法人成りと創業融資、この2つは経営者にとって重要なキーワードです。
私は勤続30年の銀行員で、法人成りも創業融資も、数多く経験してきました。
事業を志す者なら、必ず一つの到達目標、パスすべき通過点が法人成りであり、法人成りと密接に関連するのが創業融資です。
世の中、何をするにもお金が必要、創業するにはお金が必要で、自己資金が潤沢でない限り創業融資を有効活用すべきで、それはネガティブなことではありません。
また同じように、法人成りするのもお金が必要です。
そこで今回は、お金を見つめてきた銀行員が、融資を審査する視点で法人成り、創業融資をわかりやすく説明していきますので、ぜひ参考にしてください。
<筆者は現役銀行員ですが、副業としての記事執筆は社内規則には反しておりません。なお、自由な執筆をするため実名や勤務銀行は伏せている点、ご理解ください>
Contents
法人成りとは?
法人成りとは、法律上の申請など所定の手続きを経て、個人事業主が会社(株式会社、合同会社など)になることです。
「個人(事業主)が法人に成り代わる」ことから法人成りと呼ばれています。
ちなみに、私は先輩銀行員から「将棋の駒が格上に『成る』のと同じ」と教わりました。
法人成り~3つのメリット
まず法人成りのメリットを3つ解説します。
法人成りのメリットは数多くあり、例えば節税効果などがその代表格です。
しかしこの記事は銀行員が書いていますので、お金を借りる(創業融資)という観点で説明します。
法人成りのメリット1.信用度が向上する
法人になると、信用度が向上します。
銀行でも個人事業主と法人への見方は大きく異なります。
つまり、個人事業主のままでいることは、信用面でマイナスといえるのです。
それなりの規模で仕事しているのに、なぜ法人化しないのか?と逆に勘ぐられることもあります。
法人成りのメリット2.融資審査が有利になる
上記と関連する内容ですが、法人成りすれば融資審査でも有利になります。
たとえば決算書一つとっても、個人事業主の青色申告書と夫人の決算書では、間違いなく法人のほうが信頼されます。
これは個人の決算がウソというわけではないのですが、経費処理などどうしても個人のほうが不明瞭な点は否めません。
銀行の融資審査は数字を重視しますので、数値の信憑性が高い法人のほうが融資審査では有利になる場合が多いのです。
またこの点は、銀行格付け(信用格付け、格付け)も、個人事業主より法人のほうが上位になります。
法人成りのメリット3.融資限度で有利になる
厳密に言えば、明確な融資限度というものは存在しません。
銀行が貸すなら貸す、貸さないなら貸さない、それだけです。
とはいえ一般的には売上(年商)以上の融資は難しいと言われています。
しかし、個人と法人では明確に融資額の上限は違います。
個人が法人成りしただけで、年商や業況がそれほど変わらないとしても、融資可能額は格段に増えます。
法人成り~3つのデメリット
法人成りにはデメリットもあります。
法人成りのデメリット1.外から見る目が厳しくなる
たとえば税務申告など、個人事業主より格段に厳しくなります。
これも税制面で一部優遇がある代償といえるでしょう。
法人成りのデメリット2.銀行から見る目が厳しくなる
良くも悪くも銀行から見る目は厳しくなります。
メリットの項でも説明した信用度は、法人であるからとも言えます。
たとえば法人となると、毎期決算も持参するだけではなく、経営者に今期の振り返りと今後の課題、将来への展望などの説明が求められます。
これは決算説明、業績説明などと呼ばれ、銀行と融資のある法人では多くの場合求められます。
逆に言えば決算説明を求められるのは、あなたの会社に銀行が期待していることの表れです。
なぜなら、私は将来に期待できない企業には決算説明を求めませんから。
法人成りのデメリット3.社会的責任が重くなる
法人成りすると、社会的、道義的にも責任が重くなります。
これはデメリット2にも通じる部分で、法人だからこそ守るべきルール、守るべき同義が強く求められるのです。
また、法人となり従業員や取引先も増えてくれば、自社と経営者である自分の行動が時に大きな問題となる場合もあり、その結果周りの人間を不幸にしてしまう恐れすらあるのです。
法人成りはするべきか?銀行員はこう考えます
ここまで、銀行員が考える法人成りのメリット、デメリットを説明してきました。
では法人成りはするべきか?銀行員はこう考えます。
法人成りすべきです。
デメリットもありますが、それをカバーしても余りあるほどメリットが大きいからです。
また、デメリットとして説明した
「見る目が厳しくなる」
「責任が重くなる」
という点は、個人事業主でも同じように課されている問題です。
