニック開業)に必要とされる融資は、金融機関では「(医業)開業資金」などと呼称されています。これは他業種が融資を利用する際の「設備資金と運転資金をミックスした融資」といった意味合いです。

事業資金融資では資金使途ごとに借入するのが一般的で、設備資金(工場の新築)が1億円、運転資金(原材料仕入れ資金)が1億円の計2億円あっても2億を1口で融資はせず、設備資金1億・運転資金1億と別々に融資します。

いっぽうクリニック開業では、大きく分けた資金使途が「ハード」(設備に必要なお金)と「ソフト」(開業から運営に必要なお金)の2つあり、金融機関からその両方を一括して資金調達する場合があります。

クリニック開業は、開業に向けた工事と開業に向けた運営資金(宣伝広告、開業前から雇用したスタッフの研修費用や給料など)の支払いが同時に発生し、しかも支払う相手や金額、時期などが多岐にわたるので、一般的な融資のように最初から金額を決めて借入するのは難しいのです。

そこで、一部の銀行では、とりあえずクリニック開業の総額を借入限度(極度とも)にして当座貸越を組み、開業の支払いが終わったら、設備に使ったお金は設備資金へ、そして運営に使ったお金は運転資金へとそれぞれ切り替えるような融資形式もあります。

要は、開業の最中は大型カードローンで出し入れ自由に使い、落ち着いたら借入れの残金を長期返済へと切り替えるものです。

以上、ここまでの説明で設備資金、運転資金というキーワードが何度か登場しました。

そこで開業医(クリニック開業)の融資について理解しやすくするため、次項で設備資金と運転資金のおさらい的な説明をすることにします。

開業医(クリニック開業)に必要な融資~設備資金とは?

設備資金とは、事業のハード部分に必要な資金です。

工場や店舗、事務所や土地などの不動産や、生産ラインの機械、車両などが代表的です。

設備には多額のお金が必要になるので、返済は10年以上の長期分割返済が一般的です。

また、設備が大規模となったり、融資金額が大きくなると工場などの担保が必要になる場合もあります。

また、事業活動の根幹である設備導入、設備の更新というのが設備資金融資の主旨です。そこで、業績不振などで運転資金融資の審査に通らないような会社でも、設備資金だけは融資を受けられる場合もあります。(*融資は個別の審査により決定されるので、すべての会社が当てはまるわけではありません)

設備資金のポイントは以下のとおりです。

 

 <設備資金のポイント>

  1. 使いみちは、設備投資、設備導入の資金使途に限定される
  2. 返済期間は10年以上の長期(20~30年も可能)
  3. 金利は変動金利が主体(制度融資では固定金利も~制度融資は後述)
  4. 原則として担保が必要 工場など設備の目的物は担保にするのが一般的
  5. 業績不振でも借入できる場合がある

開業医(クリニック開業)に必要な融資~運転資金とは?

運転資金とは、事業のソフト部分で、事業を運営するために必要な資金です。

事業を自動車に例えるなら、クルマ自体は設備(ハード)で、ガソリンや電力など車を動かす燃料が運転資金(ソフト)とも言えます。(ちなみに経営者がドライバーの役割)

運転資金は商品(原材料)仕入れ→販売(製造・納入)→売り上げ回収と仕入れ(原材料)支払い、という流れ(これを「運転資金の循環活動」と呼びます)の中で、たとえば売上より支払時期が先になった場合などに融資を受けるのがよくあるケースです。

したがって、運転資金は数か月の短期で借りて、返済期限までに一括返済するケース(期限一括返済)と、連続して発生する運転資金をまとめて調達して長期返済するケース(元金均等返済など)が主流です。

分割返済でも融資期間は10年までが主流で、設備資金のように20年以上といった長期間の返済は少数です。

 <運転資金のポイント>

  1. 使いみちは事業の運営(運転資金)ならばOKで幅広く利用可能
  2. 返済期間は数か月の短期から10年程度まで
  3. 金利は変動金利が主体(制度融資では固定金利も~制度融資は後述)
  4. 担保は不要なケースが多い ただし必要に応じ求められることも
  5. 業績不振の場合などは、審査により利用できない場合もある

開業医(クリニック開業)運転資金の特徴

開業までに、設備以外にもお金は多岐にわたり必要となります。

開業までの宣伝広告費以外にも、官庁への届け出や各種許認可の取得費用、クリニックに必要な医薬品や資材の仕入れもありますし、パソコンや患者用の椅子、室内インテリア品などは運転資金となります。

そして、運転資金のなかでも重要なのが人件費です。医師や看護師さん、スタッフなど人がそろわなければクリニックの開業はできません。

また開業に向け準備期間に研修をするなど、オープンの前から人件費が発生してきます。

そのいっぽう、クリニックの収入の大部分を占める診療報酬は、各種健康保険組合などからの入金は2~3か月後になります。薬剤など窓口で即時に得られる収入もありますが、どうしても経費支払いが先行してしまいます。

