「日本政策金融公庫の面談では、どんな質問をされるんだろう?」
「質問に答えられないと、融資を受けるのは無理なの?」
創業する人、あるいは新しい分野に進出する人など、資金調達の手段としてまずあげられるのが日本政策金融公庫です。
そこで今回は、日本政策金融公庫に融資を初めて申し込むなどで、
面談時の質問で何を聞かれるのか?
そのときにどのような答えが望まれるのか?
これらを銀行員の私が解説していきます。
融資を審査する銀行員がわかりやすく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
Contents
面談で質問を受ける前に、まず日本政策金融公庫を知る~日本政策公庫の基本
日本政策金融公庫の面談でどのような質問があるのか?これを解説する前に、まずは日本政策金融公庫について基本的なおさらいをしていきましょう。
面談が初めてということは、そもそも日本政策金融公庫公的への融資申し込みも初めての人が多いと思います。
そこで「いまさら聞けない日本政策金融公庫の基本」を解説するところから始めます。
日本政策金融公庫の融資とは?
公的金融機関である日本政策金融公庫は、広く国内の事業者に役立つ融資を扱っています。
その他のポイントを、いくつか並べながら解説していきます。
<日本政策金融公庫のポイント>
- ◆信用保証協会の保証は付かない(銀行のプロパー融資と同じ)
- ◆日本政策金融公庫には①国民生活事業②中小企業事業③農林水産事業という3つの融資事業がある
- ◆国民生活事業:小規模事業者や創業者に向けた事業資金融資
具体的な融資種類は「一般貸付」「マル経融資(小規模事業者経営改善資金)」「生活衛生貸付」など - ◆中小企業事業:中小企業の成長・発展を支援する融資
「新事業育成資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」など - ◆農林水産事業:農林漁業や食品産業などへの融資
「スーパーL資金(農業)」「林業基盤整備資金(林業)」など
日本政策金融公庫の融資審査におけるポイント
日本政策金融公庫における融資審査では主に2つのポイントがあります。
<日本政策金融公庫の融資審査におけるポイント>
- 審査はマニュアル化
- 平等、公平な審査
ポイント1.審査はマニュアル化
この点は日本政策金融公庫に限ったことでなく、現在の銀行事業資金融資審査も同様で、審査自体がマニュアル化(AI化)されています。
そもそも融資審査は、担当職員の経験や知識に基づく高度な判断が必要な仕事でした。
しかし時代の変化から、現在の日本政策金融公庫では融資審査のマニュアル化、機械化がすすんでいます。(仕事上で知り合った日本政策金融公庫職員から聞いた話です)
審査がマニュアル化されているということは、経験豊富でも初心者でも同じ判断基準で融資審査を進めることができるというメリットがあります。
日本政策金融公庫は公的金融機関なので、この「マニュアルに基づいた審査」結果がOKなら融資しますし、ダメなら断わられる、それだけです。
たとえば情実に訴えても結果は覆りませんし、地元の有力者などの口利きも一切効果はありません。
ポイント2.平等、公平な審査
日本政策金融公庫の職員は公務員に準ずる立場ですから平等、公平な審査が大前提となっています。
また担当者には
「融資審査を100件通した」
「累計で100億円の融資を実行した」
といった銀行のような数的ノルマはありません。(こちらも知己の公庫職員から聞きました)
ですから、自分の成績のため無理して融資をしたり、利害に絡んだ特別扱いをしたりすることもないのです。
日本政策公庫の面談で聞かれる質問
ここから日本政策金融公庫の面談で聞かれる質問と、その対応について解説していきます。
上述のようにマニュアル化された審査なので、担当者によって審査の内容が異なることは無く、したがって面談や質問内容も統一されているのが原則です。(もちろん担当者ごとに会話の内容や順序などは微妙に違うでしょうが)
それぞれの質問についてはその解説と、銀行員としてのアドバイスも加えています。
ちなみに予想される質問は日本政策金融公庫の「創業計画書」というフォームに集約されていますので、こちらを参考に解説していきます。
出典 日本政策金融公庫/サービスのご案内/各種書式ダウンロード/国民生活事業/創業計画書
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
<日本政策金融公庫の面談で聞かれる質問~「創業計画書」より>
- ◆創業の動機
- ◆経営者の略歴等
- ◆取扱商品・サービス
- ◆取引先・取引関係等
- ◆従業員
- ◆借入の状況
- ◆必要な資金と調達方法
- ◆事業の見通し
- ◆その他(自由記述欄)
創業の動機
日本政策金融公庫の創業融資では、創業の動機が最も重視されます。
なぜこの事業を始めようと決意したのか?なぜ自分が創業することになったのか?