メリットだけでは不公平になるので、デメリットとしてあげましたが、実際にはデメリットとまで言えないと感じています。
法人成りは、人間でいえば成人して大人になるようなものだと考えます。
もちろん個人事業主が劣るとか、ダメだと言っているわけではありません。
ダメな大人や立派な子供もいるように、残念な法人も、素晴らしい個人事業主の人も、もちろん多くいます。
しかし、素晴らしい個人事業主には、だからこそ早く法人成りして欲しいと強く感じるのです。
創業融資とは?~代表的な3つの融資を紹介
創業融資は、大きく分けて3つあります。
1.日本政策金融公庫の創業融資
日本政策金融公庫の創業融資には「新創業融資制度」があります。
しかしこちらは新規で事業を始める、あるいは創業から2年以内(2期の税務申告をしていない)の法人だけが対象なので、法人成りの場合は利用できません。
以下の融資制度が利用可能です。
「新規開業資金」
対象者:新たに事業を始める、または事業開始後おおむね7年以内
融資額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間:運転資金7年以内(設備資金20年以内)
2.地方自治体の創業融資
地方自治体の制度融資とは都道府県や市町村が、創業者向けに有利な条件を設けた融資制度です。
実務的には地方自治体に申し込み、信用保証協会の保証を付して、銀行などの金融機関が融資します。
ここでは東京都の制度融資を紹介します。
「創業融資『創業』」
対象者:新たに事業を始める、または事業開始後おおむね5年以内
融資額:2,500万円
返済期間:運転資金7年以内(設備資金10年以内)
3.銀行の創業融資
銀行などの金融機関でも、それぞれ独自に創業者向け融資商品を展開しているところがあります。
ここではきらぼし銀行の例を紹介します。
「創業サポートローン」
対象者:事業開始後おおむね5年以内
融資額:500万円
返済期間:運転資金5年以内
*銀行が指定するコーディネーターによるモニタリング(原則3年間)など条件がありますので、確認してください。
銀行の創業融資にもトライすべき
一般的に創業融資は日本政策金融公庫や地方自治体の制度融資が代表的です。
いっぽう銀行など金融機関では創業融資を受けるのがむずかしいとイメージされていますが、本当のそうなのでしょうか?
銀行の融資は事業計画や経営者の人物など、多角的に審査をします。
新規融資にはより慎重になるので、日本政策金融公庫などに比べれば、審査が厳しいとも言えます。
しかし、銀行は法人成り、創業融資を取り扱いたいと考えていますので、トライすることをおすすめします。
銀行も法人成り、創業融資を取り扱いたい
銀行は公共性、公益性を重んじます。言ってみれば銀行が存在意義をアピールするのに、法人成りや創業融資を取り扱うのは有益なのです。
銀行が法人成りを扱えば、それは新しい会社を作ったと対外的にアピールできます。
これと同じく、創業融資を取り扱うことは地方創生、地域発展といった社会貢献を果たせるからです。
また法人成りや創業融資を受けた銀行が、その企業のメインバンクとなり、取引が拡大していくのが一般的です。
法人成り、創業融資を取り扱った企業が全国区の企業になれば、銀行にとっても大きなメリットがあるのです。
まとめ~法人成りと創業融資は専門家とタッグを組むべきです
法人成りと創業融資について銀行員の視点で解説してきましたが、最後に一つ、法人成りと創業融資の実現可能性を高める方法を紹介します。
それは、信頼できる専門家とタッグを組むことです。
専門家にもいろいろなタイプがいます。
- 税務計算だけが専門の税理士
- 融資商品の紹介だけのコンサルタント
- 会社設立専門の行政書士
もちろんこれらはどれも、その道のスペシャリストであり、力を貸してもらえば手続きもスムーズに進むでしょう。
でも、専門家でも専門分野だけでは銀行では評価できません。
たとえば税理士でも、ただ決算書を作るだけでなく、業況の変化や財務分析をして、更には課題解決に向けたアドバイスもしてくれる税理士は、銀行でも高評価となり、取引先企業に紹介することもあるくらいです。
他方、融資商品を紹介するだけのコンサルタント業者などでは、銀行に同行しても煙たがられるだけで、マイナスとなることさえあります。
法人成り、創業融資でも、ただ法人成りをするだけ、ただ融資商品の紹介をするだけでとどまらずに、最初から最後までしっかりとタッグを組める専門家なら、安心して任せていいでしょう。
一つの仕事だけに終わらず、自社の発展を願い一緒に悩み、動いてくれる
そんな専門家なら、銀行も高く評価するはずです。