以上のような理由で、クリニック開業時には運転資金も必要となるのです。

開業医(クリニック開業)で利用できる3つの融資

開業医(クリニック開業)で利用できる融資のうち主な3つを紹介します。

なおここで紹介する以外にも福祉医療機構などの公的融資や、各都道府県にある医師信用組合が取り扱う融資もありますが、対象者が限定的なので、ここでは割愛します。

参考
独立行政法人福祉医療機構/医療貸付事業

埼玉県医師信用組合

 <開業医(クリニック開業)で利用できる3つの融資>

  1. 日本政策金融公庫
  2. 信用保証協会の制度融資
  3. 銀行プロパー融資

開業医(クリニック開業)で利用できる融資1.日本政策金融公庫

事業者の創業資金融資として代表的なのが、公的融資である日本政策金融公庫です。

日本政策金融公庫では、特に開業医(クリニック開業)専用といった融資商品はなく、他の業種と同様に以下の融資などが利用できます。

(*なお日本政策金融公庫では融資によっては「福祉医療機構(上述)の融資対象者は申し込みできない」といった注意点もありますので、利用を検討する際は下記リンクや問い合わせなど必ずご自身で確認してください)

 <日本政策金融公庫で開業医(クリニック開業)に利用できる融資>

  1. 「新規開業資金」(新企業育成貸付)
  2. 「女性、若者/シニア起業家支援資金」(新企業育成貸付)
  3. 「新創業融資制度」(その他の融資)

開業医(クリニック開業)で利用できる融資2.信用保証協会の制度融資

法律により設立された、各都道府県の信用保証協会が融資の保証をする(信用保証協会が融資の保証人になるイメージ、対価として保証料を支払う必要がある)ことで、中小企業などが円滑に融資を受けられる仕組みが「信用保証協会保証対融資(マル保融資)」です。

そして信用保証協会保証保証付融資の中でも、国や県、市町村により制定された融資が「制度融資」です。

制度融資は一般に低利で、中には固定金利もあり利用者に有利です。しかしその反面で、制度融資を受ける認定を市町村から許可されるには、条件や提出書類が必要で、また審査が通るまでに時間がかかるという側面もあります。

参考
東京信用保証協会/創業保証のご利用

一般社団法人全国信用保証協会連合会/創業をお考えの方

開業医(クリニック開業)で利用できる融資3.銀行プロパー融資

銀行のプロパー融資では当座貸越タイプ(前述)以外にも、一般的な設備資金や運転資金融資で対応しています。

日本政策金融公庫や信用保証協会の制度融資のよう融資条件は一律に決まっておらず、金融機関によって、また申込者や事業計画によって対応は様々です。

参考
みずほ銀行/診療所向け貸出商品「みずほクリニックアシスト」

横浜銀行/医療関係者の皆さまへ

開業医(クリニック開業)に必要な融資~注意する3つのポイント

開業医(クリニック開業)に必要な融資を検討するときに注意すべき点はいくつもありますが、融資審査をする銀行員の視点からとくに重要と思われる3つを説明します。

注意するポイント1.開業の動機~理想や理念が重要

クリニックでは「開業を決意した想い」つまり動機は重要になってきます。

人の命に関わる医療は、他の業種とは違い高尚なものというイメージがあり、融資する金融機関もこのイメージは同様に抱いています。

「クリニックを開業するのは、お金を儲けたいから」

もちろんこれも真実でしょうが、かといって正直すぎてもいけないのです。

「自分が培った技術やノウハウで一人でも多くの患者を救いたい」

「地域医療振興に貢献するという使命感により開業を決意した」

こういった高邁な理想を掲げていないと、その後の審査でハードルになることもあります。

筆者は、銀行員として経営がうまくいかず廃業したクリニックを見てきましたが、そのなかには「金儲け主義」とまでいかなくても、理念や理想は二の次で、結局は患者がついてこなかった例を見てきた経験があります。

注意するポイント2.事業計画~融資には事業計画が必要不可欠

上記した開業の動機を盛り込み、クリニックの経営方針や利益を確保する時期や方法などが網羅された事業計画が開業医(クリニック開業)では必要不可欠です。

事業計画の中身も、根拠に基づいた実現可能な数字が盛り込まれていることはもちろん、医業であるため他社を蹴落とすといった表現や計画は敬遠されるなど、作成には注意点も多いので税理士や会計士、あるいは医療開業コンサルタントといった専門家に依頼して計画を作成するのが一般的です。

注意するポイント3.融資金の「エビデンス」に注意~ペナルティもある

これは開業医(クリニック開業)に限らず、設備資金の融資に共通することですが「融資金を申し込みしたとおりに使ったか?」は厳しくチェックされ、違反するとペナルティーもあります。

たとえば工場新築の設備資金を融資したのに、赤字補填資金に流用されてしまったなどは資金使途違反として、最悪の場合では全額、即刻返済を求められる場合すらあります。

要は銀行にウソをついて融資を受けた、借りたあとで勝手に流用したわけで、厳しく対処されてしまうのです。

これはクリニック開業でも共通することで、たとえば私の銀行員としての経験では

  1. ・開業資金で融資したお金で、以前からの借金を返済した
  2. ・開業資金の支払い資料でクレジットカード払いの中身を聞いたところ、自宅の応接セットを購入していた
  3. ・家電量販店の支払い内容を確認すると、大学生の子供が一人暮らしをするための家電用品一式だった

これらは笑い話のようですが、すべて私が経験した実話です。

もちろん悪質かどうか?や金額にもよりますが、資金使途違反であることには間違いないので、すべていけないことです。

まとめ

ここまで開業医(クリニック開業)の融資と、その注意点などを解説してきました。

説明のとおり、クリニックも倒産する現在では、準備段階から慎重に計画を進めることが大事です。

自分の一人では難しい場合にはコンサルタントなど専門家の知恵と力を借りるのもメリットがあります。しかしながら、最も大事なのは開業したいという理念、理想と経営者としての決意だと思います。

この記事がそうした参考になれば幸いです。