こういった目的と動機は、中小企業への資金調達面からの支援を通して日本経済を発展させようといった、日本政策金融公庫の理念により重視されるのです。
もちろん利潤追求のため、つまり「金儲けのためです」という答えも間違ってはいないのですが、あくまで理念・理想といったポイントを盛り込めないと心証が良くならないでしょう。
創業の目的や動機は、企業理念などのように「自社の事業で社会の発展に寄与したい」「自社の事業が世の中を便利にする」といった回答が望ましいです。
経営者の略歴等
創業する前にどのような仕事、どのような会社に勤めていたかなど「そんなの新規事業には関係ないじゃないか!」と感じているようでは質問にうまく答えることはできません。
創業や新規事業の開始ではその業界(「斯業・シギョウ」と呼びます)の経験やノウハウ、人脈が重要になってきます。
もちろんまったくの新分野に体一つで立ち向かうとしても、それに打ち勝つだけの画期的な技術や戦略があればいいのですが、必ずしもそうした企業ばかりではないからです。
自分が身を置いてきた業界で新規開業をする場合などでは、経験やノウハウ、人脈をアピールできるように答えると良いでしょう。
取扱商品・サービス
自社の取扱商品・サービスについてその内容やセールスポイント、そして販売ターゲットや戦略などを明快に語れるようでなくては、そもそも創業字体が危ぶまれます。
この点では、日本政策金融公庫の面談での質問ではあっても、商談やセールスの場面をイメージして臨むといいでしょう。
取引先・取引関係等
取引先・取引関係等とは、商品やサービスの販売先と、原材料などの仕入れ先との関係、特にお金の流れに関する質問になります。
質問のポイントは以下の通りです。
- 販売先、仕入れ先、外注先はどこか?
- 自社における各々のシェア(%)~(例)販売先は3社で、1位がシェア60%
- 売掛、買掛があるのか? 回収(売上)支払(仕入)の条件は?~(例)売上は月末締めの翌月10日払い
- 人件費の支払もここで聞かれる~(例)給料は月末締めの翌月20日払い、ボーナスは夏冬2回が原則だが支給は業績次第
従業員
ここでは単に従業員数(人数で会社の規模が審査上で分類される)だけでなく、その内訳も重視されます。
中小企業で主流の家族企業では、純然な給与と家族役員報酬(自営業でいう専従者給与)では支出の質が変わってくるので、融資審査では必要な情報なのです。
なぜなら家族役員報酬は、業績が悪いなら無給、逆に好業績なら役員報酬を多く支払い節税を図るなど売上や業績の調整弁にもなるからです。
お借入の状況
借入の状況が気になるのは当然ですが、たとえ法人であっても代表者個人の借入やそのつかいみちまで説明を求められます。
個人事業主から法人化するのが事業としてのよくある流れなのですが、往々にして法人改組するときに個人時の借入を会社に引き継がせないケースが見受けられるからです。
これと同様に、法人代表の家族名義の借入も(実態は法人の借入ではないかチェック)質問されます。
必要な資金と調達方法
こちらは融資の申込では必須である資金使途と調達計画の部分です。
- つかいみち(資金使途)は設備資金か運転資金か?
- 設備資金なら何を作る?(工場)何を導入する?(機械、新システム)
- 運転資金なら何の支払い?(仕入資金、売上回収までのつなぎ融資)
- いくら必要(所要資金)で、どうやって準備する(調達の内訳)のか?
- 調達の内訳は?(自己資金、親・兄弟からの借入、他の金融機関からの借入)
お金にかかわる部分なので、よどみなく答えられないといけません。
「不足した場合は、そのときに考えます」などといった回答は心証を悪くしてしまいますので、数字はしっかりと固めておく必要があります。
事業の見通し
新しい事業の見通しについての質問です。
1か月平均で売上と経費、そして手元に残るお金としての利益の見通しを質問されます。
一般的には創業したばかりの時期と、創業してから1年後(あるいは軌道に乗った頃)の予想数値をすらすらと答える必要があります。
この場面で言い淀むようでは、そもそも計画がまとまっていないのでは?と審査にマイナスの影響を与える恐れがあります。
その他(自由記述欄)
ここは自由に語れる部分で、実は最も重要な部分です。
なぜなら上述の通り、審査がマニュアル化されていますので質問も決まった内容が多くなります。
しかし自由に語れる部分で、自社のアピールポイントや、日本政策金融公庫に支援をしてもらいたい経営課題などを積極的に語れる唯一のチャンスです。
まとめ
日本政策金融公庫は中小企業の味方です。
審査がマニュアル化されてはいますが、だからといって機械的に冷たいという意味ではありません。
中小企業への融資を通し地域経済を発展させるべく、基本的には「融資を実現するため審査に必要な質問」をするのです。
ですから、公庫からの質問には意地悪な内容、引っ掛け的なものなどはありません。
創業を決意した経営者であれば、いずれも自分の言葉でしっかりと答えられるものばかりですので、安心して面談にのぞむといいでしょう。
もちろん数字やデータを丸暗記できない場合に備えて、例えば参考とした「創業計画書」を自分で作り、それを手元において答えても何ら問題はありません。